■Ⅶ~訣紊記

6 すり抜け

平成十五年。ある姉弟が家の中を駆けていた。弟が姉を追っていると、姉は玄関の戸を無いものの如く通り抜けて外へ出てしまった。戸の鍵はしっかりと掛かっていた。弟が泣きながら両親のもとに戻ると、そこには姉の姿もあった。姉自身も、両親も、「ずっとここにいた」と言ったという。

この地域では十二年周期でこのようなことが頻発するらしく、関係があるかは不明だが、長寿で知られる人物の多くはこの地域の出身であった。

 

7 自転車の奇事

平成二十六年。帰宅途中の少年は、老婆が乗る自転車とのすれ違いざまに犬の吠える声を聞いた。その声の夥しさは尋常ではなく、五頭や十頭という程度ではなかった。少年は驚き振り向いたが、犬はおろか老婆や自転車の影すら見えなかった。

自転車にまつわる奇事は多く、ある地域では毎日同じ時刻に同じ場所をきまって北から南へ走る自転車が目撃されていた。その自転車に乗る人物の服装は季節に関係なく同じであったらしいが、奇妙なことに、少女や老翁という具合に、目撃した人物によって(たとえ同時に目撃した場合においても)乗り手の姿は異なっていたという。

 

8 笑う男

平成二十七年。■(判読不能)を見ながら笑っている男が列車の中で目撃された。

 

9 雲の中の眼

平成二十五年。駅のプラットホームで列車を待っていた学生が、夕焼け空に浮かぶ雲に人間の眼がついているのを目撃した。その数日後、学生の生まれ故郷は大雨に見舞われた。

 

 

<了>