低燃費男は面接に向かない

私のスマホはめったに鳴らない。

そんなスマホに不在着信の通知が来ていた。

知らない番号だ。見たことがない先頭三桁。

 

偽装発信の可能性も考慮し、番号をネット検索した。

私が通う大学の番号だった。しかし、学部がまるで違った。

だから無視した。間違い電話だと思い込みたかった。折り返しなんて御免だ。

 

しかし間違いではなかった。

再び同じ番号から着信があった。

電話には出そこなったが、ただごとではないことは分かった。

 

仕方なく折り返すと、電話に出たのは沈黙だった。

私から名乗るべきなのか。

電話慣れしていないので自信はないが、「はい、○○大学○○課です」という応答があるものだと思っていたのだ。

 

え、俺のターンなの?

何と言ったらいいか分からず「えー、あの。KETSUBINGOです。お電話いただいたみたいで、あのー」としどろもどろ。

そうしたらオペレーターとしては百点満点な無機質な声で「学籍番号とお名前をどうぞ」と返ってきた。

 

やばい、嚙み合ってねー。

なんとか互いに歩み寄り、用件を聞き出せた。

そこで私はお金が貰えるチャンスが舞い込んでいることを知った。

 

学生専用サイトのマイページにログインすると、通知の最下部にその知らせが来ていた。

危ない、というかアウトだ。電話が無かったら完全に見過ごしていた。

私には通知を見落としてガイダンスをすっぽかした前科がある。

 

しかし、こちらにも言い分がある。

重要な知らせなら一番上に表示してくれ。なぜ最下部。

タップしないと気付けないなんて罠も同然だ。

 

ともあれ、私には富豪になるチャンスが舞い込んだ。

しかし、タダじゃあ貰えない。

面接をクリアしなければならない。その相手は通知の発信者-学部長だろう。

 

名前しか知らない学部長。なんなら名字の漢字も読めないくらいだ。

一週間後だ。

どうする、面接。

 

面接が控えているというデカすぎるストレス。もうなんも手につかん。

教習所以来だ。

心労がたたって、謎の体調不良に見舞われた。

 

病み上がり間もなく、私は面接を受けた。

そこに学部長はいなかった。

学科数を考えれば、分かりきったことだった。

 

学生3対教授2の集団面接。

授業についてや、友人関係について聞かれた。

友人関係が極狭の私は“良いように言う”ことによってそれらの質問を切り抜けた。

 

最後の質問はお金の使い道だった。

いのイチに私に振られる。

私の頭には刑事コロンボ古畑任三郎のコンプリートBOXが即座に浮かんだ。

 

結局「本を買います」と私は言った。小学生みたいな返答だが、これも事実だ。

コロンボと古畑はCSで観ればいい。

もっとも、向こう五年分くらいの本を積んでいるので、本を買う必要もないのだが。

 

残りの二人は「ゼミのための観劇代に充てる」、「資格の本を買う」と言った。

良い顔をしおって。

低燃費な男に金の用途を聞くなんて酷だ。

 

もしもお金が貰えなかったとしたら、私はブログをやっていることを教授陣に公表しただけの男になってしまう。

まあ、いい。

本とブログとドラマの再放送がありゃ、生きていけるさ。

 

 

今週の読了本

若竹七海さんの『心のなかの冷たい何か』-若竹七海シリーズ第二弾。

(2005年、創元推理文庫)

失業中のわたしこと若竹七海が旅先で知り合った一ノ瀬妙子。強烈な印象を残した彼女は、不意に電話をよこしてクリスマス・イヴの約束を取りつけたかと思うと、間もなく自殺を図り、植物状態になっているという。悲報に接した折も折、当の妙子から鬼気迫る『手記』が届いた。これは何なのか、彼女の身に何が起こったというのだろう? 真相を求めて、体当たりの探偵行が始まる。

-裏表紙より引用

 

第一部「おれのなかのどうしようもなく冷たい何か」と第二部「蒼い闇」からなる著者初の長編小説。デビュー作『ぼくのミステリな日常』の続編でもある。

とあるきっかけで仕事を辞めた若竹七海は、思いつきの箱根旅行の道中で一人の女性と出会う。彼女-一ノ瀬妙子ははっきりと物を言う、自己中心的な思考を持つ女性だった。男の趣味から何もかもが合わないはずの七海と妙子は何故だか友人になった。

約束のクリスマス・イヴが近づいた頃、一ノ瀬妙子は自殺を図った。自殺は未遂に終わり、彼女は植物状態になった。

彼女からの手記を受け取った七海は、探偵することを決意する・・・。

 

葉村晶のエッセンスを感じる、ビターな作品だった。

そして、またしてもやられた。

皆さんも気を付けてください。

 

 

<了>