「この借りは返す」と君が言ったから~

私にはレタスという友人がいる。

彼は人間で、別にレタス似の顔ではない。

レタスの葉をはみ、飢えを凌ぐ独居学生だ。

 

レタスの様子がおかしくなったのは、春休みが明けた頃からだった。

学部、学科、ゼミまでも同じなので、私と彼は多くの授業で被っていた。

今年度になってから、彼は授業に穴をあけるようになった。

 

どうやらレタスは、最近始めたバイトに(精神的に)忙殺されているようだった。

彼は遊び人ではない。

遊ぶ金欲しさにバイトを詰め込むような人間なら、私とは付き合わないだろう。

 

経験としてバイトを始め、ストレスを抱えている、そんな感じだった。

私は実家暮らしでバイトもしていないので、純粋にレタスを尊敬していた。

だから純粋に友人として、できる限りのサポートをすることは吝かではなかった。

 

私が板書を見せる度に、レタスは「この借りは必ず返す」と言った。

三者からすれば、ぶっきらぼうに聞こえるだろう口調で。

彼は「この借りは必ず返す」と連呼した。

 

レタスが本心からその言葉を言っていることは私には分かっていた。

しかし、彼の「この借りは必ず返す」を聞くたびに私は可笑しくなった。

なんだか、御礼参りをされるような気分になるのだ。

 

「この借りは必ず返すからな!」

荒野で宿敵然としたレタスが私にそう叫ぶのが容易に想像できてしまう。

「この借りは必ず返す」って悪役のセリフじゃないか?

 

件の借りは私が風邪でダウンした時に返してもらった。

レタスは愉快ですばらしい友人だ。

 

 

今週の読了本

若竹七海さんの『ぼくのミステリな日常』-若竹七海シリーズ第一弾。

(1996年、創元推理文庫)

社内報の編集長に抜擢され、若竹七海の不完全燃焼ぎみなOL生活はどこへやら。慣れぬカメラ片手に月刊『ルネッサンス』創刊に向け、準備おさおさ怠りなく。そこへ「小説を載せろ」とのお達しが。プロを頼む予算とてなく社内万歳ともいかず、すまじきものは宮仕えと嘆く間もあらばこそ、大学時代の先輩に泣きついて匿名作家紹介と相成った。かくして月々の物語が誌上を彩り・・・・・・

-裏表紙より引用

 

若竹七海さんのデビュー作をついに読んだ。

社内報の連載小説のテイをとった十二の短編小説と、若竹七海編集長による編集後記、匿名作家への依頼の経緯・後日談を描く手紙のやり取りからなる入れ子構造の連作短編集。

タイトルの「ぼく」は匿名作家のことであり、一年分の短編はすべて彼の体験談に基づいている。

 

一編一編がもっっっっっちろん面白いのだが、○○にとんでもないことが起こる。

やられた、毎度のことながらやられた。

これがデビュー作だなんて凄すぎる。

 

 

今週の些事

www.nhk.jp

・『へんな気持ち』のモノローグが佐藤雅彦さんの声に聞こえる

 

 

<了>