抜き打ち相棒検定

先月購入した『相棒』関連の雑誌を少しずつ紹介していく。

 

まずはこちら、『刑事マガジン プラスワン』-刑事ドラマ専門誌。

(2006年、辰巳出版)

ざっと見た感じは普通の『刑事マガジン』と変わらない。

※普通の『刑事マガジン』

どこが「プラスワン」なのか。その答えは表紙に書いてあった。

探偵ドラマも掲載しているから、「プラスワン」。すごい切り抜け方だ。

刑事ドラマ縛りの難しさを垣間見てしまった。

 

『刑事マガジン』はのちにvol.8まで刊行されるのだが、この『~プラスワン』も巻数にカウントされており、時系列ではvol.4にあたる。つまり、番外編ではない。

 

さあ、気を取り直して。

ブックオフオンラインで購入。385円。

表紙を飾る『スケバン刑事』、探偵ドラマ枠の『犬神家の一族』、モト冬樹主演の『ヅラ刑事』など、気になるタイトルが目白押しだが、とりあえず『相棒』特集について。

 

水谷豊×寺脇康文 P28~31

杉下右京役の水谷さん、亀山薫役の寺脇さんによる対談。シーズン5クランクイン直後のインタビューということで、話題はシーズン4の裏話やシーズン5以降の展望など。

・「天才の系譜」(S4#16)のラストで右京が姪(便宜上)の杉下花に言った「お母さまによろしく」というセリフは水谷さんのアドリブ。小料理屋・花の里での「お酒ちょうだい」という右京のセリフは和泉監督の発案。

・寺脇さんのなかの設定では、薫は「お姉ちゃん3人と妹」がいるような家庭で育った。

 

川原和久×大谷亮介×山中たかシ P32~35

伊丹憲一役の川原さん、三浦信輔役の大谷さん、芹沢慶二役の山中さんによる鼎談。

・3人でよく飲みに行く。ときには米沢守役の六角精児さんや中園照生役の小野了さんを交えて。

・台本での「トリオ・ザ・捜一」表記が増えた。「伊丹、三浦、芹沢」と字数は変わらないのに。

・川原さんのなかの設定では、伊丹は三浦を「三浦さん」と呼ぶ(のちに放送された「暴発」(S9#6)では実際にそのように呼ぶシーンがある)。

 

松本基弘 プロデューサー P36・37

チーフ・プロデューサーの松本基弘さんへのインタビュー。

亀山薫の姉を戸田恵子さんが演じるという案は、彼の設定を作った当初からあった。

・「第三の男」(S3#6、ゲスト:原田龍二さん)と「ついてない女」(S4#19、ゲスト:鈴木杏樹さん)はキャスティングが先、「監禁」(S4#8、ゲスト:佐藤江梨子さん)は脚本が先。

 

池頼広 音楽 P38・39

音楽担当の池頼広さんへのインタビュー。

須藤泰司プロデューサーからクラブを教わった。二人で汗だくで踊っている。

・シーズン3「潜入捜査」のエンディング曲は池さん自身が弾いている。

 

『SEASON Ⅳ』全話ガイド P40~43

シーズン4(全21話)のストーリー紹介。脚本、監督、ゲストの名前も載っている。

今でこそ新シーズンの放送開始に合わせて前シーズンのソフトが発売されるが、当時はようやくプレシーズンとシーズン1がDVD化された頃。当時のファンはこのコーナーを重宝していたに違いない。

 

撮影現場リポート P48・49

シーズン5初回スペシャル「杉下右京 最初の事件」の撮影現場リポート。

途中、監督の指示で右京のお土産のナスを米沢が持ち上げてお礼を言うことにするのだが、最初六角さんの持ち方が面白く、スタッフの笑いを誘った。

ー48頁より引用。

「川原和久×大谷亮介×山中たかシ」鼎談で話題になっていた「欽ちゃん走りみたいな走り方で署に駆け込む芹沢」のシーンともどもDVDを見直して確認してみたが、演出が変わったかカットされたかで、やはりそれらしきシーンはなかった(ナスを持ち上げる六角さんはいた)。

 

相棒検定 P44~47

44頁より引用。

突然の相棒検定。去年の今頃、『相棒検定』(2008年、辰巳出版)に挑戦したのだが、その萌芽が『刑事マガジン』にあったとは。

aibouninngenn.hatenablog.com

 

今回は全30問。出題範囲はプレシーズンからシーズン4まで。

47頁より引用。

3級の評価が厳しすぎる気がするが、愛ゆえか。

 

全問正解を目指して解いた。予習はしていない。もちろんカンニングも。

解き終わるのにさほど時間はかからなかった。

結果発表は後回しにして、間違えた問題を振り返る。

 

Q3 シーズンⅠの冒頭、ダイナマイト男が薫を人質にとって警視庁の警視総監室に籠城。その交渉中、右京がそのダイナマイト男に渡したタバコの銘柄は?

①ハイライト ②セブンスター ③ホープ ④マルボロ

ー44頁より引用。

ムッズ。

私の解答

勘で答えて間違えた。全問正解の夢、叶わず。

 

Q5 「殺しのカクテル」(Ⅰ)に登場した美和子のおば・アキコと、亡き夫・アルバートとの思い出のカクテルの名前は?

ー44頁より引用。

括弧内のローマ数字はシーズン数を表す。

私の解答

見た目は思い浮かんでいたのに、「ベストパートナー」という名前がどうしても出てこなかった。「ホーム・スイート・ホーム」は同じ話に登場する別のカクテル。ドボン問題を落とした気分だ。

 

Q21 「殺しのピアノ」(Ⅲ)で、右京が最初にピアノで弾いた曲は?

ー46頁より引用。

私の解答

恥ずかしい。断じて狙ったわけではない。

 

Q30 亀山の姉・磯村茜が持ってきたお土産は?

①ういろう ②生八つ橋 ③ささだんご ④萩の月

ー46頁より引用。

シーズン4最終回「桜田門内の変」からの出題。

私の解答

亀山薫は新潟出身。解説によれば、薫の姉を演じた戸田さんは名古屋出身だそう。名古屋名物ういろうもあながち間違いではない?

 

結果発表

1級に合格。私の弱点はタバコとクラシックと主要登場人物の親戚。とりあえず「殺しのカクテル」と「桜田門内の変」を見直さねば。

 

ついでにプレゼントクイズにも挑戦した。

プレシーズンの初回で薫が訪れたバーの店名を答えさせる問題、特命係の立ち上げ当初の名称を答えさせる問題、シーズン3「ゴースト」やシーズン4「告発の行方」のロケが行われた出版社を答えさせる問題の計三問。正解は載っていなかったため自己採点。

選択問題だったため、全問正解することができた。ちなみに、出版社の問題の正解は「辰巳出版」だった。そりゃそうか。

『相棒』のスタッフブログに辰巳出版でのロケにまつわる記事があった。

www.tv-asahi.co.jp

 

 

1冊しか紹介できなかったが、今回はここまで。

『刑事マガジン』、やはり内容が濃い。ぜひともコンプリートしたい。

118頁より引用。

好き。

 

 

<了>



冬の深まり、通信交換。

色違いのタマゲタケをゲットした。やったね。

www.youtube.com

捕獲動画は一週間で200回再生を突破した。念のため言うと、これは多いほう。

人気なのか、タマゲタケ。鳩といい、何が伸びるのかまったく予想できない。

そして、早くも低評価がついた。ふざけるな。

 

これが通常のタマゲタケ。かさがモンスターボールの模様になっているきのこポケモン

 

そしてこれが、色違い。かさの赤色の部分が、薄紫色になっている。

カワイイ。

 

正面はこんな感じ。よく見るとかさの縁の色も微妙に違うが、判別しにくい。

カワイイ。

 

 

数日後、友人にタマゲタケを自慢するために大学に行った。

街は凍てついていた。入試前ということもあり、大学構内は人がまばらだった。

雪塊とわたし。

無事に友人と合流し、吹き抜けの談話スペースでそれぞれ3DSを開く。

普通なら友人宅で遊ぶのだろうが、入室を拒まれたので大学に集まることに。

 

30秒でタマゲタケの自慢を済ませ、ポケモンマリオカートで通信……はせずに、友人の『ポケットモンスター X』を借りて私が持っていないポケモンを二匹ずつ捕獲。私の『ポケットモンスター Y』と『ポケットモンスター オメガルビー』にそれぞれ転送した。

その後、友人の3DSを借りて私のソフト同士で通信交換。それぞれのソフトではゴーストやポリゴンといったポケモンたちが通信進化の時を待ち望んでいた。

 

赤枠の中が通信進化したポケモンたち、黄枠の中は友人にもらったポケモンたち。

左:Y、右:オメガルビー

 

友人は「サンダーのほうが好き」という理由でファイヤーを、「あまりかわいくないから」という理由で色違いのマルノームをくれた。今はポケモンに興味がないとはいえ、おそろしいほど太っ腹だ。

 

午前10時に集合したのに、気づけば午後2時になっていた。

10年越しの念願ということもあり、ポケモン図鑑を埋めるのに熱中してしまった。

最初のうちは私が貸したマリオカートスマブラに興じていた友人だったが、最後のほうはすごく暇そうにしていた。本当に申し訳ない。

 

雪遊びをしながら下山し、松屋で昼食を済ませてカラオケに行った。

ふたりで国家を斉唱し、途中にポケモンバトルを挟み、〆は『We Are The World』斉唱。

初めから大学ではなくカラオケで3DSをやればよかったのだと、その時気づいた。

 

カラオケ代を割り勘したら、割り切れない150円が生まれた。

こういうときはどうするべきなのか、我々にはわからなかった。

結局、友人の提案で近場の神社に行くことにした。割り切れずとも硬貨は二枚あるので、賽銭にはもってこい。ちょっともったいない気もしたが、名案に思えた。

午後6時過ぎ。すっかり日が落ちた住宅街をさまよい、目的の神社へ。駅と大学の往復だけでは見ることがなかったであろう街並みを目に焼きつける。

闇夜の神社に、防寒装備バッチリの黒ずくめ二人組。賽銭泥棒にしか見えなかった。

 

無事に参拝を終え、駅近くのガストで夕食を済ませて解散した。

3DS、雪遊び、松屋、カラオケ、神社、ガスト。子供なのか大人なのかわからないが、とにかく楽しい一日だった。

 

 

翌日、もらったポケモンを進化させた。

 

メガシンカの姿も図鑑に登録した。

 

おかげで、図鑑がかなり埋まった。

 

プレイ時間もかなり増えた。

 

たぶん、10年後も遊んでいることでしょう。

 

 

<了>

『きまぐれ読書メモ』星新一(1981年、有楽出版社)

『きまぐれ読書メモ』は星新一による読書エッセイ集。

現在は絶版で、電子書籍化はおろか星作品としては珍しく文庫化もされていない一冊。

 

 

 

 

 

 

 

 

装幀・カバーイラスト:真鍋博

 

発売所は実業之日本社。発行所は有楽出版社。

www.book61.co.jp

 

星新一が本を読み考えた

これは単なるブックレビューではない。SFの先駆者、優れた伝記作家、星新一が書物を契機に、人間、社会万般にわたって思索し、生み出した傑作エッセイなのだ!!

 

珠玉の読書エッセイ集

 

ここに取り上げられた書物群は168点の多数に達し、その分野はSF、中間小説、純文学ノンフィクション、科学、歴史、漫画、童話 写真、音楽と驚くほど巾が広い。その著者群も、国の内外、有名無名、実に多様だ。これは著者の知識の大きさ、関心の広さ、教養の深さを示すものであり、そこから生まれたエッセイが人を魅了する所以だろう。

ー帯より引用。

 

「気まぐれ読書メモ」になっている。

 

13部構成で、初出はいずれも『奇想天外』(奇想天外社)というSF雑誌。

PARTⅠ~Ⅳ 1978年5、7、9、11月号

PARTⅤ~Ⅹ 1979年1、3、5、7、9、11月号

PARTⅪ~XIII 1980年2、4、6月号

 

目次をまとめている方がいたので、気になった方はこちらを閲覧されたし。

moonshine.hatenablog.jp

 

 

取り上げた本の書名と著者名が各エッセイのタイトル代わりになっているのだが、PARTⅢには「『  』『  』『  』」というものがあり、目次の中でもかなり目を引いた。試しに読んでみたら、こうあった。

 右の空白部分には、翻訳の長編を三冊並べるべきなのだが、けなすつもりなので、わざと書かない。

(中略)オビに意味ありげな文章を書いたやつは、詐欺師である。

(中略)自己の不明のせいなので、文句の持ってきようがない。小説のつまらないのを読まされた被害者連盟、略して小ピ連でも作るとするか。

ー33、34頁より引用。

面白い。これが読めただけでも買った甲斐があるというものだ。

日本は「翻訳大国」だと聞いたことがあるが、その弊害なのかもしれない。

私は中学時代に背伸びをしてエラリー・クイーンの『ローマ帽子の謎』とブラッドベリの『火星年代記』を読んで痛い目を見たことがある。原文や翻訳が悪いなどとは言うつもりはないし、有名な作品なのでそんなことはないと思う。原因は背伸びをしたことに違いないのだ。今読んだら面白いと思えるのかもしれないが、かといって読み返す気も起こらない。背伸びをしたために損をした。

火星年代記』は星新一が絶賛した作品だと知って手に取ったのだが、星新一が読んだのは『火星人記録』というタイトルで、訳者も異なるものだ。身勝手だが『火星人記録』のほうを読んでいたら、などと考えてしまう。いつの日か読んでみたい。

 

話が逸れた。つまらないものはつまらないとハッキリ言う正直さ。見習いたい。

出版社との過去のトラブルについても書いている。このことが文庫化されなかった理由だという説をネット上で見かけたことがあるが、真相やいかに。

星新一自身も文章中で言及しているが、執筆時点で既に入手困難な本が取り上げられていたりもするので、案外そういったことが未文庫化の理由なのかもしれない。

 

時の流れか、私の不勉強か。取り上げられていたのは、読んだことがない作品ばかり。

 エッセーの書き方の見本でもある。つまり、自己の失敗を書けるかどうかだ。学者や役人の随筆のつまらないのは、それができないからである。

ー202頁 PARTⅪ「山田風太郎著『風眼抄』」より引用。

それでもこの本を楽しく読めたのは、星新一が自身の勘違いや失敗を正直に書いているからだろう。

 

文庫でだが、アーウィン・ショーの『夏服を着た女たち』は読んだことがあった。

(1984年、講談社文庫)

日曜日の朝、柔らかな陽に包まれたニューヨーク五番街を散歩する夫婦。久し振りに二人だけの時間を過ごそうと妻はあれこれと計画するが、街を行く若い女性に対する夫の目が気になって……(表題作)。軽妙な夫婦の会話を軸に、男と女の機微を描く洒落た都会小説のエッセンス十篇を収録。

ー裏表紙より引用。

ある時、父が本を処分しようとまとめていたことがあり、その中にこの本があった。私はカバー装画が和田誠によるものであることを理由に、この本と『金田一耕助の冒険1・2』を譲り受けた。和田誠は星作品のイラストも数多く手がけた人物だ。

hoshishinichi.com

数年前に一度読んだきりなので内容はほとんど忘れてしまった。

星新一が「たぶん、この本、書棚の片すみに入れておいて、またいつか読みかえしてしまうだろう」(228頁 PARTXIII「アーウィン・ショー著/常盤新平訳『夏服を着た女たち』」より引用)と書いていることだし、これを機に読み返してみようか。

 

私は現在、PARTⅧで取り上げられている岡本綺堂の『中国怪奇小説集』を読んでいる。

aibouninngenn.hatenablog.com

前にも書いたが、もともとはゼミのレポート課題のために『きまぐれ読書メモ』を買ったのだ。星新一が中国怪談の影響を受けていたなんて、この本を読むまで知らなかった。

 

 

基本的にネタバレはされていないので、この本で取り上げられている作品を読んで「星新一の読書」を追体験するのも一興だろう。稀覯本探しも楽しそうだ。

まあ、積ん読が解消したらの話だが。

 

父に関しては、借金の山を残してくれてと、不肖の息子であることと、そんな感情を抱いてきたはずなのだが、三十年たったいま、自分の作品と同じく、私と切り離せないつながりを持っていたのだと……。

 といったようなのを書けば、教養小説の短編になるらしい。照れくさくて、かなわん。

ー222頁 PARTⅫ「高橋健二選『教養小説名作選』」より引用。

一瞬泣きそうになったのに。

 

やっぱり、星新一はエッセイも面白い。読んでいると気分が落ち着く。

 

 

<了>

無為自然

春休み。今のところ堕落した日々を過ごせている。

休むことに罪悪感を覚えるようでは大学生は務まらない。

去年は左折ができなくて泣いているうちに休みが終わってしまったので、今年こそは。

 

だが、そうは問屋が卸さない。そろそろゼミのレポートに取り組まなければならない。

卒検以来一度も車を運転していないが、結果として去年のうちに免許を取得しておいてよかった。レポートと教習所の両立なんて、できるわけがないんだから。

 

レポートを書くために『聊斎志異』という怪異小説集の完訳版を買った。

 

ブックオフオンラインには入荷する見込みがなかったので、久々にメルカリを覗いてみた。目的の品はあったが、取引メッセージを送るのが面倒で先延ばしにしているうちに他の人に買われてしまった。教訓、欲しいものはすぐに買うべし。

 

教訓を盾に『相棒』関連の雑誌を5冊買った。台本もいくつか出品されていたが、一冊3,000円近くしたので流石に踏みとどまった。

それだって、数日後にまとめて買われてしまった。驚くべきことに、10,000円で出品されていた「BIRTHDAY」の台本も売れていた。まだまだ上には上がいるのだ。

コンビニ払いなので手数料がかかったが、神保町までの交通費だと考えれば安いもんだ。

 

結局、『聊斎志異』はアマゾンで買った。ついでに『相棒』関連の雑誌を4冊買った。

送料がかかったが、神保町までの交通費だと考えれば安いもんだ。

 

聊斎志異』を買おうとしただけなのに、『相棒』関連の雑誌を9冊も買ってしまった。

ブックオフオンラインで購入したものも合わせると、ひと月で13冊になる。

嬉しいけれど、そろそろ、やる気を出すために物を買う行為をやめなければと思う。

 

ちなみに私が買った『聊斎志異』はこんな感じ。函入りの本で、かなりデカい。

ポールと比較するとその差は歴然だ。

500篇近い怪異譚が収録されているようだが、果たして読み切れるだろうか。

こんなデカい本を読むのはニコ・ロビンか私ぐらいだろう。

そういえば『ワンピース』の録画が115週分たまっているが、果たして観切れるだろうか。

 

 

今週の読了本

中島隆博さんの『中国哲学史 諸子百家から朱子学、現代の新儒家まで』

(2022年、中公新書)

春秋戦国時代に現れた孔子老子諸子百家に始まり、朱子学陽明学に結実したのち、西洋近代と対峙するなかで現代の儒教復興に至る中国哲学。群雄割拠から統一帝国へ、仏教伝来、キリスト教宣教、そして革命とナショナリズム。社会変動期に紡がれた思想は中国社会の根幹を形づくった。本書は中国3000年の叡智を丹念に読み解き、西洋を含めた世界史の視座から、より深い理解へと読者をいざなう。新しい哲学史への招待。

ーカバーそでより引用。

 

ゼミの教授の推薦図書だったので読んだ。

寝る前読書でちまちまと、一年近くかかって読了。

新書を読むのは高二の時に父に読まされた『バカの壁』以来。

家長に命令されれば車の免許だって取るし、『バカの壁』だって読む。

俺はこういう人間だ。

 

300ページ超えのボリュームが新書として標準的かどうかは知らないが、とにかく内容が濃かった。100ページまで読んだところで「歴史に関する本を読んで2000字程度のレポートを書け」という中国史の講義の課題が完成したくらいだ。

 

本書は序文と跋文、21の章に分割された本文と4本のコラムから成り、巻末には参考文献と年表、人名索引が載っている。私は「はじめにーー中国哲学史を書くとはどういうことか」と題された序文と「第1章 中国哲学史の起源」から「第5章 礼とは何か」までの記述を軸に、孔子孟子荀子荘子についてのレポートを書いた。同時期に『論語』や『孟子』、『荀子』を講読していたこともあり、理解しながら読み進めることができた。

 

まあ、裏を返せば、ある程度の知識は必要ということで……。例えば「第17章 西洋近代との対決ーーパラダイムシフト3」の冒頭には「洋務運動」(1860年代半ば以降に中国で起こった、西洋の機械技術を導入して軍事的自強を図る運動のことらしい)といった言葉がいきなり登場する。この時もたまたま中国文学史の講義で近代中国について学んだ直後だったので先に進むことができたが、自分で調べることもまた一興だったろうと思う。

 

話が現代に及ぶとかなり複雑になってくるが、この「わからなさ」が徐々に面白くなってくる。受験勉強じゃあるまいし、覚えようとしなくていい。完璧に理解できなくてもいい。繰り返し読めばいい。そういう開き直りのおかげで、ストレスなく読むことができた。中国哲学に少しでも興味のある人や、かじったことがある人は読むべき本だろう。

 

 

寝る前読書として、8冊の本を並行して読んでいる。

別に多読自慢ではない。一冊につき2ページずつくらいしか読んでいないんだから。

塵も積もればなんとやらで、積ん読解消にはひと役買っている。

とりあえず1、2ページずつ読み、気が乗ったものは続きを読む。この読書法は、真心ブラザーズYO-KINGさんがインタビューか何かでおっしゃっていたものだ。

 

(以下、敬称略)

真心ブラザーズが好きで、最近は『GOOD TIMES』というアルバムをよく聴いている。

(1999年8月25日発売)

このアルバムに収録されている「突風」(作詞・作曲:YO-KING、編曲:桜井秀俊)という曲に「まるで日の光に傾く 植物のようさ そよ風には体を揺らし 突風に折れるのもいいだろう」という歌詞がある。

荘子と同様に無為自然を重んじた思想家の老子は、水のような生き方を理想とした。

老子』のその部分の記述を簡単にまとめると、

 

・人は生まれた時は柔弱で、死ぬ時は強張るものだ。

・草木も生まれた時は柔弱で、死ぬ時は枯れてかたくなるものだ。

・ゆえに、堅強なものは「死」の仲間、柔弱なものは「生」の仲間である。

・強い軍隊がやたらと戦って結局負けるのも、かたい木の枝が折れやすいのも、そういうわけである。

・世の中に水より柔弱なものはなく、堅強なもので水に勝てるものはない。

 

……となり、「突風」の歌詞になにやら共通するものがあることがわかる。

 

老子は、水のように柔弱であることを理由に、生まれたままの自然なあり方が人間にとって最上の善だと説き、「仁義」といった人為的な「道」を説く儒家を批判した。かたい木の枝を水に負けるものの例に出して。

 

木の枝に勝る水を善しとする老子と、植物のように折れたっていいと歌うYO-KING。一見すると両者の思想は正反対のように思えるが、「そのまま」すなわち「自然」を善しとしている点では共通している。

 

「突風」には「知識は頭をスルーして 捨てていくのさ 僕は僕の素晴らしき人生の為に 寝っ転がってテレビを見ている」「吹きさらしに体を委ね 変わってゆくのもいいだろう」という歌詞が、同じく『GOOD TIMES』に収録されている「FLYING BABY」(作詞・作曲:YO-KING、編曲:桜井秀俊)という曲には「冷たい手は冷たいまま そのままで 開いた本は開いたまま そのままで」「気になることは気になるまま そのままで」という歌詞があることからも、彼が「そのまま」を肯定していることがわかる。

 

(1999年10月1日発売)

「突風」はのちにシングルカットされた。カップリング曲は「FLYING BABY」である。

 

「そのまま」の姿勢はYO-KINGの作品に通底している。

ソロアルバム『スペース ~拝啓、ジェリー・ガルシア~』に収録されている「世界の元」(作詞・作曲:YO-KING)などはその極北だろう。

(2010年7月21日発売)

そのままで幸せになっていいんだ

ユメは遠く次の世代に引き継がれ

このままぼくら幸せになっていいんだ

君が好きだよ

すべてはそこから 始まりは愛

YO-KING哲学がギュギュッと詰まった名曲集!

 

より善い世界を思索した老子と、市井の「そのまま」を肯定するYO-KING。両者ともに「無為自然」の境地にたどり着いたことが、なんらかの真実を示している気がする。

 

真心ブラザーズには、ほかにも「そのまま」を肯定する曲がたくさんある。

桜井秀俊が作詞・作曲した「バンドワゴン」(『INNER VOICE』収録)や「朝日の坂を」(『Cheer』収録)、「Boy」(『TODAY』収録)のように、歌詞を読むと「老いや別れ、喪失への諦念」が伝わってくるのに、歌として聴くとそれらを肯定しているように、明るく聴こえてしまうような不思議な曲も存在する。

 

 

……調子に乗って書き過ぎてしまった。

老子真心ブラザーズ

頑張ればこのテーマでゼミのレポートが一本書けるかもしれない。

聊斎志異』のレポートも、この調子で終わることを願うばかりだ。

 

 

<了>

無為漠然

8つのテストと2つのレポート課題、それから謎の報告書を一通仕上げて、ようやくブログを再開できた。

テストやレポート課題に追われる点では同じなのに、なぜだか前期末よりも後期末のほうがしんどく感じる。途中で冬休みが挟まるぶん、後期のほうが楽なはずなのに。寒いからなのか。

まあ、考えてもしょうがないことだ。

 

考えてもしょうがないことといえば、夕方の『相棒』の再放送が毎年「ボーダーライン」から始まっている気がするのだけれど、あれはなんでなんだろう。

 

成人式に出席したが、同窓会には出席しなかった。

同窓会の写真だけは見たいと思い、しれっとグループラインに居残り続けていたのだが、ようやく成就した。

もはや写真では誰が誰だかわからなくなっていたが、じっと見続けていると、思い出してくる。楽しいような、虚しいような。

こちらは姿を見せたくないけど、そちらの姿は是非とも見たい。

そんな願いを叶える、同窓会ライブ配信サービス。会費の半値でどうでしょう。

 

成人式の帰りに撮った鳩の動画にコメントが付いた。

www.youtube.com

コメントを無効にするのを忘れていた。その一瞬の隙を突かれてしまった。

鳩の動画は海外での需要が高いようで、今回のコメントも海外の方からだった。

「私は一日中ハトを観察していました」という内容だった。

良いコメントなのか、悪いコメントなのかわからない。

試しにその人のチャンネルを覗いてみたら、登録者が60万人を超えていた。え、こわ。

その日の夜、私のチャンネルの登録者が680人になっているという夢を見た。インフルエンサーに見つかったという設定なのだろう。にしても680という数字、生々しい。

起きてから一応確かめたが、46人のままだった。

46人だって、結構すごいと思っている。

 

ちなみに現在の登録者は48人。

姉の友人がふたり、登録してくれたらしい。鳩の話の流れでそうなったとか。

ブログを見られる可能性も、うんと高くなった。まあ、上等だよ。

 

昨年、私は寸借詐欺に遭った。大学近くのブックオフの前で、500円取られた。

あの男の顔は死んでも忘れない自信があるのだが、その思いが強すぎたのか、最近夢に出てきた。変な理屈をこねて私の家に上がり込んでくる、という夢だった。最悪夢。

それから数日も経たずして、件のブックオフの前で自転車に乗った男に話しかけられた。あの男ではない。

声が小さく、「話しかけられたのだ」と私の脳が認識したときには、すでにかなりの距離になっていた。

だから、スルーしてしまった。悪く思わないでくれ。

 

教職課程を学んでいる友人が、五円玉が結ばれている紐を渡してきて、「手を動かさずに、五円玉に『回れ』と念じてみろ」と言った。授業でやった実験らしい。

すると、みるみるうちに五円玉が円を描き始めた。

ガリレオ』の川口春奈の回でやってたやつだ。そう、ダウジング

友人によれば、五円玉が念じた通りに動く人間は騙されやすいそうだ。知るか。

 

もともとが、人に話しかけられやすい質なのだ。お年寄りや海外の方に道順や乗り換えを聞かれることは日常茶飯事だし、この間は大学構内で留学生らしき人物に謎のアンケートをやらされた。

所属ゼミや回答の用途などはきちんと説明されたが、学科が違うので、そんなゼミが実在するかどうかはわからない。大学のセキュリティの甘さを考えれば、きっとそんな手口で個人情報を抜く輩もすでに存在しているのだろう。考えたくはないけれど。

 

乃木坂のライブに行った。もちろん、父と一緒に。

二階の後方の席だったので、メインステージやモニター、フロートを含めたすべてを見渡すことができた。

 

身長ほどもある大旗を振り回したり、トリプルドラムを打ち鳴らしたり、バーを舞台にアコースティックアレンジされた楽曲を披露したりと、大躍動のメンバーたち。

俯瞰していると、ふと、彼女たちの実在を疑いたくなる。まるで、ホログラムのような、巨大な「何か」に加担してしまっているかのような、そんな気がする。

あっという間の二時間半だった。

 

後ろの席にいた二人組の若者たち。とにかく声がデカかった。

開演前に突然メンバーの名前を叫んだりする。突然叫ぶな。ビクッとするだろ。

大声でコールをするのは結構なことだが、急にコールを止めたり、変なタイミングで歌ったり、MC中に私語をしたりするのには閉口した。

しゃべりまくりジュニアたち、俺は君たちの歌やトークを聞きに来たんじゃないんだぜ。

 

隣の席の男性は、グッズを一切持たず、静かにずっとオペラグラスを覗いていた。

張り込みのようだと思いつつも、MC中は私も姉から借りたオペラグラスを覗きながらニヤニヤしていた。張り込みをするなら、一人より二人だ。

 

うるさい若者と、静か過ぎる男性。差が激しすぎて、ペースを大いに乱された。

サイリウムの色を変えるのに手間取ったり、前にいる人を殴ってしまいそうになったり。いつものことだと言われたら、その通りだけど。

 

父おすすめの味噌ラーメンを食べて、帰路に就く。

夜空には、月とオリオン座が燦然と輝いていた。

 

 

今週の読了本

石持浅海さんの『煽動者』-テロリストシリーズ第二弾。

(2015年、実業之日本社文庫)

日曜夕刻までに指摘せよ。“名前”のない犯人をーー。

テロ組織内部で殺人事件が起きた。この組織のメンバーは、平日は一般人を装い、週末だけ作戦を実行。互いの本名も素性も秘密だ。外部からの侵入が不可能な、軽井沢の施設に招集された八人のメンバー。発生した殺人の犯人は誰か? テロ組織ゆえ警察は呼べない。週明けには一般人に戻らなければならない刻限下、犯人探求の頭脳戦が始まったーー。

解説/笹川吉晴

ー裏表紙より引用。

シリーズ第一作『攪乱者』は連作短編集だったが、今作はガッツリ長編。謎多きメンバー・串本が前作に引き続き登場し、流血によらないボランティアテロ組織の謎も明かされる。

 

舞台は軽井沢、組織が所有する施設に集められた兵器製造専門の細胞のメンバー8人は、細胞のリーダー・三沢から「子供」をテーマに政府を揺さぶる兵器を企画立案、製造することを命じられる。本来なら別の細胞が担当するはずの「兵器の企画立案」を任され困惑する一同だが、翌日午後一時のプレゼンに向けて兵器の方向性について話し合っていく。

ところが、その日の夜、メンバーの一人が自室で遺体となって発見される。殺害は夕食前の休憩時間中に行われ、殺害方法から突発的犯行と思われた。外部犯の可能性は限りなくゼロに近く、警察も呼べない状況に疑心暗鬼となるメンバーたちに、三沢は任務の続行を命じ、組織の人間によって遺体も運び去られてしまう。

殺人という異常事態と、常軌を逸した組織の対応。

メンバーたちはプレゼンを成功させ、殺人犯を突き止めることができるのかーー。

 

石持作品の醍醐味である密室劇を堪能できた。

宿泊施設での殺人は代表作『扉は閉ざされたまま』を、組織の論理と一般常識との乖離の面白さは『カード・ウォッチャー』を彷彿とさせた。

 

組織の正体の面白さ、肯定さえしてしまいそうな結末が、そこにはあった。

 

 

<了>

■Ⅸ~咄嗟の嘘

ガキの頃の俺はバカだった。

リボンを振り回して脱臼したり、木の節穴に指を突っ込んで抜けなくなったり……。

変なことをして痛い目を見たエピソードには事欠かない俺が、今日はとりわけ家族の間で語り草になっているエピソードを、ひとつ紹介しよう。

あれは、小三の初夏、よく晴れた放課後の出来事だったーー。

 

 

 

今日は父さんが休みだ。

そのことを思い出してダッシュする。

走れば早く家に帰れる。これが最近の発見だ。

 

家に着くとマックの匂いがした。

父さんと母さんの昼ご飯がマックだったなら、僕にもおみやげがあるはずだ。

キッチンのテーブルの上には、案の定マックの紙袋があった。

母さんによれば、今日のおやつはシャカシャカチキンらしい。僕の推理は的中した。

 

手を洗い、給食袋を洗濯カゴに入れる。さあ、シャカシャカチキンの時間だ。

 

その前に、僕は棚に置いてある『東京ばな奈』の小箱を開けた。

中は厚紙で四つの空間に仕切られていて、縦長の空間にはそれぞれ立派な蚕の幼虫が住んでいる。

左から、「しんかんせん1号」「しんかんせん2号」「しんかんせん3号」「しんかんせん4号」。

電車が好きだったわけじゃないから新幹線の数え方が「号」なのかもわからなかったけれど、見た目に合った良い名前だと思っている。見分けがつくかは、自信がないけど。

「しんかんせん」たちはもぞもぞと動いていた。箱の底にはフンがちらほら、餌となる桑の葉はほとんど無くなっていた。

 

校庭で桑の葉を採るつもりだったのに、すっかり忘れていた。

 

うーん。面倒だ。正直、今すぐチキンが食べたい。

だが、チキンを食べたら絶対に行く気が失せる。

そんな僕の考えを見抜いたのか、「先、行っちゃいなさい」と母が言った。

 

 

手ぶらで学校に行くのは、なんだかドキドキする。

でも、帰る途中の友達や居残りしてる同級生に「どうしたの?」と聞かれるのは特別な感じがして悪くない。

「まあ、ちょっとな」

かっこつけてテキトーにやり過ごす。

 

いつもよりちょっと多めに葉を採って、任務完了。

家に帰って、フンを掃除して葉を食べさせれば、晴れてチキンにありつける。

 

今日二回目の帰り道。

中途半端な時間帯だからか、道には誰もいなかった。

 

そのとき、ある衝動が僕の脳内を支配した。

 

目をつぶって走りたい

 

 

 

……まあ、それからのことはお察しの通りだ。

目をつぶって歩道を激走した俺は、路上によくある焦げ茶色の鉄の箱(「変圧器」というものらしい)の角に激突した。

鈍い衝撃音とともに視界に波紋のような集中線が広がり、俺は尻もちをついた。

グワングワンと頭の中で音がする。一拍遅れて、激痛。

顔の右上に信じられないほどデカいたんこぶができた気がした。

 

だが、それは錯覚だった。

おそるおそる右の眉尻のあたりを触ってみると、バカデカいたんこぶなど無かった。

その代わり、右手の指先は赤く濡れていた。

その途端、俺の意識はブラックアウトしたーー。

 

 

というのは言い過ぎで、俺は自力で家に帰った。

血を見た直後は、誰かに声を掛けて欲しくて地面に伏せてみたりもしたのだが、人通りがゼロだったのが裏目に出た。だから、ティッシュで傷を押さえて家まで歩いた。

 

俺の傷を見た父と母は取り乱し、「どうしたの」「車とぶつかったの」「撃たれたの」などと聞いてきた。

真実を話せばめちゃくちゃ怒られると思った俺は、「ツバメの巣に気を取られてよそ見をしていたら鉄の箱にぶつかった」と大嘘を吐いた。

ちょうど俺がぶつかったあたりに毎年ツバメが巣を作る家があって、ちょうどそのときもツバメがそこに住んでいたのだ。

 

どんな状況でも人は嘘を吐けることを、俺はそのとき知った。

 

父の運転する車で近所の病院に担ぎ込まれた俺は、施術台を冷や汗でビチョビチョにしながら「消毒だけでいいです」と先生を泣き落としにかかったわけだが、そんなものが通用するはずもなく、注射と針と糸を用いた極めて適切な手術を受けた。

 

後から聞いた話だが、俺が手術を受けている間、父と母が立て続けに貧血になっていたらしい。本当に悪いことをした。

 

 

幸い、頭部に異常は見られず、その日のうちに帰宅できた。

ポケットの中でくたくたになった桑の葉を「しんかんせん」たちに与え、ようやくチキンにありつく。

 

長いおつかい、長い一日だった。

 

夜、ベッドに腰かけてボーっとしていたら、父がやってきた。

「大変な思いをして採ってきた葉っぱ、みんな感謝してるよ」そう言ってくれた。

労いの言葉に、目頭が熱くなる。

目をつぶって走っていただなんて、口が裂けても言えない。

 

 

あれから十年以上経ったが、未だに父には言えていない。

母には早い段階で打ち明けた。爆笑された気もするし、叱られた気もする。

当時の父は「気乗りしないときに行かせたからだ」と母のことを責めていたらしい。

そんなことがあったなんて、知らなかった。

 

母さん、ごめんなさい。父さん、全部、俺のせいなんだ。

 

 

 

以上で俺の話は終わりだ。「消毒だけでいいです」は俺の名言となり、ことの真相を知らない父は、今でもツバメを見ると「よそ見するなよ」とからかってくる。

 

傷の部分だけ眉毛が生えなくなってしまったが、幸い、傷痕自体は目立っていない。

同僚の中でもめざとい奴が時折傷のことを聞いてくるが、そんなときは「まあ、ちょっとな」と濁す。

考えが行き詰まったときは、古傷が痛むフリをする。まったく痛くないけど。

こういうことは、ぼかしておいたほうがいい。名誉の負傷だと思わせられれば勝ちだ。

 

そう、俺は「クール・ガイ」で通っている。

 

あと数センチずれていたら右目が潰れていたと考えると、クールどころの話じゃない。

そうならなかったのは、偶然、あるいは神様のきまぐれなのかもしれない。

 

こんな俺から未来世代に言えることはただひとつ。

 

目をつぶって走るな

 

 

 

<了>

バズーカの蓋

成人式の前日に、小・中時代の親友から「明日会わないか」という旨のLINEが来た。

それまでは「一生に一度を、一瞬で」というコンセプトのもと成人式RTAに挑戦するか、出席したフリをして海岸やブックオフで時間を潰すかの二択だったが、やらずに済むなら幸いだ。

 

 

急ぎ足で駅へ向かう。ネクタイの長さ調節に手間取ってしまった。

閑散とする改札口に、彼はいた。

見違えるほど背が伸び、メガネも髪型もスタイリッシュになっていた。

だが、歩き方やしゃべり方、「荷物になるから」という理由でコートを着てこないところは昔のままだ。

 

互いのこれまでとこれから、同級生についての話が弾む。

うんうんと話を聞いてくれる彼。変わらない安心感。

高校、大学、文系・理系……。勝手に距離を感じていた自分が馬鹿らしく思えた。

 

会場周辺の喧騒が嘘のように、ホールの中は静かだった。

案内に従い前方の席へ。来るのが少し早かったようだ。

しかし、それも束の間だった。

 

ついに式が始まった。ライブ配信もされているらしい。

国歌と市歌を本域で歌う。合唱コンを思い出す。

よく知らない著名人からのメッセージ動画を観る。

偉い人の話を聞く。もうそろそろフィナーレか。

 

突如、バンドの演奏が始まった。前方の席、おまけにスピーカーの正面に位置していたため、ビクッとなる。周りのみんなもビクッとなっていた。

最後に両サイドからバズーカが発射され、大団円。言うまでもなく、ビクッとなった。

大量の金テープが宙を舞う。その直後、私の足元に黒い物体が墜落した。

友人と顔を見合わせ、金テープを拾ってから退場。

 

大混雑の駅前ロータリーを抜け、駅へ。

袴を着た暴走族こそいなかったものの、新成人の名前や電話番号と思しき漢数字が印刷されたのぼり旗がいくつも立っていた。

いくつか見知った顔があり、言葉を交わした者もいたが、みな一様に垢抜けていた。

中学卒業以来、知り合いとめっきり会わなくなったと思っていたが、会ってもわからなくなっていただけだと気づいた。

 

一駅移動して日高屋で昼食。私が緊張せずに注文ができる数少ない飲食店だ。

私はラ・餃・チャセットを、彼は油そばを注文した。

思えば、彼と外食するのは初めてかもしれない。

スーツ姿で油そばと格闘している横顔に、うまうまとチョコバーをかじっていた頃の面影を見出し、心の中で微笑む。

「なんかシュールな顔してたよ」と言われてしまった。表情に出ていたらしい。

 

駅で電車を待つ。まだ昼だから遊んでも誰にも咎められることはないはずだが、ふたりの間には、満腹感、そして満足感が漂っていた。

毎週土曜日、青少年の家で3DSを通信して遊んでいたときも、いつも昼解散だった。

私が午後にスイミングスクールに通っていたためであるが、ふたりとも「ご飯は家で食べるもの」という認識を共有していたのだと思う。

そのときの名残なのだろうか。

「あの頃がいちばん楽しかった」彼はそう言った。

あの頃には、もう戻れない。少し苦しくなった。

 

ブックオフに行かないかと誘ったが、断られた。

気が乗らないときは、断ってくれる。良き友である。

途中下車をして、ブックオフに行こう。店舗受け取りの期限が迫っている。

別れ際、「ありがとう、助かった」と言われた。

彼は彼で、成人式に出席したフリをしてゲーセンで時間を潰すことを考えていたらしい。

今となっては学問分野も趣味も異なるふたりだが、どこまでも似た者同士だった。

互いに「誘われ待ち」をしていたことも、「出席しない」という選択肢が念頭になかったことも。

 

ブックオフに行き、途中で鳩の動画を撮り、帰路に就く。

私は小学生の頃からブックオフに行っている。あの頃と何も変わっていない。

 

 

家に着いてコートを脱ぐと、ポケットに何かが入っていることに気づいた。

取り出してみると、見覚えのあるものであった。

成人式のフィナーレ、バズーカから金テープが発射された直後に私の足元に飛んできた黒い物体。

おそらく、バズーカの蓋だろう。

 

ノリで持って帰ってきてしまったが、まずかったかもしれない。

スポンジ素材だから同じ用途で繰り返し使えるだろう。

もし今も、会場でこの蓋を探している人がいるとしたら。

見つからなかったことで新たな蓋を作ることになったとしたら。

それは環境問題、税の問題に繋がりはしないか。

私の頭に「逮捕」の二文字が浮かんだ。そういえば、式はライブ配信されていると言っていなかったか。その映像が証拠となって捕まるーー。

 

いやいや、待て待て。落ち着け。

そもそも「持って帰るな」とは言われていない。そりゃ「持って帰っていいよ」とも言われてないけどさ。そんなこと言ったら金テープはどうなる。みんな持って帰ってたぞ。

それに、ほら、よく見たら一部が欠けている。安全性を考えたら、これを使いまわす可能性は低いだろう。

だが、使いまわされた結果の欠損にも思える。

うーん。常識の壁。何で持って帰ってきてしまったのだろう。

 

不安を紛らすために「バズーカ 蓋 持って帰る 逮捕」などで検索してみたが、私と同じことをした人のツイートが一件ヒットしただけだった。

とりあえず、バズーカの蓋を持って帰って捕まった人はいないようだ。

 

今更返しに行くわけにもいかない。だいいち、なんと説明したらいいのかわからない。

とりあえず、返す用意はあります。

 

変なタイミングで変なことをしてしまう。そんなところも残念ながら変わっていない。

 

 

<了>