あれこれ『相棒』~シーズン20編①

今週の読了本

碇卯人さんの『相棒 season20 上』-ドラマ『相棒』のノベライズシリーズ。

(2022年、朝日文庫)

暗殺事件を主導しながらも愛人の自白で罪を免れた官房長官・鶴田翁助。一方、拘置所内での不審死に疑念を抱いた右京と亘は・・・・・・。特命係が立ち塞がる巨大権力と渡り合う「復活」、陣川公平が高校時代からの親友であるカリスマゲームクリエイターの危機に立ち向かう「贈る言葉」、刺殺されたベストセラー作家の死の真相を解き明かす「マイルール」など、シーズン前半5編を収録。《連続ドラマ第20シーズンの第1話~第7話を収録》

-裏表紙より引用。

 

各話のあらすじと感想など

※以下ネタバレあり

第一話「復活」(脚本:輿水泰弘、放送では第1話~第3話)

西周明暗殺事件の首謀者として逮捕された元内調職員・柾庸子が東京拘置所内で自殺した。事件の真の首謀者が内閣官房長官・鶴田翁助だと睨んでいる右京と亘は、柾の幼なじみであり、彼女の自殺を強く否定する元弁護士・中郷都々子らの証言をもとに調査を開始する。“加西周明の切り札”として中郷から託された鍵の部屋を突き止めるべく動き始めた矢先、鍵泥棒の容疑で亘が逮捕されてしまう。亘は容疑を否認するが、動画という動かぬ証拠があって・・・・・・。

 

例によって、ドラマ本編ではカットされたと思しきセリフやシーンがあった。

ひとつは、内村刑事部長が柾庸子の自殺に関する資料を検察から取り寄せるよう中園参事官に命じる場面。中園がひとり毒づく「なにがデュープロセスだ。ゾンビが!」というセリフが面白い。ちなみに「アレスの進撃」(脚本:輿水泰弘、S18#1)には、衣笠副総監が右京のことを「ゾンビ」と評する場面があった。

もうひとつは、捜査一課の三人が鶴田翁助に任意同行を求める場面の「お知らせしておきますが、鷲見三乘、改めて連行しましたので。なんでも、官房長官の口利きで、ノルウェー日本大使館に就職する矢先だったようで」という伊丹のセリフと、鶴田が去った後の「往生際の悪い男・・・・・・」という出雲のセリフ。直後の、栗橋東一郎元内閣情報官と鷲見に対する取り調べの場面も本編には無かった。

鷲見の去就については放送を観た時から気になっていたので、知ることができて良かった。厳密に本編と見比べれば、ほかにも相違点が見つかるかもしれない。

 

岸部一徳さんのカメオ出演の経緯は以下の配信で語られている(前にも書いたっけ?)。

www.youtube.com

 

第二話「贈る言葉」(脚本:神森万里江、放送では第4話)

ゲーム会社・チネルコーポレーションの元社員が撲殺体で発見された。捜査一課は被害者が脅迫めいたメールを送っていたことから、宛て先であるゲームクリエイター・鴫野大輔に容疑を向ける。鴫野は高校時代からの親友である元特命係・陣川公平に助けを求め、陣川は右京と亘とともに捜査に乗り出す。鴫野に憧れていたはずの被害者が、なぜ脅迫をするようになったのか。三人はその理由の解明を急ぐが、そんな中、現場に落ちていたイヤフォンの指紋が鴫野のものだと判明してしまう・・・・・・。

 

「けむり~陣川警部補の有給休暇」(脚本:根本ノンジ、S18#16)以来の陣川回。捜査二課に配属されてからは二度目の登場となったが、今回も二課が絡むような事件ではなかった。今作では陣川が鴫野の結婚式に向けてスピーチの準備をするのだが、陣川は「運命の女性」(脚本:太田愛、S9#5)でも大学時代の友人の結婚式でスピーチをし、そのせいで事件に巻き込まれていた。

 

第三話「光射す」(脚本:池上純哉、放送では第5話)

夜間警備員の男が、アパートの一室で首吊り遺体となって発見された。現場は密室状態だったが、遺体の頭部に殴打痕があったことなどから捜査一課は殺人事件として捜査を開始する。特命係は隣室に住む引きこもりの男から話を聞こうとするが、その母親に証言を拒まれてしまう。そんな中、被害者が監禁の容疑で一週間前に家宅捜索を受けていたことが判明。監禁されたとみられていたのは所轄署刑事の失踪中の娘で、家宅捜索のきっかけは匿名掲示板へのある書き込みだった・・・・・・。

第四話「マイルール」(脚本:森下直、放送では第6話)

大物ミステリー作家・福山光一郎が自宅の書斎で刺殺された。現金が盗まれていたことから物盗りの線が濃厚となるが、右京は福山が連載中だった小説『運命の来たる日』の最終回の原稿が盗まれていることに着目する。その後、福山の娘が二十二年前に殺害されていたことが判明し、『運命の来たる日』が事実に基づいて書かれた可能性が浮上。二十二年前の事件の犯人に関する情報は少年法により公表されていないにもかかわらず、福山は最終回で何をしようとしていたのか・・・・・・。

 

以上の二話は月刊『ドラマ』2022年2月号にシナリオが掲載されているため、脚本・ドラマ本編・ノベライズの三点比較が可能である。

aibouninngenn.hatenablog.com

「光射す」は“親子とケア”という要素が「サイドストーリー」(脚本:池上純哉、S13#9)と共通しており、「マイルール」は“文字で特定の場所を暗示する”というトリックが「うさぎとかめ」(脚本:森下直、S17#7)と共通していた(「うさぎとかめ」では短歌、「マイルール」では小説だった)。

また、小説の登場人物の名前が事件のカギを握る「マイルール」には“早元出版の森川誠”など、実在する出版社や小説家の名前を彷彿とさせる固有名詞が登場する。

 

(おそらく本書以降は)これまでのノベライズよりも一冊あたりのページ数が三十ほど少なく、必然的に一話あたりのページ数も削られている。「光射す」と「マイルール」には、「復活」にあったような脚本からのサルベージ(と思われる部分)はほとんど無く(地の文で補われている箇所はあった)、ドラマ本編にあったシーンの一部すらカットされていた。ただし割愛されていたのは、謎の人物による証拠隠滅のシーン(「光射す」)や終盤のイメージシーン(「マイルール」)などで、小説としては支障のないもの(映像では効果的なシーン)だった。

小説としての面白さか、脚本・ドラマ本編との一致か。ノベライズをテクスト代わりにしている私にとっては悩ましい問題だ。

 

第五話「かわおとこ」(脚本:山本むつみ、放送では第7話)

川で行方不明になっていた四歳児が意識不明の重体で発見された。ネット上では母親に対する心ないバッシングや晒しが行われていたが、右京と亘はその中の家族写真に見知った少女が写っていることに気付く。ふたりが事故現場を訪れると、その川では工場排水による汚染問題や成人男性の水難事故など、トラブルが続いていることが判明する。件の少女から「川男」という妖怪の目撃談を聞いた右京は、半信半疑の亘をよそに興味津々で調査を始めるが・・・・・・。

 

特命係が関係者に対して刑事であることを終盤まで明かさない点が特徴的。事故か事件か判然としない案件だからこのような手法を用いたというよりは、関係者の中にいる犯人からスムーズに話を聞くためのように思われた。結果的に、“犯人が身分をぼかす特命係を相手に内輪話をする”というやや不自然な場面になってしまっているのだが、文字だからか放送よりも違和感はなかった。

 

右京を「妖怪に近い」と評する亘。右京は亘の初登場回である「フランケンシュタインの告白」(脚本:輿水泰弘、S14#1)でも捜一コンビに陰で「妖怪」呼ばわりされていた。

ファン心をくすぐる部分はほかにも。

「君、詳しいですね。釣りが趣味なのですか?」

「渓流釣りを少々」

「それは初耳ですね」

-303頁より引用。

亘が渓流釣りを嗜むことが判明。亘を演じる反町隆史さんの趣味が釣りであることを反映したものと思われる。“亘と釣り”といえば「ケンちゃん」(脚本:金井寛、S16#4)で鑑識の益子に釣りの穴場を教えることを約束して、勝手に証拠品を見ていたことをごまかす場面が思い浮かぶが、この時点では亘が本当に釣りをするのかは判然としていなかった。

『相棒』のレギュラーキャラクターには釣り好きが多い。角田課長は「潜入捜査」(脚本:輿水泰弘、S3#9)で大木・小松コンビとともに黒焦げの片腕切断遺体を釣り上げ、「あとぴん~角田課長の告白」(脚本:宮村優子、S15#9)では益子と一緒に釣りに行き、ミャク釣りのコツを伝授したことを明らかにしている(ミャク釣りは渓流釣りでも用いられる釣法らしい)。益子の前任者(?)だった米沢も「鮎川教授最後の授業」(脚本:輿水泰弘、S13#15)で釣りをしている場面が描かれている(右京からの連絡により中断を余儀なくされたが)。

 

冠城亘にまつわるネタが満載で、彼の卒業発表後初の回にふさわしいエピソードだった。

 

 

終わり

シーズン20放送時、私は受験生生活の真っ只中にいた。その手前、『相棒』もセーブすることにした。正確に言えば、シーズン19の直接的な続編である「復活」三部作はリアタイして、それ以降の話は受験後のお楽しみに取っておくことにした。公式LINEの友達登録も解除して、『相棒』に関する一切の情報を遮断した。

私が冠城亘の卒業を知ったのは、発表された日の夕方、私が『相棒』好きであることを知っていた友人からの情報によってだった(私の家族はあえて黙っていたらしい)。まさに青天の霹靂。教室で絶叫した。放課後でよかった。なんてタイミングなんだ、と自分の運命を嘆いた。

それでも耐えた。もともと『相棒』を観ていた父は、情報を遮断するという配慮を見せたくせに、第4話以降もしっかりリアタイしていた。音が聞こえてくる!こんなネタバレあってたまるか!と思いながら、モーニング娘。の「ブレインストーミング」等を大音量で聞いて耳を塞ぎながら勉強していた。

『相棒』を禁じたことで、かえって『相棒』について考える時間が増えたので、この作戦は失敗だったと思う。

まあ、いい。過ぎたことだ。

最後の入試を終えた夜、第4話から第10話までをぶっ通しで観た。残りは次の日の朝から観たので、一日で最新回に追いついたことになる。虚しかったが、最高だった。

 

そんな思い出もあり、シーズン20は冠城期に限らなくても上位に入る好きなシーズンである(面白いと思った話が多いうえ、VS内閣官房長官からの陣川回という流れとオープニングテーマがシーズン3と重なるのが良い。そういえば今週始まったシーズン22のオープニングテーマはシーズン2風だったが、これは最終シーズンへのカウントダウンじゃあるまいな・・・・・・)。

 

というわけなので、四千字を超えたことを許してください。

 

 

<了>