ツン ツンツン ツンドク

私には“人生を変えた一冊”がたくさんある。

 

高校一年の夏、乃木坂文庫(2019年)という光文社のフェアが開催された。

乃木坂46のメンバーが限定カバーとなって文庫の表紙を飾るというもので、このフェアが開催されるのは2017年以来二度目だった(そのときは講談社だった)。

 

2017年、私は家族に隠れて生駒里奈さんを推していた。『相棒』のノベライズでカムフラージュして生駒ちゃんカバーの『藪の中』(芥川龍之介)を買ったのはいい思い出だ。

2019年、私も堂々とアイドル雑誌まで買えるようになっていた。『相棒』のノベライズをあらかた読みつくしてしまった私は、新たなミステリー小説を求めていた。

二度目の乃木坂文庫フェアが開催されたのは、そんなタイミングだった。

 

テーマは「青春」と「ミステリー」で、44の小説がラインナップされた。

ミステリーを中心に厳選した十冊を買った。慎ましい青春を送ってきたことに感謝した。

具体的には、『美女と竹林』(森見登美彦)、『密室の鍵貸します』(東川篤哉)、『オリエント急行殺人事件』(アガサ・クリスティー)、『月の扉』(石持浅海)、『ヴィラ・マグノリアの殺人』(若竹七海)、『プラ・バロック』(結城充考)、『1ドルの価値/賢者の贈り物 他21編』(O.ヘンリー)、『レジまでの推理』(似鳥鶏)、『ロスト・ケア』(葉真中顕)、『スタート!』(中山七里)の十冊。

ほかにも、家族への誕プレとして『ポイズンドーター・ホーリーマザー』(湊かなえ)、『田村はまだか』(朝倉かすみ)、『和菓子のアン』(坂木司)を買った。

計十三冊、ポイントはめちゃくちゃついたが、新刊書店での爆買いはヒリヒリした。

 

読んだことがあった東川さんやクリスティー、O.ヘンリーはもちろん、初めて読む著者の作品にも感動しどおしだった。井の中の蛙、ミステリー海の広さを知った。

特に、石持さん、若竹さん、結城さん、葉真中さんと出会えたことは大きかった。

そのことはブログのアイキャッチ画像のラインナップを見ていただければわかるだろう。

彼らの本を買いまくった結果、今の積ん読に至る。

 

その後、買いそびれた乃木坂文庫をブックオフで買い集め始めた。

普段はフェアなど開催しない近所の本屋が日向坂文庫フェアをやっていたことは、私の積ん読に拍車をかけた。特に、似鳥さんの『100億人のヨリコさん』が最高だった。

 

今週読んだ本も、乃木坂文庫(2017年)の一冊。

この本を買ったら所持金がちょうどゼロになったことはいい思い出だ。

 

 

今週の読了本

横関大さんの『再会』-江戸川乱歩賞を受賞した、著者のデビュー作。

(2012年、講談社文庫)

小学校卒業の直前、悲しい記憶とともに拳銃をタイムカプセルに封じ込めた幼なじみ四人組。23年後、各々の道を歩んでいた彼らはある殺人事件をきっかけに再会する。わかっていることは一つだけ。四人の中に、拳銃を掘り出した人間がいる。繋がった過去と現在の事件の真相とは。<第56回江戸川乱歩賞受賞作>

-裏表紙より引用。

スーパーマーケットの店長が射殺された。被害者に黒い交際の噂があったことから捜査本部は暴力団絡みの線を追うが、所轄署刑事の飛奈淳一は県警から派遣された“遊軍”刑事の南良とともに別の線を追うことに。被害者の弟である佐久間直人、事件前にスーパーを訪れていた岩本万季子、万季子の元夫の清原圭介。淳一は事件をきっかけに幼なじみたちと再会していく。

そんな中、凶器が二十三年前の強盗事件の際に紛失していた警察の制式拳銃だと判明する。その事件は被疑者死亡で決着を見ていたが、奪われた三千万円と犯人に撃たれて殉職した警察官の拳銃の行方は不明だった。殉職警官は圭介の父であり、彼の遺体を発見したのは淳一、直人、万季子、圭介の四人だった。四人は忌まわしい記憶、秘密とともに拳銃をタイムカプセルに封印していたのだが、いったい誰が掘り出したのか・・・・・・。

 

視点人物は幼なじみの四人。それぞれの秘密、既知の事実が異なることが巧みに利用されていて、簡単に言ってしまえば“視点人物が驚く構成”になっている。驚きつつも、「この人(視点人物)はこのことを知らないんだよな」という具合に、私は私で謎解きを進めることができて楽しかった(もちろん、真相は私なんぞの予想を超えてきた)。

過去と現在が繋がる話で、幼なじみ四人組が主要登場人物。そのうちのひとりが刑事ときたら、彼が葛藤しながらパンドラの箱を開けていく物語しかないと思っていたが、飄々とした切れ者刑事・南良の登場によって、構図は「“秘密”を共有する四人 VS. 推理機械」へと変化していった。

 

“些事にこだわる敬語の切れ者”であることから、南良に対して『相棒』の杉下右京と似た印象を抱いてしまったが、要所要所で南良と杉下右京との違いが決定的に表れていた。著者がそこまで想定してキャラクターを創りあげ、私をミスリードしていたとしたら脱帽するしかない。

 

著者の作品を読むのは初めてだったが、とても面白かった。

久々に読むミステリーがこの作品で良かった。

 

 

今週の大事

・『ピタゴラスイッチ』を観た。人形劇パートは久々の新作。今回も百科おじさんの声は中村梅雀さんだった。新たなフェーズへの突入を予感させる一方で、じゃんけん装置の代わりに過去のピタゴラ装置を放映するなど原点回帰の面もあった。これからも楽しみだ。

 

 

<了>