バズーカの蓋

成人式の前日に、小・中時代の親友から「明日会わないか」という旨のLINEが来た。

それまでは「一生に一度を、一瞬で」というコンセプトのもと成人式RTAに挑戦するか、出席したフリをして海岸やブックオフで時間を潰すかの二択だったが、やらずに済むなら幸いだ。

 

 

急ぎ足で駅へ向かう。ネクタイの長さ調節に手間取ってしまった。

閑散とする改札口に、彼はいた。

見違えるほど背が伸び、メガネも髪型もスタイリッシュになっていた。

だが、歩き方やしゃべり方、「荷物になるから」という理由でコートを着てこないところは昔のままだ。

 

互いのこれまでとこれから、同級生についての話が弾む。

うんうんと話を聞いてくれる彼。変わらない安心感。

高校、大学、文系・理系……。勝手に距離を感じていた自分が馬鹿らしく思えた。

 

会場周辺の喧騒が嘘のように、ホールの中は静かだった。

案内に従い前方の席へ。来るのが少し早かったようだ。

しかし、それも束の間だった。

 

ついに式が始まった。ライブ配信もされているらしい。

国歌と市歌を本域で歌う。合唱コンを思い出す。

よく知らない著名人からのメッセージ動画を観る。

偉い人の話を聞く。もうそろそろフィナーレか。

 

突如、バンドの演奏が始まった。前方の席、おまけにスピーカーの正面に位置していたため、ビクッとなる。周りのみんなもビクッとなっていた。

最後に両サイドからバズーカが発射され、大団円。言うまでもなく、ビクッとなった。

大量の金テープが宙を舞う。その直後、私の足元に黒い物体が墜落した。

友人と顔を見合わせ、金テープを拾ってから退場。

 

大混雑の駅前ロータリーを抜け、駅へ。

袴を着た暴走族こそいなかったものの、新成人の名前や電話番号と思しき漢数字が印刷されたのぼり旗がいくつも立っていた。

いくつか見知った顔があり、言葉を交わした者もいたが、みな一様に垢抜けていた。

中学卒業以来、知り合いとめっきり会わなくなったと思っていたが、会ってもわからなくなっていただけだと気づいた。

 

一駅移動して日高屋で昼食。私が緊張せずに注文ができる数少ない飲食店だ。

私はラ・餃・チャセットを、彼は油そばを注文した。

思えば、彼と外食するのは初めてかもしれない。

スーツ姿で油そばと格闘している横顔に、うまうまとチョコバーをかじっていた頃の面影を見出し、心の中で微笑む。

「なんかシュールな顔してたよ」と言われてしまった。表情に出ていたらしい。

 

駅で電車を待つ。まだ昼だから遊んでも誰にも咎められることはないはずだが、ふたりの間には、満腹感、そして満足感が漂っていた。

毎週土曜日、青少年の家で3DSを通信して遊んでいたときも、いつも昼解散だった。

私が午後にスイミングスクールに通っていたためであるが、ふたりとも「ご飯は家で食べるもの」という認識を共有していたのだと思う。

そのときの名残なのだろうか。

「あの頃がいちばん楽しかった」彼はそう言った。

あの頃には、もう戻れない。少し苦しくなった。

 

ブックオフに行かないかと誘ったが、断られた。

気が乗らないときは、断ってくれる。良き友である。

途中下車をして、ブックオフに行こう。店舗受け取りの期限が迫っている。

別れ際、「ありがとう、助かった」と言われた。

彼は彼で、成人式に出席したフリをしてゲーセンで時間を潰すことを考えていたらしい。

今となっては学問分野も趣味も異なるふたりだが、どこまでも似た者同士だった。

互いに「誘われ待ち」をしていたことも、「出席しない」という選択肢が念頭になかったことも。

 

ブックオフに行き、途中で鳩の動画を撮り、帰路に就く。

私は小学生の頃からブックオフに行っている。あの頃と何も変わっていない。

 

 

家に着いてコートを脱ぐと、ポケットに何かが入っていることに気づいた。

取り出してみると、見覚えのあるものであった。

成人式のフィナーレ、バズーカから金テープが発射された直後に私の足元に飛んできた黒い物体。

おそらく、バズーカの蓋だろう。

 

ノリで持って帰ってきてしまったが、まずかったかもしれない。

スポンジ素材だから同じ用途で繰り返し使えるだろう。

もし今も、会場でこの蓋を探している人がいるとしたら。

見つからなかったことで新たな蓋を作ることになったとしたら。

それは環境問題、税の問題に繋がりはしないか。

私の頭に「逮捕」の二文字が浮かんだ。そういえば、式はライブ配信されていると言っていなかったか。その映像が証拠となって捕まるーー。

 

いやいや、待て待て。落ち着け。

そもそも「持って帰るな」とは言われていない。そりゃ「持って帰っていいよ」とも言われてないけどさ。そんなこと言ったら金テープはどうなる。みんな持って帰ってたぞ。

それに、ほら、よく見たら一部が欠けている。安全性を考えたら、これを使いまわす可能性は低いだろう。

だが、使いまわされた結果の欠損にも思える。

うーん。常識の壁。何で持って帰ってきてしまったのだろう。

 

不安を紛らすために「バズーカ 蓋 持って帰る 逮捕」などで検索してみたが、私と同じことをした人のツイートが一件ヒットしただけだった。

とりあえず、バズーカの蓋を持って帰って捕まった人はいないようだ。

 

今更返しに行くわけにもいかない。だいいち、なんと説明したらいいのかわからない。

とりあえず、返す用意はあります。

 

変なタイミングで変なことをしてしまう。そんなところも残念ながら変わっていない。

 

 

<了>