リトルタイム

(おそらく)今シーズンから、『相棒』が公式切り抜きショート動画を投稿し始めた。

放送時とは違ってBGMが無いので、より生に近いお芝居が楽しめる。

www.youtube.com

 

www.youtube.com

 

www.youtube.com

 

www.youtube.com

 

www.youtube.com

スズメバチ」(脚本:岩下悠子、S22#3)では、スズメバチの巣に近づかなければならない状況が、DV男と過ごすことに見立てられていた。同じく岩下悠子さんが脚本を担当した「正義の翼」(S6#8)では、仕掛けられているはずの爆弾が発見されない状況が、地雷原に見立てられており、“見立て”の犯行という点で共通している。

 

『相棒』は観るたびに新しい気付きがあったり、印象が変わったりするので、感想は月刊『ドラマ』かノベライズ版を読んだあとでまとめて書くつもりだったが、この発見だけは先に書きたかった。

 

とりあえず、今シーズンも面白い。

 

 

今週の読了本

ハセベバクシンオーさんの『ビッグタイム』-『このミス』大賞シリーズ第三弾。

(2008年、宝島社文庫)、帯には六角精児さんのコメントが。

パチスロ必勝法は「最高設定6の台を打つ」。この裏情報を元に、月百万単位の売り上げを誇る東。ある日、裏情報の流出が発覚し、部下の和泉に情報漏洩元を探らせる。一方、遊技機審査協会の二宮は、公金も使ってしまう博打狂い。競馬の予想情報会社とノミ屋を経営している橋本は、借金まみれの二宮に儲け話を持ちかける。欲が欲を呼ぶ三者三様の展開はJRA、GIビッグレースへ舞台をうつす。

-裏表紙より引用。

情報屋の縄張り争い、東と橋本の因縁、和泉の葛藤、気持ちがいいくらいにどうしようもない二宮の博打依存。混沌とした状況の中で、何が本物で何がガセなのか・・・・・・。

爽快な結末にあっと言わされた。

 

著者のハセベバクシンオーさんは、『ビッグボーナス』で第二回『このミステリーがすごい!』大賞の優秀賞を受賞しデビュー(大賞は柳原慧さんの『パーフェクト・プラン』、積んでいるので読まねば)。

ちなみに本書『ビッグタイム』には、「エクスクロス」、「キセキノヨッカカン」、「パーフェクトプラン」、「サウスポーキラー」、「バチスタケース」、「ジェノサイドピエロ」といった、『このミス』受賞作を彷彿とさせる名前の競走馬が登場する(馬名は九文字以内という規定があるらしい。知らなかった)。

 

本書は第二作『ダブルアップ』に次ぐ『このミス』大賞シリーズの第三弾にあたる。

『ビッグタイム』は『ビッグボーナス』の直系の続編であるらしく、東や橋本をはじめ、登場人物の多くが再登場している。『ダブルアップ』は「ギャンブル」というテーマが共通している点で、ひとつのシリーズに数えられているのかもしれない(読んだのはかなり前なので記憶が定かではないが)。

 

その後、『相棒』のスピンオフ小説『鑑識・米沢の事件簿~幻の女房~』を刊行。翌2009年には同書を原作にした映画『相棒シリーズ 鑑識・米沢守の事件簿』が公開された(同作は、メガホンを取った長谷部安春監督(ハセベさんのご尊父)の遺作となった。脚本は飯田武(櫻井武晴)さんが手掛け、監督のお孫さんも出演している)。また、公開に合わせて書下ろし作品『鑑識・米沢の事件簿2~知りすぎていた女~』が刊行された。

 

上記の経緯で『相棒』シリーズに参加し、ドラマシリーズでは現時点で五作(「越境捜査」(S7#11)、「仮釈放」(S8#9)、「守るべきもの」(S10#18)、「ID」(脚本協力:守口悠介、S11#5)、「シンデレラの靴」(脚本協力:柿木健二朗、S11#16))の脚本を手掛けている。

 

元マラソン選手が登場する「シンデレラの靴」には「42.195キロ走ったあげくの差が、ほんの数センチというのですから、マラソンというのもすごい世界ですね」という右京のセリフがあったが、『ビッグタイム』には競馬に関して同様の(それでいてある意味対極の)記述があった。

 ハナ差。その差は数センチ。千八百メートルも走って、数センチの差で負ける。悪い冗談だった。

 力が抜けた。

-121頁より引用。

 

脚本家デビュー作となった「越境捜査」は『相棒シナリオ傑作選2』(2011年、竹書房)に収録され、テレビシリーズ(プレシーズンからシーズン11)を対象にした視聴者投票では第九位にランクインした。また、『相棒』20周年を記念した企画で林修先生が推薦したエピソードのひとつでもある。

www.tv-asahi.co.jp

『相棒シナリオ傑作選2』にはハセベさんのインタビューも収録されており、「最初は倒叙」ミステリだったことや「当初のプロットでは課長の役割は薫ちゃんだった」ことなど「越境捜査」執筆時の裏話が明かされている。

 

過渡期の『相棒』執筆に関しては、「最後の晩餐」(S21#4)で地上波ドラマの脚本デビューを果たした光益義幸さんも語っており、月刊『ドラマ』2023年2月号の「作者ノート」には「初期のプロットでは仮で「亘」と書いていました」、「相棒が外を走り回るという<別行動タイプ>の話にしてしまったので、もし次の相棒が知的なインテリ系だったらどうしよう、という一か八かの思いもありました」という記述がある。

シナリオやインタビューを読むのは、とても楽しい。

 

インタビューといえば、こんな動画を見つけた。

www.youtube.com

五分ほどの動画だが、『相棒』に関するお話もあるので是非。

 

今年の二月にはハセベさんがノベライズを手掛けた『#マンホール』が刊行された。

積ん読が解消したら買おう。

tkj.jp

『歌舞伎町ペットショップボーイズ』、『25 NIJYU-GO』(ともに双葉文庫)を除く著書は、今のところすべて宝島社から刊行されている。

 

『相棒』の脚本作品とは打って変わったアウトローな雰囲気が楽しめるので是非。

 

 

ブックオフ奇譚1.5

近所の本屋に無かったので、『ビッグタイム』はブックオフで買った。

パラパラと捲ると、「知的生きかた文庫」のしおりが出てきた。

出版社がちぐはぐなしおりが挟まっていることはよくあるが、博打狂いが登場する小説に「知的生きかた文庫」のしおりが挟まっているとは。ギャップがなんとも面白い。

相当にくたびれているので、前の持ち主はこのしおりを使いまわしていたのだろう。

そんなことを考えながら、路線バスの中でページを捲っていた。歯医者に行くのだ。

しばらくすると女性三人組が乗り込んできて、私が端に座っていた最後列の座席に腰を下ろした。

反対側の端にも既に座っている人がいたので、三人組は端のふたりに挟まれる位置に、うちひとりは私のすぐ隣に座ることになった。

意識が半分に割かれる。

アウトローな小説に「知的生きかた文庫」のしおり。

彼女にはどう見られているのだろう。

-190、191頁より引用。

しおりの方が目に付くだろうから、自己啓発本を読んでいると思われているのだろうか。

なんか癪だ。

だが、ひらめいた。

きっと前の持ち主は、「知的生きかた文庫」を読んでいると思われたくて、どの本を読むにもこのしおりを使っていたのだろう。

私の場合は逆だったが。

ひとりほくそ笑む。もちろん、小説の面白さのせいでもある。

マスクをしていて良かった。

自己啓発本を読んでいるはずの人間がニヤニヤしていたら怖いだろう。

 

バスは目的地に到着した。

予約時刻よりも早かったが、歯医者に行った。

すぐに診てもらえたのは良かったのだが、経過を診てもらっただけで840円も請求されたので複雑な気持ちになった。交通費も往復で500円かかった。たった二分の診察のために。

おまけに、再発の可能性も低くないときた。

親知らずとの戦いは思ったよりも早く訪れるかもしれない。

 

まあ、バスに乗ったからこその気付きがあったので良しとしよう。

 

 

<了>