数週間ぶりに外出をした。
隔離されていたわけでも、監禁されていたわけでもない。
単に用事がなかっただけ。出不精の極み。
家を出て、北へ北へと歩いて行く。
晴れた午後だが、思っていたよりも寒い。
陽光と花粉が目に染みる。
土曜日だからか、いつもより人が多い。
ウォーカー、ランナー、ジョギンガー。
さほど広くはない道で、さまざまな人とすれ違う。
真ん中を歩き続けるお年寄り、横一列を維持するカップル。
右へ左へ、そんな人たちを躱して前へ。
今度は少年がやってきた。
歩きスマホをしながらサッカーボールを蹴っている。
おそるべき、マルチタスクの申し子だ。
注意すべきか迷ったが、自分が不審者情報に載る歳だと思い出し、やめた。
久々の外出。些細なストレスも久々だ。人間には不可欠で、不可避なもの。
街は変化していた。
廃倉庫はカーショップに、パソコンショップはスターバックスに。
冷えた足先が温まってきた。手も芯から徐々に。表皮との温度差が気持ち悪い。
ブックオフは混んでいた。
棚を見るのは諦めて、ネット注文した品を受け取る。
この3分のために三駅歩いた。悪くないだろう。
ちょっと遠回り、海沿いの遊歩道を歩いて帰る。
「つり禁止」の標示をものともしない常連アングラ―たちがおらず、閑散。
みんなスタバにでも行ったのか。
やはり、人がいないところを歩くのは気持ちがいい。
人間には適度なストレスが必要だと最初に考えたのは、満足な散歩ができなかった者に違いない。
どちらかといえば汚い海に、カモみたいな鳥がたくさん浮かんでいる。
沖に出ることもできるだろうに、どうして彼らはいつも岸際にいるのだろう。
餌付けされているとも思えない。
出れるのに出ない。僕みたいだ。
一年前は、よくここで海を眺めていた。
特になにもないときも、いやなことがあったときも。
左折で脱輪したとき、ハンコがもらえなかったとき、卒検に落ちたとき。
全部教習所じゃねーか。
帰宅。一時間くらいしか経っていなかった。
体は薄ら汗ばみ、既に両脚が痛い。気分はいい。
受け取った品を確認する。
東洋文庫の『子不語』、またしても中国怪談。
カバーを外した文庫本のような書影だったのでどんな代物かと思っていたが、まさか函入りだったとは。一般的な文庫よりも一回り大きい。
レポートや卒論で必要になるかはわからないが、持っておいて損はないだろう。
純粋な読みたさもある。読むのはだいぶ先だろうが。
そろそろレポートに取り組まなければ。
星新一の絶版エッセイについて書いた記事が、どういうわけか「編集部おすすめ」にピックアップされ、結果としてたくさんの方に読んでいただけました。
このような挨拶をするのが普通なのかはわかりませんが、私にとっては触れずにいられないほどの出来事でしたので、遅ればせながらお礼申し上げます。
読んでくださった方、スターをくださった方、読者登録してくださった方、本当にありがとうございます。
<了>