忘れてはまた、新鮮に驚く。

ゼミのレポートを書き始めてから、気がつけば一か月。

小二の頃から「宿題は帰ったらすぐ済ます派」だった私にとって、課題を後回しにして長期休暇の前半を過ごしたことはアウトローな体験だった。

書くべきことが決まるまではやる気が出ないし、決まったら決まったで「まあ、まだ大丈夫」と謎の余裕が生まれる。進捗は日によってまちまちだったが、提出日まで数日を残して、なぜか急激にレポートは完成した。

「〆切」は、破ったことがない者に対しては絶大な効果を発揮するらしい。

Z会の提出目標日は破りまくっていたのに。自分でも不思議だ。

 

レポートにかかりきりだったおかげで、休みが終わる絶望感を味わわずに済んだ。

ギリギリまで課題に取り組むことの数少ないメリットかもしれない。

 

前回に引き続き、レポートでは星新一作品と中国怪奇譚の比較を行なった。

星新一のエッセイ集『きまぐれ読書メモ』には岡本綺堂訳『中国怪奇小説集』を取り上げた章があり、そこには「中国怪談はつとめて読んできた」という記述がある。

しかし、具体的な書名は挙げられておらず、公式HPや評論の記述から確実に読んでいたと判断できる『聊斎志異』でさえ、レポートで取り上げるためには60年以上前の雑誌「宝石」を確認する必要があった(孫引き、ダメ。ゼッタイ)。

 

「宝石」誌は途中で版元が変わっており、データベースでの検索は地味に難儀だった。おまけに、私が通う大学の図書館には該当する製本雑誌は所蔵されていなかった。

煩雑であろう手続きをしない限り、私が「星新一が読んだ中国怪奇譚」としてレポートで取り上げることができるのは『中国怪奇小説集』だけ。要するにそういうことだ。

 

ちょっと頭を抱えた。A4三枚が最低ラインのレポートなら『中国怪奇小説集』だけでなんとかなるかもしれないが、私は卒論でも星新一を扱う予定なのだ。

 

そんな時、この本の存在を思い出した。

『きまぐれ星からの伝言』(2016年、徳間書店)-星新一生誕90周年を記念して刊行されたバラエティブック。編者である牧眞司氏が選りすぐったショートショート5編のほか、初収録のエッセイ・翻訳・インタビュー等を読むことができるファン必携の一冊。

 

発売当時すでにいっぱしの星新一ファンだった私は、もちろん発売直後にこの本を買って読んでいた。刊行を記念して新宿の紀伊國屋書店で開催された「星新一が可愛がっていたクマのぬいぐるみと握手できるイベント」への参加も本気で考えていたが、体育祭の翌日でダウンしていたか何かで結局叶わなかった(我が中学校の体育祭は昨今のスクール・コンプラなら抵触してもおかしくないほどハードだった)。

 

星新一の没後に生まれた私にとって、この本や『さあ、気ちがいになりなさい』(ハヤカワ文庫SF)が刊行された2016年は、初めて星新一の「新刊本」を買った、忘れがたき年である。

ミリタリックな中学校生活を乗り越えられたのは、間違いなく星新一のおかげだろう(もちろん『相棒』も)。

 

久々だからか、どうもセンチになってしまう。話を戻そう。

昨年、レポートを書くにあたって『きまぐれ読書メモ』以外のエッセイ集はあらかた読み返していたのだが、この本に収録されているインタビューの類は迂闊にもチェックしていなかったのだ。

藁にも縋る思いでページをめくると、驚くべきことに、インタビューでは佐藤春夫訳の中国童話に言及しているし、幻想文学についてのアンケートでは『中国怪奇小説集』や『聊斎志異』のみならず、私が先月購入した『子不語』の名を挙げているではないか。

一度読んでいるのだから「驚く」も何もないのだが、ちょっと頭を抱えた。

 

おそらく当時の私は、『聊斎志異』や『子不語』の読み方がわからずに、字面を追うだけで読んだ気になっていたのだろう。記憶に残っていなかったとしても無理はない。

ましてや、中一の私が大学で中国文学のゼミに入ることを予期するなんて無理な話だが、昨年にこの本の存在に思い至ってさえいれば、レポートへの不安や参考文献入手のためのあれこれは、いくらか軽減されていたはずだ。ああ、灯台下暗し。

 

まあ、今気づけて良かった。扱える中国怪奇譚や参考文献は増え、今回のレポートはかなりのボリュームになった。結果オーライだ。

 

それにしても、星新一と中国怪奇譚との接点を忘れた状態でたまたま中国文学のゼミに入り、星新一と中国怪奇譚の共通性に「気づく」なんて、とんでもない奇跡じゃないか。

 

星新一パワーで、このまま突っ走りたい。

 

 

結果的に大嘘を吐いてしまったことになる。

 

 

<了>

サンポファスター

数週間ぶりに外出をした。

隔離されていたわけでも、監禁されていたわけでもない。

単に用事がなかっただけ。出不精の極み。

 

家を出て、北へ北へと歩いて行く。

晴れた午後だが、思っていたよりも寒い。

陽光と花粉が目に染みる。

 

土曜日だからか、いつもより人が多い。

ウォーカー、ランナー、ジョギンガー

さほど広くはない道で、さまざまな人とすれ違う。

真ん中を歩き続けるお年寄り、横一列を維持するカップル。

右へ左へ、そんな人たちを躱して前へ。

 

今度は少年がやってきた。

歩きスマホをしながらサッカーボールを蹴っている。

おそるべき、マルチタスクの申し子だ。

注意すべきか迷ったが、自分が不審者情報に載る歳だと思い出し、やめた。

久々の外出。些細なストレスも久々だ。人間には不可欠で、不可避なもの。

 

街は変化していた。

廃倉庫はカーショップに、パソコンショップスターバックスに。

冷えた足先が温まってきた。手も芯から徐々に。表皮との温度差が気持ち悪い。

 

ブックオフは混んでいた。

棚を見るのは諦めて、ネット注文した品を受け取る。

この3分のために三駅歩いた。悪くないだろう。

 

ちょっと遠回り、海沿いの遊歩道を歩いて帰る。

「つり禁止」の標示をものともしない常連アングラ―たちがおらず、閑散。

みんなスタバにでも行ったのか。

 

やはり、人がいないところを歩くのは気持ちがいい。

人間には適度なストレスが必要だと最初に考えたのは、満足な散歩ができなかった者に違いない。

 

どちらかといえば汚い海に、カモみたいな鳥がたくさん浮かんでいる。

沖に出ることもできるだろうに、どうして彼らはいつも岸際にいるのだろう。

餌付けされているとも思えない。

出れるのに出ない。僕みたいだ。

 

一年前は、よくここで海を眺めていた。

特になにもないときも、いやなことがあったときも。

左折で脱輪したとき、ハンコがもらえなかったとき、卒検に落ちたとき。

全部教習所じゃねーか。

 

帰宅。一時間くらいしか経っていなかった。

体は薄ら汗ばみ、既に両脚が痛い。気分はいい。

 

受け取った品を確認する。

東洋文庫の『子不語』、またしても中国怪談。

カバーを外した文庫本のような書影だったのでどんな代物かと思っていたが、まさか函入りだったとは。一般的な文庫よりも一回り大きい。

 

レポートや卒論で必要になるかはわからないが、持っておいて損はないだろう。

純粋な読みたさもある。読むのはだいぶ先だろうが。

 

そろそろレポートに取り組まなければ。

 

 

 

 

 

aibouninngenn.hatenablog.com

星新一の絶版エッセイについて書いた記事が、どういうわけか「編集部おすすめ」にピックアップされ、結果としてたくさんの方に読んでいただけました。

 

ブログ内のランキングも変動。

このような挨拶をするのが普通なのかはわかりませんが、私にとっては触れずにいられないほどの出来事でしたので、遅ればせながらお礼申し上げます。

 

 

読んでくださった方、スターをくださった方、読者登録してくださった方、本当にありがとうございます。

 

 

<了>

いつの日か やってみたいな 座談会

積んでた未読の『相棒』雑誌も、残り一冊。

 

ダ・ヴィンチ 2014年6月号』-『相棒』大特集。

(2014年、KADOKAWA)

今更こんなことを言っても説得力ゼロだが、脚本が掲載されているものや休刊している『刑事マガジン』以外、極力雑誌は買わないようにしている。キリがないからだ。

だが、この『ダ・ヴィンチ』は別。

ハセベバクシンオーさんの書き下ろし小説が載っているから。

ブックオフオンラインでお気に入り登録をしてサイトに日参していたのだが、去年突然リストから消えた。登録している商品の取り扱いが終了すると、往々にしてこういうことが起こる。

そういうわけでメルカリで購入。

 

裏表紙はこんな感じ。

ブルーレイ発売決定!!

そういえば、2006年の『刑事マガジン プラスワン』には『相棒』初DVD化の広告が載っていた。それに比べるとプレシーズンからシーズン8のブルーレイ化は意外と最近だな。や、それでも10年前だ。

 

インタビュー 水谷豊 P16・17

・「相棒の世界は、シリアスな面も、コミカルな面も両方あるところが魅力。成宮さんは若いのに、その二面性のある世界にちゃんとはまれるキャパがあって、両方の世界を作りごとではなく自然に演じられる」

・「これから先は、今まで以上にコンビネーションが生かされることもあるでしょうし、逆に、今まで以上のぶつかり方をすることもできるだろう、と思いますよ」

ddnavi.com

 

インタビュー 成宮寛貴 P18・19

・「初代の亀山(薫)さんや、2代目の神戸(尊)さんには、最初からしっかりとしたキャラクターがあって。僕もある程度キャラクターをフィックスしてスタートしたかったんですが、今回はそれをなしでやりたい、と事前に言われてしまいまして。なので、すさまじい緊張感の中で始まったんですよ(笑)」

ddnavi.com

 

最新作『相棒 -劇場版Ⅲ-』解説+輿水泰弘インタビュー P20・21

・「『第一容疑者』や『心理探偵フィッツ』、イギリスのミステリードラマが好き」

・「国防は、6年くらい前からずっと扱いたかったテーマ」

・「孤島を舞台にしたのは、バラエティ番組の『よゐこ無人島0円生活』が好きだったから(笑)」

・「映画もドラマも、『相棒』はいろんな楽しみ方ができます。あなたの好きな『相棒』を見つけていただけたらと思いますね」

ddnavi.com

 

5分で分かる!『相棒』講座 P22・23

松島直子さんによる描き下ろし漫画。『すみれファンファーレ』の主人公・川畑菫(10歳)が、沖縄みやげを届けに来たご近所さんに『相棒』の魅力を語る。映像編集にまで言及する菫さん、恐るべし。

『すみれファンファーレ』には『相棒刑事』というオマージュドラマが出てくるらしい。

 

「ヒマじゃない夜」 ハセベバクシンオー P24~27

米沢守を主人公にしたオリジナル小説シリーズや『相棒』の脚本を手掛けたことでおなじみのハセベさんによる書き下ろしスピンオフ小説。

とあるバーを舞台に、「ヒマかっ?」でおなじみ角田課長の意外な一面が描かれる。飄々とした課長とハードボイルドの相性の良さたるや。欲を言えばもっと読みたい。洒落たオチのあとにはグラビアが1ページ。粋だ。

 

発表!マイベスト右京 P28~33

総勢16名の漫画家・イラストレーター(東村アキコさん、五月女ケイ子さん、細野不二彦さん、もんでんあきこさん、銅☆萬福さん、岩岡ヒサエさん、月島綾さん、七海慎吾さん、柳原望さん、高口里純さん、私屋カヲルさん、赤星たみこさん、反転邪郎さん、江本晴さん、rinさん、朝陽昇さん)が「一番好きな杉下右京の姿」を描き下ろしイラストで発表。

具体的な仕草や場面を切り取る方もいれば、「杉下右京、五歳」や「杉下右京 トイレ掃除をする」など妄想を炸裂させている方も。あるイラストを見て思ったのだが、確かに、右京さんはいい匂いがしそう。

 

ミステリー作家が語る『相棒』 P34・35

「館」シリーズの綾辻行人さんと、「福家警部補」シリーズの大倉崇裕さんが、『相棒』との出会い、好きなエピソード・キャラクターをミステリー作家目線でそれぞれ語る。

・「何でもできる枠組みを、何シーズンもかけて作ってきたわけですから、個人的にはもっといろいろな冒険をして、型にはまらないものを作ってほしい」(綾辻さん)

・「一般に成長物語というのは多いですけど、最初から出来上がった天才が未だに揺らがないというのは、キャラクターとしてすごく好きですね。成長は相棒に任せている、そのシステムも上手いですよね」(大倉さん)

ddnavi.com

大倉さんはノベライズ作品『相棒 season12 下』の解説も務めており、現在は劇場版『名探偵コナン』シリーズの脚本を櫻井武晴さんと交互に担当している。

 

ミステリー小説入門 P36・37

「ミステリー評論家・千街晶之が『相棒』ファンに贈る」とある。

紹介されている小説で読んだことがあったのは、太田愛さんのものと葉真中顕さんの『ロスト・ケア』のみ。大倉さんの「福家警部補」シリーズもそうだが、積んでしまっているものも紹介されていた。早く読みたい。

ddnavi.com

 

『相棒』ファン座談会 P38・39

編集者の中田景子さん・倉地潤さん、漫画家のアキヤマ香さん、ライターの松井美緒さんによる座談会。脚本家や俳優の話のほか、それぞれが「マイベスト脇役・事件・犯人」を発表。

倉地さんがシーズン12最終話「プロテクト」と『カラマーゾフの兄弟』の共通点を指摘していたのが興味深かった。シーズン10には「罪と罰」というタイトルの作品があることだし、『相棒』研究のためにドストエフスキーを読む必要がありそうだ。長そうだし難しそうだが、いけるか……?

 

いい写真。

39頁より引用。

 

 

やってみた。

 

 

憧れるのをやめましょう。

 

 

<了>

ナメてんじゃねえぞコラ2013

『相棒』関連雑誌、今回は2013年に公開されたスピンオフ映画『相棒シリーズ X DAY』にまつわるもの。

 

『日本映画navi vol.38』(2013年、産経新聞出版)-PLATINADATA

ブックオフオンライン。220円。

★特写&インタビュー 川原和久 P42~45

・「車の上を走るのも、『アクションシーンは頑張ってもらいます』と、監督から初めて聞かされた時は冗談だと思ったんですよ。台本ではそこまで派手なシーンじゃなかったから。でも、画コンテができてきて」116ページの「映画紹介」によれば、アクション用の画コンテ作られるのは『相棒』では珍しいことらしい。

・「捜査一課や組対五課の日常を出せたのはよかったんじゃないかな。いつもは右京が全部解決しちゃいますけど、じゃあ右京が事件に関われなかったらどうなるんだろうってことです」

 

『X DAY』と同じく橋本一監督がメガホンを取った『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』の製作現場密着リポートも載っていた。『相棒』の主要スタッフが参加している作品である。

 

今回購入したものではないが、<『相棒』捜査一課 伊丹憲一>という最高のムック本も存在するので念のためお知らせする。

(2013年、ぴあ)

模試の帰りに寄り道してこの本を買った、中三の冬の日のことは一生忘れないだろう。

 

月刊『シナリオ 2013年4月号』-アマゾンで購入。

(2013年、シナリオ作家協会)

劇場版にあたって 櫻井武晴 P78・79

・「事件物を書く時には、『架空の憂鬱』を作るよりも、『憂鬱な日常』を丁寧に扱うべきだと考えている。その上で『架空』にできるのが事件物のフィクション作家だ」

・「今回の劇場版にあたっては『スケール感』が欲しいと言われた。でもお金はそんなにかけられないとも言われた。両立する手としては『憂鬱な日常』にスケール感のあるものを選ぶしかない。そこでこの題材を選んだ」

・「見栄を張らずに「難しいことは分からない」と言える伊丹のような人物が、この題材の主人公に向いていると思った。その対極にある主人公として岩月を作り、題材の支援役として右京、神戸、雛子たちクレバーな人々に頑張っていただいた」

・「テレビドラマ『相棒』を見てくれている人のために、ドラマでは見せなかったレギュラー陣の組合せや動きも投入してみた」

 

『相棒シリーズ X DAY』 脚本:櫻井武晴 P80~114

東京明和銀行のシステム部社員・中山雄吾の転落死体が発見された。遺体の傍らには100万円の束が燃やされた痕跡が、ビルの屋上には争ったような足跡があったことから捜査一課は殺人と断定。被害者宅での鑑識・押収作業に向かおうとした矢先、現場にサイバー犯罪対策課の捜査官・岩月彬が現れる。死亡した中山は複数の端末を経由してネット上に謎の「半角英数データ」をアップしており、不正アクセス容疑でマークされていたのだ。伊丹は岩月を中山宅の捜索に誘うが、岩月は管轄外の事件には興味がないらしく……。反目するふたりを待ち受ける真実とは。

・川原さんがおっしゃっていた通り、脚本には「車の上を走る」といったアクションの指定はなかったが、冒頭の「ーー岩月彬。その顔に変化する様々な半角英数が飛び込みーー」や、ラストの「と、カードを入れる穴からATMを覗いた。ATMの中ーー薄暗い中に唸るような札束があり、ブラックアウトーーエンドロール、せり上がる」など、私が勝手に橋本監督の演出によるものだと考えていた箇所が、脚本に存在することが判明した。

・金融封鎖に関するト書きが詳細。

・伊丹と岩月の小競り合いの部分はアドリブが多い。例えば、脚本の

岩月「聞きわけ良くなりましたね(行く)」

「この野郎」「褒めたんです」と言いつつ去る二人。

という部分は、

岩月「聞きわけ良くなりましたね(行く)」

伊丹「犬かよ俺は。ナメてんじゃねえぞコラ(追う)」

になっている。このような差異を探すのが醍醐味である。

 

購入した月刊『ドラマ』や『シナリオ』を読んできたが、その中には片山雛子衆議院議員が登場する話が含まれていた。『X DAY』で駆け引きの材料となる「改正通信傍受法案」は『相棒 -劇場版-』の冒頭でも言及されたものだ。ほかの脚本家が作った設定を引き継ぎ昇華するのは『相棒』お家芸のひとつだが、櫻井武晴は特に長けていたことを改めて実感した。

 

 

気づいたら『相棒』の脚本が載っている雑誌がほとんど揃っていた。嬉しい。

残すは「潜入捜査」(シーズン3 脚本:輿水泰弘)が掲載されている月刊『ドラマ 2005年2月号』のみ。

行くか、神保町。

 

 

<了>

月刊ドラマを、読む。4

メルカリで買った神戸期の月刊『ドラマ』を読む。

値段はだいたい定価くらい。ブックオフオンラインでの取り扱いは終了している品々。

 

『ドラマ 2011年2月号』-『相棒 season9』シナリオ特集。

(2011年、映人社)

「最後のアトリエ」 脚本:太田愛(「作者ノート」あり) P68~84

※若干の修正が見られるものの『相棒 シナリオ傑作選2』(2011年、竹書房)にも収録(「作者ノート」は除く)。

夭折の天才画家・有吉比登治の回顧展を前に、主催するイベント会社の社長が撲殺された。捜査一課が業務上のトラブルの線を追う一方で、右京は現場に落ちていた新刊案内のチラシに着目。尊との聞き込みの際に出会った老画家・榊隆平が事件に関与していることを直感する。有吉の在りし日の友人だという榊は、自身を画家とは認めないほどの偏屈な人物で……。

放送内容との目立った差異はなかった。倒叙ミステリに近い作品だと認識していたが、「作者ノート」の「そこにありながら一度も見られることのない榊の絵は、近藤監督の心憎い演出によって、贋作疑惑をより強く匂わせるものになっていました」という記述によって、「そういう意図があったのか」と今更気づいた。何度も観てきたはずなのに。

 

「暴発」 脚本:櫻井武晴(「作者ノート」あり) P85~102

関東貴船組系二見会の一斉摘発の最中、構成員一名の銃殺体が発見された。死亡から時間が経っていたため逮捕された構成員の誰が撃ったかはわからず、それどころか誰も死亡した男の名前すら明かそうとしなかった。そんな中、厚生労働省麻薬取締部の五月女という男が警視庁を訪れ、内偵情報や資料を提供する代わりに二見会の薬物容疑の送検をさせてほしいと“相談”を持ちかけてきて……。

・「作者ノート」によれば「右京と尊の考えの差が見える話というリクエスト」があった。「右京は楽な方へ流れない。己の正義を貫くために法の不備を使うが、不備な法だから守らなくていいとは思わない。信念の先に残酷な結果があるなら、それを受け止める覚悟を持つ。(中略)だからこそ、右京の『強さ』は『異常』に映る。その『異常さ』を、尊を鏡にして描けたらーーそう思って、この物語を書いた」尊が節目のシーズン10で卒業することはかなり早い段階で決まっていたと、卒業発表記者会見で松本プロデューサーは明かしたが、卒業回「罪と罰」での右京と尊の対立がどことなく「暴発」を想起させるものだったことも無関係とは思えない。

・放送ではカットされているが、「誰が撃ったか分からない」という点で尊と米沢が『相棒 -劇場版Ⅱ-』(時系列ではシーズン9の開始前に位置するが、「暴発」放送時は公開前)で発生した事件に言及するシーンがある。

 

「聖戦」 脚本:古沢良太 P103~133

閑静な住宅街で一軒家が爆破され、会社員・折原忠志が死亡した。折原には錯乱状態でバイクを運転して事故を起こし、相手を死なせた過去があった。事故被害者の母親・富田寿子が一度は捜査線上に浮上するが、一課は犯行時に不在だった折原の妻・夏実の線に切り替える。一方、特命係は現場のカーテンレールに施された細工、犯人が滞在していたと思われる地点に落ちていたビスケットの破片から、寿子が犯人だと確信する……。

富田寿子が折原を爆殺する衝撃的なシーンから始まる元日スペシャル。倒叙ミステリであることには違いないが、本作の脚本を手掛けた古沢良太の『相棒』デビュー作である「殺人講義」のように純粋にコロンボ的な謎解きが楽しめる倒叙ではない。

寿子の犯行動機を示す回想シーンが集中的に挿入される前半は復讐劇、それによって寿子の“狂気”が際立つ後半はサスペンスの要素を強く感じさせる。何より、“当事者同士による決着”にも見えてしまうラストは、“特命係の希薄さ”という点で類を見ないものに思える。

シーンの順序などに若干の差異があったが、内容はおおむね放送の通りだった。「作者ノート」が掲載されていないため、上記の、私が捉えた漠然とした特徴への答え(解釈)としては「僕らは結局、傍観者でしかありませんからね」という尊のセリフに尽きるのかもしれない。

だが、『相棒 シナリオ傑作選 pre season-season7』(2011年、竹書房)を読み返したところ「INTERVIEW■古沢良太」にその答えがあった。

「聖戦」(#910)なんかは、もともと全編ゲストたちの話ばかりで捜査を追わない話だったんですが、さすがに「特命係をもう少し活躍させましょう」と言われました(笑)。

-393頁より引用。

殺す者、殺される者、その遺族、濡れ衣を着せられる者、その家族、脅す者、脅される者、止める者、今は亡き者……。事件関係者の描写が多く、特命係が物語の軸ではないことが、私が感じた“希薄さ”への答えであり、この話の最大の特徴であるようだ。

 

この号から年一回の『相棒』特集がほぼ恒例となる。

 

 

『ドラマ 2011年5月号』-『相棒 season9』最終回スペシャル。

(2011年、映人社)

『相棒』を書くということ 戸田山雅司 P108・109

・「最終話に関して言えば、劇場版Ⅱと同様に、まず輿水泰弘さんが死刑囚・本多篤人の極秘裏の釈放に端を発した事件から、小野田公顕が生前に何を残そうとしたのかという結末までの大きな枠組を作られて、僕はその流れの中で事件の細かな展開や人物の動き、特に本多父娘に関してを膨らませていくという作業でした。(中略)ラスト近くで瀬戸内と話す小野田のセリフは相当苦心しました」『相棒』では珍しい共作作品がどのようにできたのか。わずかにだが知ることができた。

 

「亡霊」 脚本:戸田山雅司輿水泰弘 P110~143

極左テロ集団「赤いカナリア」の元幹部・本多篤人の死刑が執行された。新聞報道でその“事実”を知った特命係だったが、東京拘置所に収容されている元法務大臣・瀬戸内米蔵との面会で本多が「生きて釈放された」ことを告げられる。瀬戸内とも本多とも浅からぬ縁がある右京は、尊とともに半信半疑のまま調査を開始。本多の娘・茉莉の自宅を訪ねると、そこには争った形跡と謎の男の遺体があるばかりで……。

・本多の逃走方法がバイクではなく徒歩。スタンガン男の足を包丁で刺す。

・序盤の面会シーンが放送よりも長い。「屁理屈も理屈の親戚だよ。(右京に)なぁ?」という瀬戸内のセリフがある。

・「赤いカナリア」幹部の遺体が発見されるのが「樹海かどこか」になっている。

 

 

『ドラマ 2012年2月号』-『相棒 season10』シナリオ特集。

(2012年、映人社)

「贖罪」 脚本:輿水泰弘(「作者ノート」あり) P5~40

仮釈放された“殺人犯”・城戸充がその足で投身自殺、発見された遺書には神戸尊への恨み言が書かれていた。右京とともに15年前の事件を検証することにした尊。当時の関係者を訪ねまわるうちに、城戸事件に関わった刑事・検事・判事の計4名が事件の翌年に退職していたことが判明して……。

・城戸が筆記用具を買うシーンがある。

・右京が「花の里」閉店のための掃除を手伝うシーン、尊が右京の口から閉店を知らされるシーンがある。

 

「晩夏」 脚本:太田愛(「作者ノート」あり) P41~57

特命係は、右京がひょんなことから知り合った歌人・高塔織絵の依頼で42年前に亡くなった織絵の恋人・桐野孝雄の服毒自殺を調べることに。手がかりがほとんどない中、ふたりは桐野の関係者や当時の担当刑事の証言、遺された短歌ノートをもとに推理を組み立てていくが……。

・「杉下さん、『安請け合い』って言葉知ってます?」という尊のセリフがある。

・短歌会『器の会』の同人の証言が放送よりやや詳細。歌会のテーマ『背』についての解説もなされている。

・尊のお土産が「枝豆」ではなく「山菜」

 

「ラスト・ソング」 脚本:戸田山雅司(「作者ノート」あり) P58~75

伝説のジャズシンガー・安城瑠里子のライブ後、プロモーター・鎌谷充子の遺体が発見された。鎌谷がヘビースモーカーだったことから、非常階段の踊り場で喫煙しようとして転落した可能性が濃厚になるが、期せずして遺体の第一発見者となってしまった尊は、現場の状況に違和感を覚えていて……。

・特命係が所轄の刑事・山口に邪険に扱われるシーンがある。

・事件の可能性が高くなったのちに米沢らが現場の再検証を試みるシーンがある。

・犯人が警察へのリークによって、他人に罪を着せようとする。

ノベライズ作品『相棒 season9 下』の解説は安城瑠里子を演じた研ナオコさんが務めており、『相棒』出演の経緯についても書かれている。

 

 

『相棒』、まったくもって飽きが来ない。

 

 

<了>

いろいろマガジン

まだまだ読みます、『相棒』関連雑誌。

時は流れ、右京の相棒は亀山薫から神戸尊に。

 

まずはこちら、『刑事マガジン vol.8』(2009年、辰巳出版)-事実上の最終号。

ブックオフオンラインで購入。605円。

松本基弘 プロデューサー P28~30

放送中の『相棒 season8』についてのインタビュー。

・<新相棒>神戸尊について。「及川さんには、以前、ゲストとして『相棒』に出ていただきたくて、お話ししたことがあった」

・初登場がシーズン7の最終回スペシャルだったことについて。「そもそも及川さんはコンサートをやっている最中で、スケジュールの問題もあったんですが、そういう悪条件を逆手にとるのは得意な『相棒』チームですから(笑)、だったら最終回にしてやれと、思いつきました」

・シーズン8初回スペシャルは「内山理名ありきで作った話」

 

30頁より引用。

杉下右京のフィギュアとKUBRICKの宣伝コーナーもあった。この時期だったんだ。

六角精児 P31・32

米沢守役の六角さんへのインタビュー。スピンオフ映画『鑑識・米沢守の事件簿』と新相棒、シーズン8について。

・「捜一の人達とは、あまり飲まないことにしているんです。長いことやってますしね……。そんなに一緒にいなくてもね……(笑)。大谷(亮介)さんとは、行ってる飲み屋が同じなので否が応でも会うんですけど(笑)」『刑事マガジン プラスワン』の「トリオ・ザ・捜一インタビュー」を読んだばかりなので味わい深い。

 

season7 全話紹介 P33~37

全19話のストーリー紹介。初回放送日、脚本・監督の名前も載っている。

『~プラスワン』の「『SEASON Ⅳ』全話ガイド」にはあらすじが載っていたが、本号では解説文も。読み応えあり。

 

 

お次はこちら、『Quick Japan Vol.92』(2010年、太田出版)-SUBCULTURE

ブックオフオンライン。110円。

特集 『相棒』が相棒を変えた理由

シーズン9放送開始と劇場版Ⅱの公開決定を記念した『相棒』特集。

 

『相棒』の世界観と凄みが生まれる場所で P130~133

シーズン9の撮影現場リポート。文字数と熱量がすごい。『相棒』の特異性が東映東京撮影所、すなわち「往年の日本映画界の撮影所システムとの「近さ」」に由来しているという指摘は初めて目にしたが、かなり鋭く、説得力を感じた。水谷さんと及川さんの“セッション”の様子も臨場感を持ってリポートされている。

 

中年としてカッコ良く生きるための大きな賭け 及川光博 P134~139

ロングインタビュー。「及川光博が相棒に選ばれた意味」「『相棒』という作品の中でどう機能するか」「セルフプロデュースの場がある幸せ」「賛否両論に対する心構え」「歳を重ねて失うもの 手に入れるもの」

・「賛否両論には慣れているんです(笑)。とはいえね、やはりそれで数字がついてこなかったら、どうしても自分を責めてしまう。だから、初回の結果にはホッとしたし、あとは何と言っても、最終回が二〇%を超えたっていうニュースを聞いた時。ほんとに、涙が出るくらい嬉しかった」初めての相棒交代。新相棒のプレッシャーは想像を絶するものだったのだと、今更ながらしみじみ。

 

「前へ進むためにはある種の勇気が必要なんです」 水谷豊×和泉聖治(監督)×松本基弘(テレビ朝日プロデューサー) P140~143

座談会。「「あえて」壊す決意」「チームの合意で動いていく」「『相棒』でしかできない感情の繋がり」「世界観を色濃く詰め込んだ劇場版」

・シーズン9は「これまでと全然違うテイスト」

・「やっぱりひらめきが出ないと心配なんですよ。及川君はあまりにも意外な名前だったので。でもふっとね、「あっ、いけるな。豊さんと合うな」とひらめいた」

・和泉監督「「でも、これいいのかな?警視庁から目を付けられないかな」とかは考えますけど(笑)」

最後に冗談半分でシーズン20への言及がなされている。実現していることの驚異たるや。

 

捜査一課の面々が『相棒』を斬る! 川原和久×大谷亮介×山中崇史 P144・145

座談会。「捜査一課との関係にも変化の兆しが」「演劇系が脇を固める力」「三人三様の色を出していきたい」

・「コメディ的な台詞があった時でも、これはちょっとやり過ぎだろうみたいなところで、現場で止めたりすることもありますからね。昔、僕らが悪乗りして暴走した時に、監督から「もうちょっとシリアスにしてほしい」って言われて反省したこともありますし。だから、そこもバランスなんですよね」

・川原さん「自分が正直に思うのは、スピンオフに関しては米沢守で使い切ったかなって思いますね。本編の話も劇場版Ⅱ、「Season9」と大変なことになってるし、もうスピンオフはやらないほうが潔いと思います。もし振られたら……それはやりますけど(笑)」3年後には『X DAY』が公開していると思うと感慨深い。

 

 

最後はこちら、『ハヤカワ ミステリマガジン No.659』(2011年、早川書房)-MYSTERY

メルカリで購入。

特集 相棒 特命係へようこそ

「編集後記」で触れられているが、同時期に発売されたノベライズ作品『相棒 season7 中』の解説はこの雑誌の当時の編集長である小塚麻衣子さんによるものだ。その解説によれば『ハヤカワ ミステリマガジン』で「日本の、しかもドラマの特集を組むというのは五十五年の歴史で初めて」とのこと。

関係ないけど、小塚さんのデスクがすごい。

www.e-aidem.com

 

『相棒 -劇場版Ⅱ-』を語る 水谷豊・及川光博 P12~16

巻頭カラーインタヴュー。

・及川さん「尊は、発想としては子どもっぽい人間だと思うんですよ。右京に対しては自分よりも優秀な頭脳の持ち主への憧れと、それを追い越してみたいという嫉妬の感情があると思うんですよね。(中略)たぶん今までは、ただ出世して官僚になることを考えていたと思います。その彼が変わっていったきっかけは、杉下右京に他ならないでしょうね」

・水谷さんが好きな映画は『デストラップ 死の罠』。是非、観なければ。

 

ミステリファンにとっての龍宮城 千街晶之 P17~20

ミステリ評論家の千街さんによるエッセイ。というより、もはや分析批評。キャラクター、トリック、モチーフ、オチ、キャスティング、倒叙バカミススペシャル版、サブタイトル、小説版。わずか4ページであらゆる要素への言及がなされている。

新発見あり、読み応え抜群。ただ褒めているだけではないのだが、確かな分析のあとなので、読んでいて「なるほどな」となる。こういう文章が書けるようになりたい。

・「『相棒』は基本的に、さまざまなミステリの先例に敬意を表しつつ、それを見違えるような新しい姿に再構築するのが得意なドラマと言えるだろう」千街さんによる『相棒 season4 下』の解説「『相棒』のフォーマットに限界はあるか」でも同様のことが述べられている。私はフックやトリック、トラップ(言ってしまえば「刑事ドラマあるある」)の組み合わせに面白味を感じる質なので、「再構築」という言葉に得心が行った。

 

杉下右京四つの謎 司城志朗 P22・23

『相棒 -劇場版-』のノベライズを手掛けた小説家の司城さんによるエッセイ。「“花の里”は、なぜつぶれないのか」「宮部たまきは、本当に右京の別れた妻か」「右京はどこで捜査方法を学んだか」「右京の出自はどこにあるのか」という四つの謎の解明を通して右京の正体に迫る。

かなりのトンデモ説だが、司城さん自身がそれを承知で淡々とぶっ飛んだ推理を展開しているので(本気だったらごめんなさい)、気づいたら惹きつけられていた。

大学一年の時、探偵脳が過ぎていた私は、映画版『マイ・フェア・レディ』を分析・発表する課題で「ヒギンズ教授はもともとイライザに目をつけていた」という説を披露して教室中の顰蹙を買ったことがあるのだが、もっと真面目顔で、堂々と開陳していればトンデモ説でも押し通せたのだろうかと、今更ながら考える。

 

ノベライズ作家から見た『相棒』 碇卯人 P24・25

朝日文庫の『相棒』ノベライズシリーズおよび杉下右京が主人公のオリジナル小説シリーズの著者としておなじみの碇さんによるエッセイ。『相棒』が競作?形式であること、その理由・特色の説明から、どのようにノベライズがなされるか、お気に入り三作品の発表まで。

ですます調だからか、司城さんのを読んだあとだからか、とても折り目正しい文章に思える。説明が丁寧でとにかくわかりやすく、この人があのぶっ飛んだ『隠蔽人類』の著者だとは到底信じられない。

・「映像と脚本が食い違っているとき、基本的には最終成果物である映像のほうに準拠して小説化するように心がけています。しかし、脚本家の中には決定稿にこだわる方もいて、申し入れがあれば映像ではなく脚本のほうを優先する場合もあります」こうしてファンの楽しみがひとつ増える。久々にノベライズを読み返したくなってきた。

 

全シーズン紹介 P26~35

プレシーズンからシーズン9まで、各シーズンの紹介が1ページずつ。筆者は書評家の三橋曉さん(PS・S1)、翻訳家の白須清美さん(S2)、文芸評論家の末國善己さん(S3・5~8)、コラムニストの香山二三郎さん(S4)。

シーズン9の紹介は編集部によるもの。元日スペシャルの放送前ということ、おそらく執筆時期の関係で言及は第1~4話にとどまっているが最後には「神戸の立ち位置の変化にも注目したい。今までも大胆な展開で視聴者を驚かせてきた『相棒』である。このままおとなしく杉下の相棒におさまるとは考えにくい」という鋭い指摘がなされている。

どの紹介文も、読み応え抜群。ミステリマニアに『相棒』への門戸を開くためか、同系統のミステリ小説や作家を例に出してストーリーが紹介されているのが『ミステリマガジン』ならではか。未読の書ばかりなので、そのうち手を伸ばしたい。

 

奇妙な手紙の事件 コリン・デクスター 鈴木恵/訳 P36~44

今は亡きモース主任警部の元相棒であるルイス警部のもとに「イギリス探偵作家クラブ」の元会長キーティングから手紙が届いた。キーティングはモース警部を通じてルイスを知ったらしく、手紙は、クラブ会員の中にいる小切手帳泥棒を突き止めて欲しいという内容だった。ルイス警部と部長刑事のハサウェイは手紙の“解読”を始めるが……。

杉下右京は一切登場しないが「海外で活躍する“相棒”たちの短篇」として特集に組み込まれている。アルファベットが鍵となる暗号モノであり、どんでん返しもあるのだが、オチがよくわからなかった。……ray?……fray?……すり減らす?

AXNミステリーで『ルイス警部』というドラマを観たことがあるのだが、どうやら『主任警部モース』のスピンオフ作品だったようだ。原作があったとは。

www.mystery.co.jp

 

相棒とわたし 腹肉ツヤ子 P46~51

※目次では「私と相棒」

のちに『相棒 season8 上』の巻末漫画を手掛けることになる腹肉さんによるエッセイ?漫画。「右京さんとの結婚生活」を妄想、キッチンでの小事件を描く。シチュエーションはノベライズ巻末のと同じだが、内容は異なる。自宅の設定なのに神戸君や米沢さんが当たり前のように登場するのが面白い。

 

剃刀ビル ピーター・ラヴゼイ 山本やよい/訳 P52~65

すでに四人の娼婦を殺害している切り裂き魔「剃刀ビル」をおびき出すため、サッカレイ巡査はクリッブ部長刑事の命令で女装、おとり捜査をすることに。その甲斐あって「ビル」は逮捕されるが、言葉が通じないのか完全黙秘。通訳の到着を待つことになる。そんな中、牧師のマウントジョイがサッカレイを来訪、四番目の殺人が別人の犯行である可能性を示唆する。牧師の奇妙な意見に興味を示したクリッブは、早速その夜、サッカレイとともに牧師夫妻を訪問するが……。

『相棒』特集のもうひとつの短篇。こちらのほうが『相棒』っぽかった。強いて言えば、シーズン3の「大統領の陰謀」だろうか。言葉遣いから真の動機を穿つラストがオシャレ。シリーズものらしいので、ほかの作品も読んでみたい。

 

「特命係」は英語で「Special Task Force」

中・高・大と、英語のプレゼンの授業でたびたび『相棒』を取り上げてきたが、いつも「トクメイガカリ」で通していた。もっと早く知りたかった。

 

 

また書きすぎた。

ま、いっか。

 

 

<了>

月刊ドラマを、読む。プラスワン

アマゾンで買った中古の月刊『ドラマ』、月刊『シナリオ』を読む。

いずれも定価以上だったが、今回購入した号はブックオフオンラインでは取り扱われていないため、入手できただけでもラッキーだ。

 

まずは月刊『ドラマ 2008年2月号』-(テレビ)ドラマの脚本専門誌。

(2008年、映人社)

『相棒』特集として、4作品(5本)の脚本、輿水泰弘さん・松本基弘プロデューサーへのインタビュー、櫻井武晴さん・古沢良太さん・戸田山雅司さんの「作者ノート」(自作解説)、シナリオ作家の桂千穂さんによる評論が掲載されている。

以下、掲載順に感想など。

『相棒』へのファンレター 桂千穂 P6・7

※目次では「ファンレター」ではなく「ラブレター」となっている。

碩学」が「本稿を書くべきだ」という前置きがなされているが、イギリスミステリーやアメリカのハードボイルドの流れを踏まえたうえでの『相棒』論は、『相棒』以外をほとんど知らない私にとって勉強になるものだった。

杉下右京=ブラウン神父」説が唱えられている点も興味深い。

『相棒』生みの親のひとりである輿水さんによれば「杉下右京=ポワロ+コロンボ」だが、輿水作品の中にはシーズン2「神隠し」やシーズン21「13」のように劇中に「ブラウン神父」が登場するものもあるため、『相棒』が「ブラウン神父」の影響を少なからず受けているのは間違いないだろう。チェスタトンも読まなきゃ。

 

脚本家人生の半分は『相棒』を書いていた 輿水泰弘 P8~13

※『ドラマ 2014年2月号』に再録(略歴の文章は異なる)。

亀山薫の役回りは「僕らと同じ目線の凡人」、ゆえに右京よりもキャラクター作りが難しかった。寺脇康文さんの演技を「ホンに反映させていった」

・「これだけは断言します、右京とたまきは縒りを戻したりしません」

・笑いの要素を入れること、一話完結の枠を壊すこと、ゲストを再登場させることはアメリカのテレビドラマの影響。

 

松本基弘プロデューサーに聞く『相棒』の誕生 P14~16

『相棒』誕生秘話についてはオフィシャルガイドなどでも語られており、以下の記事とも内容が重なる部分がある。

www.tv-asahi.co.jp

 

「ロンドンからの帰還 ベラドンナの赤い罠」「特命係復活」(シーズン2 脚本:輿水泰弘) P17~70

※当初のタイトルは「帰還」「復活」(輿水泰弘インタビューより)。

初回2時間スペシャル+1時間の計3時間(実際は2時間20分くらい)におよぶ壮大な倒叙ミステリ。解散したはずの特命係が、父親と同年代の男たちを毒殺するファザコンの連続殺人鬼・小暮ひとみと対峙する。

・ロンドンのフラットで右京に文句を言いにくる老婆のセリフに「※決して字幕など出さぬこと」という注釈がついている。

・「今日からあたしがママの代わりをしてあげる! ね、いいでしょ?」というセリフがあるなど、ひとみのファザコンの描写が放送されたものよりも強烈。

・最初の殺人について。放送では明確な動機は明かされなかったが、脚本では「恋人を作ったから」という動機が用意されていた。

 

「ありふれた殺人」(シーズン3 脚本:櫻井武晴) P71~88

※『相棒 シナリオ傑作選 pre season-season7』(2011年、竹書房)にも収録(「作者ノート」は除く)。

時効が成立した殺人事件の犯人・小見山が自首してきたが「誰かに狙われている」と主張するばかりで反省の色は見られない。特命係は、「犯人の名前を教えてください」と懇願する被害者遺族の応対をすることになる。毅然とする右京と、葛藤する薫。そんな中、小見山が自宅で殺害されてしまう……。

・「作者ノート」によれば「結末に関しては打ち合わせで最も闘った作品」であり、「希望が見えるエンディングにしてはいけないという想いが強かった作品の一つだ」とのこと。映像と比較しながら脚本を読んだが、カットされたシーンが多少あるものの、結末を含めて放送内容との大きな差異はなかった。

 

「ついてない女」(シーズン4 脚本:古沢良太) P90~106

※『相棒 シナリオ傑作選2』(2011年、竹書房)にも収録(「作者ノート」は除く)。

夫を死に追いやったヤクザを銃撃し、国外逃亡を図る“ついてない女”月本幸子。ひょんなことから彼女と知り合い不審を抱いた右京は、薫に犯行現場と被害者の特定を命じ、幸子の乗る成田行きのリムジンバスに乗り込む。タイムリミットが迫る中、特命係はわずかな手がかりから高飛びを阻止できるのか……。

・右京が幸子を嵌める場面が放送よりも多い。

・薫が幸子のパート先に聞き込むシーンがある。

・名簿を照らし合わせて被害者を特定する場面に捜一トリオもいる。

 

「せんみつ」(シーズン5 脚本:戸田山雅司) P107~125

※『相棒 シナリオ傑作選 pre season-season7』(2011年、竹書房)にも収録(「作者ノート」は除く)。

「本当のことは千のうち、3つもない」ほどの大噓つきで空き巣の常習犯・槇原が奥多摩の別荘に侵入し逮捕されたが、今回ばかりは素直に自供していた。彼と付き合いが長い捜査一課の三浦は不審に思い、内々で特命係に調査を依頼する。実際に槇原と対峙した右京は、別荘に侵入したこと以外はすべて作り話だと気づいて……。

・放送では槇原が別荘に侵入するまでの行動が一部省略されており、警察が駆けつけるまでの時間も57分→15分に変更されている。

・伊丹と芹沢が槇原を取り調べるシーンがある。

・特命係が槇原の持ち物について丁寧に言及している。

・「作者ノート」によれば「特命係に誰かが依頼に来る話」「取調室の安楽椅子探偵モノ」「芝居のような会話劇」というオーダーで作られた。

 

 

お次は月刊『シナリオ 2008年6月号』-映画の脚本専門誌。

(2008年、シナリオ作家協会)

『相棒 -劇場版-』の脚本と、戸田山さんへのインタビューが掲載されている。

 

戸田山雅司~キャッチフレーズは“あげまん”脚本家!?~ P18~27

脚本家・加藤正人さんの連載インタビュー企画の第13回。

『相棒』についてはもちろん、大学時代の話からテレビデビュー・映画進出の話まで。

・スケジュールの関係で『相棒 -劇場版-』を書くことになった。

・「マラソンとチェスが繋がったとき」手ごたえを感じた。

・「全部撮ったら二時間半を超えちゃうぐらいの」情報量。

・「言葉の量が多いの」が『相棒』の特徴。書きすぎてしまうこともある。

 

『相棒 -劇場版-』 脚本:戸田山雅司 P28~73

片山雛子衆議院議員の事務所に爆発物が届き秘書一名が負傷した。警察上層部は左翼過激派「赤いカナリア」の犯行と断定し、特命係には“警護任務”という名のおとり役が与えられる。海外公務のために空港へ向かう道中、一同は姿なき犯人による襲撃を受けるが右京の注意力と薫の腕力により被害は最小限にとどめられた。およそ過激派らしくない襲撃方法に違和感を抱いた右京は、現場に「d4」という記号が残されていたことから、数日前に発生したニュースキャスター殺人事件と同一犯による犯行だと推理する。

・「二時間半を超えちゃうぐらい」の言葉に違わず、カットや変更されたシーンがかなりある。犯行や捜査のプロセスがより丁寧に描かれているほか、内村刑事部長に叱責されたり、芹沢刑事に煙たがられたりと、特命係の立場を示すようなシーンも多い。「守村やよい」が「木佐原康江」に戻る決意を固くしていたのが特に印象的だった。

 

 

最後に月刊『ドラマ 2009年2月号』-輿水泰弘シナリオ集。

(2009年、映人社)

輿水さんの3作品(5本)の脚本とインタビュー、シナリオ講師の柏田道夫さんによる作品分析が掲載されている。

 

長く続いたからこそ出来ることがある 輿水泰弘 P4~8

内容は「掲載作を選んだ理由」「シーズン7の1、2話について」「新人に言っておきたいこと」

以下、輿水さんの発言はすべてこのインタビューによる。

 

『相棒』のおもしろさの秘密 柏田道夫 P10~15

亀山薫卒業から間もなくに書かれた文章とのことで、静かな興奮が伝わってくる。桂さんの評論は海外ミステリを踏まえたものだったが、こちらでは国内の刑事ドラマの変遷から『相棒』の構造が分析されている。ただ、どちらの『相棒』論でも「特命係」というセクションの妙、あらゆる事件への介入を可能にした設定の妙が論じられており興味深かった。

 

「十五年目の真実」「閣下」(シーズン1 脚本:輿水泰弘) P17~68

※放送タイトルは「右京撃たれる~特命係15年目の真実」「午後9時30分の復讐~特命係、最後の事件」

特命係誕生の秘密が明かされる、1時間+最終回2時間スペシャ。再び動き出した15年前の事件に、右京と薫、小野田の特別チームが挑む。

警察庁勤務になりスーツを着るかどうか迷う薫が描かれている(美和子は「いつものスタイルで通したらいいじゃないの」と言っている)。

・「どうしようもなく気が……十五年前の事件を検証するのはやはり……もう降りてしまいたいぐらいです」など、いつになく弱気な右京が描かれている(シーズン16「検察捜査」の脚本でも弱気な右京が描かれていた)。

・右京の名言「もしも限界があるとするならば、それはあきらめた瞬間でしょう」が「違いますねえ。諦めた瞬間が限界になるンですよ」になっている。その後のシーンも少し異なる。

 

「新・Wの悲喜劇」(シーズン6 脚本:輿水泰弘) P69~84

薫と美和子が住むマンションで事件が起きる「Wの悲喜劇」(シーズン5)の続編?エピソード。禁じ手とされる手法が用いられているが、亀山家を訪れた角田課長と上の階の住人・白鳥寿々美がベランダ越しに邂逅を果たすシーンなどは二重の意味でフォローとして気が利いている。

・角田が「呪われてるぞ、このマンション」と言い、薫に引っ越しを勧めるシーンがある。

・輿水さん曰く「通常の刑事ドラマでは有り得ない、奇を衒った作品ですけど、長年『相棒』を書いてきたご褒美として書かせてもらったと思ってます」

・ほかに意識的にタッチを変えた作品としては「シーズン4の最終回『桜田門内の変』。これは警視庁の中で連続殺人事件が起きる。わざとコメディタッチでやったのがあります」

 

「レベル4」前篇・後篇(シーズン7 脚本:輿水泰弘) P85~120

亀山薫の卒業エピソード。国立微生物研究所で殺人事件が発生。自作した殺人ウイルスを持ち去って逃走中の犯人・小菅と特命係が決死の戦いを繰り広げる。

・小菅が殺人ウイルスの元になったマールブルグ出血熱のウイルス株を国内に持ち込んだ方法や、小菅の同僚の長峰研究員が単独で検査をすることになった経緯が描かれている。

・薫が美和子を説得する場面や、薫が警視庁の面々に別れの挨拶をするシーンも若干異なる。最後は特命係の小部屋「再び一人きりになった右京でーー」となっている。

 

・卒業エピソードをシーズン7の最終回にしなかったのは、輿水さん曰く「それでは当たり前だから」「本当は記者発表せずにやりたかった。でも、いつ卒業するか分からないようにしておいた」

・薫の去り方については「その人をことさらヒロイックに退場させるみたいなのは、やめようと話していた。さりげなく去って行く。そういうふうにしよう、というのがあった」「それも途中で、薫の逡巡みたいなことを丹念に描いて行くというようなことは、やれば出来るのかもしれないけど、やらない。だから、冒頭できっかけだけ振っておいて、今度の回(9話)で卒業させるというのだけは決めていた」

 

・シーズン7開始前『相棒 -劇場版-』公開に合わせて放送された特別編(プレシーズン1の再放送に新撮映像を加えたもの)の新撮部分には、小菅や彼のアジトが登場するなど「レベル4」とクロスオーバーする部分があるのだが、ロケ場所やセリフ、逃げた小菅を追跡する右京と薫が上階と地下のどちらに行くかなど、実際の映像には差異が生まれている。しかし今回「レベル4」の脚本では当該のシーンが特別編の新撮映像と完全に符合していることがわかった。

・「犯人が登場して、それを捕まえるまでの、短い新撮の部分を作った。その時に、ウイルスの事件にしようということで、次のシーズン、本編でやりますからと犯人役に袴田(吉彦)さんに出てもらった。いずれにしても、今回のシリーズでウイルスパニックものをやるというのは決めてたんです」

『相棒』特別編はプレシーズンのブルーレイボックスに特典映像として収録されている(DVDボックスには未収録)。劇場版のヒットを記念して放送されたもうひとつの特別編(プレシーズン3の再放送に新撮映像を加えたもの)も収録されているので是非。

 

 

5,000字超え。さすがに書きすぎた。

抜き書きも多いが、脚本もインタビューも実際のボリュームはかなりのものなので、雑誌の価値を損ねることにはなっていないはずだ。

 

『ドラマ』『シナリオ』 ありがとう。いい雑誌です。

 

 

<了>