月刊ドラマを、読む。4

メルカリで買った神戸期の月刊『ドラマ』を読む。

値段はだいたい定価くらい。ブックオフオンラインでの取り扱いは終了している品々。

 

『ドラマ 2011年2月号』-『相棒 season9』シナリオ特集。

(2011年、映人社)

「最後のアトリエ」 脚本:太田愛(「作者ノート」あり) P68~84

※若干の修正が見られるものの『相棒 シナリオ傑作選2』(2011年、竹書房)にも収録(「作者ノート」は除く)。

夭折の天才画家・有吉比登治の回顧展を前に、主催するイベント会社の社長が撲殺された。捜査一課が業務上のトラブルの線を追う一方で、右京は現場に落ちていた新刊案内のチラシに着目。尊との聞き込みの際に出会った老画家・榊隆平が事件に関与していることを直感する。有吉の在りし日の友人だという榊は、自身を画家とは認めないほどの偏屈な人物で……。

放送内容との目立った差異はなかった。倒叙ミステリに近い作品だと認識していたが、「作者ノート」の「そこにありながら一度も見られることのない榊の絵は、近藤監督の心憎い演出によって、贋作疑惑をより強く匂わせるものになっていました」という記述によって、「そういう意図があったのか」と今更気づいた。何度も観てきたはずなのに。

 

「暴発」 脚本:櫻井武晴(「作者ノート」あり) P85~102

関東貴船組系二見会の一斉摘発の最中、構成員一名の銃殺体が発見された。死亡から時間が経っていたため逮捕された構成員の誰が撃ったかはわからず、それどころか誰も死亡した男の名前すら明かそうとしなかった。そんな中、厚生労働省麻薬取締部の五月女という男が警視庁を訪れ、内偵情報や資料を提供する代わりに二見会の薬物容疑の送検をさせてほしいと“相談”を持ちかけてきて……。

・「作者ノート」によれば「右京と尊の考えの差が見える話というリクエスト」があった。「右京は楽な方へ流れない。己の正義を貫くために法の不備を使うが、不備な法だから守らなくていいとは思わない。信念の先に残酷な結果があるなら、それを受け止める覚悟を持つ。(中略)だからこそ、右京の『強さ』は『異常』に映る。その『異常さ』を、尊を鏡にして描けたらーーそう思って、この物語を書いた」尊が節目のシーズン10で卒業することはかなり早い段階で決まっていたと、卒業発表記者会見で松本プロデューサーは明かしたが、卒業回「罪と罰」での右京と尊の対立がどことなく「暴発」を想起させるものだったことも無関係とは思えない。

・放送ではカットされているが、「誰が撃ったか分からない」という点で尊と米沢が『相棒 -劇場版Ⅱ-』(時系列ではシーズン9の開始前に位置するが、「暴発」放送時は公開前)で発生した事件に言及するシーンがある。

 

「聖戦」 脚本:古沢良太 P103~133

閑静な住宅街で一軒家が爆破され、会社員・折原忠志が死亡した。折原には錯乱状態でバイクを運転して事故を起こし、相手を死なせた過去があった。事故被害者の母親・富田寿子が一度は捜査線上に浮上するが、一課は犯行時に不在だった折原の妻・夏実の線に切り替える。一方、特命係は現場のカーテンレールに施された細工、犯人が滞在していたと思われる地点に落ちていたビスケットの破片から、寿子が犯人だと確信する……。

富田寿子が折原を爆殺する衝撃的なシーンから始まる元日スペシャル。倒叙ミステリであることには違いないが、本作の脚本を手掛けた古沢良太の『相棒』デビュー作である「殺人講義」のように純粋にコロンボ的な謎解きが楽しめる倒叙ではない。

寿子の犯行動機を示す回想シーンが集中的に挿入される前半は復讐劇、それによって寿子の“狂気”が際立つ後半はサスペンスの要素を強く感じさせる。何より、“当事者同士による決着”にも見えてしまうラストは、“特命係の希薄さ”という点で類を見ないものに思える。

シーンの順序などに若干の差異があったが、内容はおおむね放送の通りだった。「作者ノート」が掲載されていないため、上記の、私が捉えた漠然とした特徴への答え(解釈)としては「僕らは結局、傍観者でしかありませんからね」という尊のセリフに尽きるのかもしれない。

だが、『相棒 シナリオ傑作選 pre season-season7』(2011年、竹書房)を読み返したところ「INTERVIEW■古沢良太」にその答えがあった。

「聖戦」(#910)なんかは、もともと全編ゲストたちの話ばかりで捜査を追わない話だったんですが、さすがに「特命係をもう少し活躍させましょう」と言われました(笑)。

-393頁より引用。

殺す者、殺される者、その遺族、濡れ衣を着せられる者、その家族、脅す者、脅される者、止める者、今は亡き者……。事件関係者の描写が多く、特命係が物語の軸ではないことが、私が感じた“希薄さ”への答えであり、この話の最大の特徴であるようだ。

 

この号から年一回の『相棒』特集がほぼ恒例となる。

 

 

『ドラマ 2011年5月号』-『相棒 season9』最終回スペシャル。

(2011年、映人社)

『相棒』を書くということ 戸田山雅司 P108・109

・「最終話に関して言えば、劇場版Ⅱと同様に、まず輿水泰弘さんが死刑囚・本多篤人の極秘裏の釈放に端を発した事件から、小野田公顕が生前に何を残そうとしたのかという結末までの大きな枠組を作られて、僕はその流れの中で事件の細かな展開や人物の動き、特に本多父娘に関してを膨らませていくという作業でした。(中略)ラスト近くで瀬戸内と話す小野田のセリフは相当苦心しました」『相棒』では珍しい共作作品がどのようにできたのか。わずかにだが知ることができた。

 

「亡霊」 脚本:戸田山雅司輿水泰弘 P110~143

極左テロ集団「赤いカナリア」の元幹部・本多篤人の死刑が執行された。新聞報道でその“事実”を知った特命係だったが、東京拘置所に収容されている元法務大臣・瀬戸内米蔵との面会で本多が「生きて釈放された」ことを告げられる。瀬戸内とも本多とも浅からぬ縁がある右京は、尊とともに半信半疑のまま調査を開始。本多の娘・茉莉の自宅を訪ねると、そこには争った形跡と謎の男の遺体があるばかりで……。

・本多の逃走方法がバイクではなく徒歩。スタンガン男の足を包丁で刺す。

・序盤の面会シーンが放送よりも長い。「屁理屈も理屈の親戚だよ。(右京に)なぁ?」という瀬戸内のセリフがある。

・「赤いカナリア」幹部の遺体が発見されるのが「樹海かどこか」になっている。

 

 

『ドラマ 2012年2月号』-『相棒 season10』シナリオ特集。

(2012年、映人社)

「贖罪」 脚本:輿水泰弘(「作者ノート」あり) P5~40

仮釈放された“殺人犯”・城戸充がその足で投身自殺、発見された遺書には神戸尊への恨み言が書かれていた。右京とともに15年前の事件を検証することにした尊。当時の関係者を訪ねまわるうちに、城戸事件に関わった刑事・検事・判事の計4名が事件の翌年に退職していたことが判明して……。

・城戸が筆記用具を買うシーンがある。

・右京が「花の里」閉店のための掃除を手伝うシーン、尊が右京の口から閉店を知らされるシーンがある。

 

「晩夏」 脚本:太田愛(「作者ノート」あり) P41~57

特命係は、右京がひょんなことから知り合った歌人・高塔織絵の依頼で42年前に亡くなった織絵の恋人・桐野孝雄の服毒自殺を調べることに。手がかりがほとんどない中、ふたりは桐野の関係者や当時の担当刑事の証言、遺された短歌ノートをもとに推理を組み立てていくが……。

・「杉下さん、『安請け合い』って言葉知ってます?」という尊のセリフがある。

・短歌会『器の会』の同人の証言が放送よりやや詳細。歌会のテーマ『背』についての解説もなされている。

・尊のお土産が「枝豆」ではなく「山菜」

 

「ラスト・ソング」 脚本:戸田山雅司(「作者ノート」あり) P58~75

伝説のジャズシンガー・安城瑠里子のライブ後、プロモーター・鎌谷充子の遺体が発見された。鎌谷がヘビースモーカーだったことから、非常階段の踊り場で喫煙しようとして転落した可能性が濃厚になるが、期せずして遺体の第一発見者となってしまった尊は、現場の状況に違和感を覚えていて……。

・特命係が所轄の刑事・山口に邪険に扱われるシーンがある。

・事件の可能性が高くなったのちに米沢らが現場の再検証を試みるシーンがある。

・犯人が警察へのリークによって、他人に罪を着せようとする。

ノベライズ作品『相棒 season9 下』の解説は安城瑠里子を演じた研ナオコさんが務めており、『相棒』出演の経緯についても書かれている。

 

 

『相棒』、まったくもって飽きが来ない。

 

 

<了>