8月上旬から9月12日にかけて、AXNミステリーで『刑事コロンボ』(全69話)が放送された。この作品は『古畑任三郎』や『相棒』に大きな影響を与えたことで知られており、いつかは観たいと思っていた。
記憶の彼方に行ってしまう前に、各話の感想的なものを簡単に記す。
「殺人処方箋」(#1)
共犯者が死んだと思わせ、主犯から本音を引き出す。その本音を共犯者に聞かせ、自白を引き出す。恋愛関係に有効な仲間割れの手法。
「死者の身代金」(#2)
殺してから誘拐された風に見せかける犯行。遺体が発見されても(架空の)誘拐犯の仕業に見えるという算段。古畑の「殺しのファックス」、「すべて閣下の仕業」でも用いられている。小型飛行機と、バッグごと持ち去らない誘拐犯の謎。
「構想の死角」(#3)
被害者自身が考えたトリックで別の人物が(被害者を)殺す話は『相棒』でもあったが、今作はその亜種か。間違えたふりをして指紋を付けさせる。三つ折りの跡がついている書類は被害者以外が持ち込んだもの。
「指輪の爪あと」(#4)
明確に犯人を嵌めるコロンボ。遺体のコンタクトレンズが片方だけ取れていたという偽情報に踊らされる犯人が面白い。犯人の眼鏡に偽装工作の様子がダイジェストで投影されるという橋本監督みたいな演出もあった。
「ホリスター将軍のコレクション」(#5)
犯人の身分の高さから唯一の目撃者の証言が信用されないというパターン。その目撃者が犯人を好きになってしまうというレアケースでもある(立場の違いを利用して目撃者を丸め込む犯人)。証言が翻されても、コロンボは止まらない。凶器が思い出の品だった場合、犯人はそれを処分できない。
「二枚のドガの絵」(#6)
ホットカーペットで遺体を温め、死亡推定時刻をずらす。初めて観たトリックだ。付いているはずのないコロンボの指紋が絵から発見されたことで、犯人が陥落。古畑の「黒岩博士の恐怖」のミラクルを彷彿とさせる。
「もう一つの鍵」(#7)
被害者が犯人の想定外の行動をとったため計画が狂うパターン。“理想と現実”のように“犯人の脳内計画と実際の犯行”の両方がまるまる描かれていて、長尺のドラマならではだと思った。電球の交換時期と使用期間。遺体と新聞の不自然な位置関係。
「死の方程式」(#8)
葉巻の箱に爆弾を仕掛けた犯人。コロンボは、爆発は自動車の故障が原因だと偽り、犯人に葉巻の箱を開けさせようとする。『相棒』の「殺人講義」(S4#2)でも用いられていた手法。
「パイルD-3の壁」(#9)
犯人の職業、遺体遺棄の方法などが『相棒』の「ボディ」(S17#1・2)に引用されている。捜査着手のきっかけや、プロセスの違いが面白い(被害者の人間関係の違いが特に)。「ボディ」は後篇でもうひと展開あるので、もしかしたら犯人はこの作品を観ていたのかもしれない。
「黒のエチュード」(#10)
犯人が現場に遺留品を残したことがテレビの映像から露見する。『相棒』の「オフレコ」(S11#12)で応用。オーブンでガス自殺、車の走行距離、ズレた遺書のタイプの謎。
「悪の温室」(#11)
狂言誘拐計画に乗じて共犯者を殺害。土の中から昔の銃弾。
「アリバイのダイヤル」(#12)
アリバイ電話に時計のチャイムが録音されていなかったことで、犯人の不在がバレる。古畑の「しゃべりすぎた男」で応用。氷で撲殺、プールサイドの足跡を消すために真水を撒いてはいけない。
「ロンドンの傘」(#13)
殺害現場に忘れてきた被害者の傘の処分に右往左往。脅迫者の口を封じ、罪を着せる。閉じた傘の中には犯人の遺留品が残っている、というコロンボの逆トリック。
「偶像のレクイエム」(#14)
駐車スペースにガソリンを撒いておいて、火をつけて爆殺。しかし、車に乗っていたのはターゲットではなかった。どうやってターゲットを殺すのか。水の出ない噴水の下には遺体が埋まっている。だから引っ越しもしない。過去の殺人で犯人を落とすパターン。
「溶ける糸」(#15)
心臓手術に溶ける糸を用いて、ターゲットを時間差で殺そうとした外科医。面白いトリック。隙を見て、コロンボの白衣に証拠品を忍ばせる犯人。白衣から糸を回収しようとしたところを押さえるコロンボ。
「断たれた音」(#16)
ごみの破砕機にターゲットを突き落とした犯人。しかし、機械は緊急停止。犯人はなぜとどめを刺さなかったのか。その理由が犯人を示すパターン。古畑の「動く死体」と共通。
「二つの顔」(#17)
犯人は双子だが、冒頭ではそのことが明らかにされない。倒叙がミスリードに用いられるパターン。時間的にひとりでは不可能な犯罪→複数犯。
「毒のある花」(#18)
手がかぶれたのは犯人とコロンボだけ。その理由がカギ。第二の事件はタバコで毒殺。皮肉な結末。
「別れのワイン」(#19)
『相棒』の「殺人ワインセラー」(S5#9)との共通点、違いが面白い。遺棄現場には雨が降り、殺害現場は異常気象に。犯人は旅に出ていて気付かない。高温でダメになったワインをセラーからくすねて、犯人に飲ませるコロンボ。そうとは知らない犯人は、そのワインを酷評する。
「野望の果て」(#20)
間違い殺人に見せかけて選挙参謀を殺害した議員候補。コロンボは銃撃地点と現場の狭さから、待ち伏せした脅迫者による犯行という見立てに疑念を抱く。事件を予期していたかのようにクリーニングから戻ってきたスーツ、拳銃の持ち運び、電話のランプと存在しない銃弾。コロンボがめちゃくちゃしつこくて面白い。
「意識の下の映像」(#21)
行動心理研究者が犯人。ターゲットにキャビアを食べさせ、飲み物のコマを挿入したフィルムを観させて水飲み場に誘導。そして、射殺。サブリミナル効果を利用した殺人。『相棒』の「隠されていた顔」(S8#16)との根本的な違いが面白い。口径変換機、映写機とコイン、サブリミナルで釣られる犯人。
「第三の終章」(#22)
鍵が交換されていたため、作った合鍵が無意味に。しかし、犯行時はたまたまドアが開いていたため、犯人はそのことに気付かないまま偽装工作をしてしまう。発売前の本の内容がカギとなる点では、『相棒』の「空中の楼閣」(S6#7)と共通している。
「愛情の計算」(#23)
車で撥ねて殺害。その痕跡を物損事故で誤魔化す。息子を連行するふりをして、ホンボシである親の自白を引き出す手法。息子のために罪を犯す親と、正直でいたい息子。ドアの靴跡と珍しい葉巻。
「白鳥の歌」(#24)
睡眠薬で眠らせたターゲットを小型飛行機に乗せて墜落させる。操縦している犯人はギリギリで脱出。内側が炭化していない鞄→中には何かが入っていた。パラシュートの回収とその大きさ。コロンボの過去。
「権力の墓穴」(#25)
犯人は警察幹部。妻を殺してしまった友人のアリバイ工作に協力した代わりに、自身の妻殺しを手伝わせる。枕の下のパジャマ、架空の空き巣、肺から泡風呂の痕跡。コロンボの下宿と知らずに偽装工作をしてしまう犯人。
「自縛の紐」(#26)
不自然な靴跡、犯人しか持ち上げられないバーベル、靴紐の結び方の違い(自分で結んだ場合と体の正面から他人が結んだ場合)。
「逆転の構図」(#27)
正当防衛に見せかけた殺人。犯人は殺した相手に別の誘拐殺人の罪を着せる。コロンボは撃たれた位置に注目。カメラマンである犯人は犯行に用いる写真でも無意識に取捨選択してしまう。犯行に使われたカメラを犯人に取らせるコロンボ。「今の見た?」というセリフは古畑の「赤か、青か」でも用いられている。
「祝砲の挽歌」(#28)
大砲の暴発に見せかけた殺人。犯人しか気付くことができない事実。木の間の酒、大きすぎる爆発音。犯人の「(犯行を)何度でもするだろう」というセリフは、古畑の「殺人リハーサル」、『相棒』の「光射す」(S20#5)でオマージュされており、学校に泊まるという展開は「笑わない女」(古畑)と共通している。
「歌声の消えた海」(#29)
サイレンサー代わりに使ったクッションの羽がきっかけで犯人に目を付けたコロンボ。犯行に用いた手袋をエサに犯人を釣る。ダイイングメッセージ、発作を起こす実、手袋の内側の指紋、犯行時刻にだけ高い血圧。殺害方法など具体的なところは全然違うのだが、古畑の「追いつめられて」と似ている気がした。汽船を「ボート」と呼び続けるコロンボ。古畑はコミックを「マンガ」、フラワーアレンジメントを「生け花」、検案調書を「検死報告」、勲章を「メダル」と呼び続け、その度に訂正されていた。
「ビデオテープの証言」(#30)
アリバイを作りたい犯人は第三者に時間を聞く。映っているはずのないチケットが映っていたことで監視映像の細工がバレる。
「5時30分の目撃者」(#31)
共犯者に暗示をかける犯人。プールに飛び込みたくなると暗示をかけて、最終的に飛び降り自殺をさせる。溺死ではなく転落死だったが、被害者が裸だったことと装飾品がソックスの中に入っていたことから暗示に気付くコロンボ。車のヘッドライト、見えない目撃者。
「忘れられたスター」(#32)
自身の犯行を忘れてしまった犯人と、それをかばう人物。『相棒』の「善悪の彼岸」(S18#14・15)を思い出した。切ない。それでも、コロンボと杉下右京の違いが決定的に表れた。“自殺する前の読書”は古畑の「ゲームの達人」にも見られる。登れないが下りられる木。
「ハッサン・サラーの反逆」(#33)
アメリカで逮捕されるか、祖国で殺されるか。強烈な二択。
「仮面の男」(#34)
遺体の上着がはぎ取られていたことから路上強盗に疑念を抱いたコロンボ。アリバイとなる音声には、その時点では犯人が知り得ないはずの事実が・・・・・・。CIAも登場。遊園地にいた写真屋から地道に手がかりを得る。
「闘牛士の栄光」(#35)
被害者が(犯人に)無断で闘牛を始末するはずがないという着眼点。動機が面白かった。
「魔術師の幻想」(#36)
遺体の倒れた方向・位置、ピッキングの技術、凝ったアリバイトリック、タイプライターの記録。
「さらば提督」(#37)
殺害犯と偽装犯が別。冒頭では偽装の様子しか描かれないため、ミスリードになっている。最終的にはコロンボが関係者を集めて謎解きをする、これまでにないパターン。
「ルーサン警部の犯罪」(#38)
ハンズアップした状態で撃たれたならば服の穴と遺体の射入口はズレていなければおかしい(両手を挙げると服は上に引っ張られるから)という着眼点が面白い。アリバイトリックによって腕時計の設定時刻がズレる。
「黄金のバックル」(#39)
相撃ちに見せかけて二人を殺害する。派手な身なり→高飛び寸前。バックルを灰皿だと勘違い→犯人ではない。
「殺しの序曲」(#40)
天才の集いの中で殺人が発生。彼らの知恵を借りるコロンボ。あえて間違った推理を聞かせて、犯人に訂正(自白)させる。
「死者のメッセージ」(#41)
金庫室に閉じ込めるという殺害方法と、ダイイングメッセージというポイントが古畑の「死者からの伝言」と共通している。切れた電球のソケットにメッセージが・・・・・・。鍵の処分でボロが出る。犯行後に犯人が脅されるというパターンがコロンボでは多用されている。
「美食の報酬」(#42)
毒殺が疑われるのに、直前まで食事を共にしていた人間が病院に行かずに現場に駆けつけてきた→犯人。食事を切り上げる前提で予定を立てていた。ワインのコルク抜きのカートリッジに毒。毒殺されかけるコロンボ。
「秒読みの殺人」(#43)
被害者が眼鏡をかけていなかったのは、そうしなくても誰だかわかる相手だったから。拳銃をエレベーターの天井裏に隠す。拳銃が見えかけていたら、犯人は隠し直す。
「攻撃命令」(#44)
ドーベルマン二匹を調教し、襲わせて殺す。何が攻撃の合図となったかがポイント。犯人は練習する。犯人に殺されかけるコロンボ。
「策謀の結末」(#45)
遺体の側に転がっていた酒瓶の意味。一晩に飲む量のしるしとして、指輪で酒瓶に傷をつける癖を持つ犯人。
「汚れた超能力」(#46)
ここからは『新・刑事コロンボ』にあたる。マジック用ギロチンの調整中に起きた事故に見せかけた殺人。階上から血が滴り落ちてくる、という導入を含めてかなりショッキング。ギロチンで殺されかけるコロンボ。透視実験のトリックも面白かった。
「狂ったシナリオ」(#47)
地面を濡らし、鉄柵に通電し殺害。ベルトに収納された旅券から身元が割れる。来客がいた痕跡はその日のうちに消すべし。本のしまい方の癖に注意。知り合いに依頼し、意味ありげな会話をコロンボに聞かせて捜査を攪乱する犯人。
「幻の娼婦」(#48)
存在しない人物になりきって殺人を行う。トイレで消えた謎の女、オフィスの鍵、髪の毛とDNA、衣装の焼却と追加の偽装工作。今回もコロンボがしつこくて面白い。
「迷子の兵隊」(#49)
ミニチュアの兵隊を並べていたというアリバイ。腕を掴んで遺体を引きずる→襟首に落ち葉がたまる。高貴な人間は自分で床を拭かない。段ボールと中身の体積を比較する。
「殺意のキャンバス」(#50)
コンタクトレンズを片方しか付けていない溺死体。夢分析で過去の殺人が露見。絵を描いたキャンバスに無地のキャンバスを被せる。絵を描いていたはずなのに絵の具の滴が落ちていない謎。錆水が出る水道。
「だまされたコロンボ」(#51)
雑誌を売るための狂言殺人に利用されたコロンボ。犯人の頭の良いこと凄まじい。しかし、ただの敗北回では終わらない。騒動後、警察がナーバスになっていることを利用して犯人は本当に殺人を行う。コロンボは消えた衣類カバーとポケベルを手がかりに遺体を見つける。『相棒』の「ボディ」、ポーの「黒猫」を思い出した。
「完全犯罪の誤算」(#52)
弾丸の火薬を被害者の手にまぶして自殺に見せかける犯人。葉巻のにおい、乾いた血痕の上に落ちていた拳銃、濡れていない駐車スペースの謎。現場に残されていた食べかけのチーズの歯形と、犯人のガムの噛みかすの歯形が一致。
「かみさんよ安らかに」(#53)
コロンボ夫人の葬儀のシーンから始まる。嘘だ、そんな悲しい展開は嫌だ。でも、海外のドラマだからガチかもしれない・・・・・・。一番、あっという間に感じた話。回想形式(と伏線)、逆トリックが圧巻だった。
「華麗なる罠」(#54)
歯の詰め物に毒物を仕込み、時間差を利用して殺す。毒物入りの飲み物を飲み干すことはできない。家族ぐるみでの隠蔽を徐々に崩していく。化学に弱い人間をインチキ化学で落とすコロンボ。
「マリブビーチ殺人事件」(#55)
下着を前後逆に穿かせた→犯人は男。複雑な人間関係。
「殺人講義」(#56)
外部講師として大学に招かれたコロンボ。その講義の最中に犯罪学担当教授が射殺された。犯人はコロンボの講義に出席しながらどのようにして遠隔で教授を殺したのか。ハウダニット。車のキー、事件現場から離れたところで見つかった空の薬莢、混信。偽情報を流して犯人を嵌めるコロンボ。見事な実践授業だった。
「犯罪警報」(#57)
タバコに高濃度のニコチンを仕込み殺害するが、被害者の手にあったタバコに吸った形跡が無いこと、灰皿のタバコの消し方が違うことから事件性が浮上。摘ままずにプリンターから紙を取り出すことは不可能。タイプの癖(大文字か小文字か)、車をひっかく犬、刈られたはずの草。
「影なき殺人者」(#58)
二本目のシャンパンをわざわざ台所で開けたのはなぜか。木の実から駐車場所を特定。交通違反がアリバイに。鼻の下に影ができていないのはお面を着けていたから。
「大当たりの死」(#59)
宝くじの当選金を横取り。鉢合わせからの共犯関係、大きな買い物をしようとしていた被害者、時計のイミテーション、見当たらないハロウィンコスチューム、当選番号、チンパンジーの指紋。
「初夜に消えた花嫁」(#60)
殺人メインの倒叙ミステリではなく、誘拐された花嫁を捜すリミットサスペンス。この話はオリジナル脚本ではなく、原作があるらしい。犯人像、動機、捜査主任としてのコロンボの手腕など、倒叙モノとの違いが面白い(深夜に関係者宅を訪問するなど、コロンボであることには変わりない)。写真と出席者リスト、同伴者情報を照らし合わせて犯人を割り出す。
「死者のギャンブル」(#61)
間違い殺人、本命のターゲットは交通事故死。ふたりの殺人者が取引。車の下の靴跡、寝た形跡が無いベッド、朝露がついた車、大金のあて、切った髪の毛、犯人は目を閉じる。
「恋におちたコロンボ」(#62)
ふたりの女が共謀して、ひとりの男を殺害した。彼女たちの関係は・・・・・・というホワイダニット。コンセントの上下で変わるブレーカーの権限、写真に写った特徴的な椅子。犯人の事情を酌むコロンボ。
「4時02分の銃声」(#63)
通話中に殺害し、アリバイを作る犯人。遺体の体勢を知っている→推理力が高いか、もしくは・・・・・・。拳銃に付いたドーラン、届かないはずの携帯電話の電波。またもや犯人に殺されかけるコロンボ。しかし、それも想定済み。
「死を呼ぶジグソー」(#64)
相打ちで死んだふたりの男。そのうちのひとりが握っていた謎の紙片。コロンボは危険な宝探しに足を踏み入れる・・・・・・。アクションあり、フーダニットありのロマンあふれる物語。これも原作がある作品らしい。いろんな人間に化けるコロンボが面白い。指紋が付いたコインとパーキングメーター。
「奇妙な助っ人」(#65)
弟を殺害し、その罪をギャングに着せた男。死ぬか、逮捕されるか。面通しと脅しを兼ねた最後の仕掛けは、『相棒』の「警察嫌い」(S14#15)を彷彿とさせる。『相棒』におけるこの仕掛けの対象者は警察嫌いの“目撃者”であり、冠城亘が仕組んだ“ヤクザを利用したマッチポンプ”は杉下右京の不興を買った。相棒の方が右京よりもコロンボ的な手法を用いた稀有な例であり、同時に冠城のスリリングなキャラクターも決定的になった(なお、右京が画策した面通し方法も十分にコロンボ的だった)。タバコの吸い殻、自転車で帰宅、ネズミの種類、拳銃の隠し場所。
「殺意の斬れ味」(#66)
起業家の妻が、不倫相手である鑑識員と共謀して殺人を行う。ふたりが既知の間柄であることをいかにして見破るかがカギに。現場の位置、葉巻の切り口、背中の写真、無意識の行動。仲間割れを誘発させる手法は「殺人処方箋」(#1)の応用にも思える。
「復讐を抱いて眠れ」(#67)
殺した相手を焼却した葬儀社。遺体なき殺人をどう証明するか。空中散骨、空腹の犬、謎の写真、口紅の色、消えたダイヤ、摘出できない銃弾、持ち去られたパンフレット。
「奪われた旋律」(#68)
唯一観たことがあったのはこの話だった。叫ばない飛び降り自殺、腕の傷、らしくない楽曲、ボタンの埃、指揮棒とエレベーター。
「虚飾のオープニングナイト」(#69)
マウスウォッシュと爪切りで自殺説が覆る。脅迫者はどこから写真を撮ったのか。遺体はどこに消えたのか。蛍光塗料と留守録、絨毯の跡、顔を合わせずにチェックアウトできるホテルとレンタカー。愛情だけではない共犯関係。シャレたラストと白髪のコロンボに、ついに終わってしまった、という思いがこみ上げる。
かくして『刑事コロンボ』全69話を観終わった。各話のメモでは触れていないが、“カミさん”やコロンボの飼い犬、ボロボロの愛車など、ほっこりする要素も堪能できた。
『刑事コロンボ』が、倒叙モノである『古畑任三郎』のみならず、『相棒』にも大きな影響を与えていることがこの目で確かめられた(複数の脚本家による競作形式である点も共通していた)。また、探偵役のプライベートが具体的には描かれないという点では両者に影響を与えているように思えた(ドラマとしての性質の差はあるが、“生活感のなさ”が、『古畑任三郎』には“いつまでもなくならない別世界”かのような非現実感をもたらし、『相棒』には“特命係が現実に存在する”かのようなリアリティをもたらしている点は非常に興味深い)。
マジで選べないが、個人的には「指輪の爪あと」(#4)、「パイルD-3の壁」(#9)、「意識の下の映像」(#21)、「かみさんよ安らかに」(#53)、「奇妙な助っ人」(#65)の五本を推したい。
『刑事コロンボ』、面白かった。
<了>