アイコン探偵K

LINEを眺めていたら、友人の誕生日が十分後に迫っていることに気付いた。

彼には毎年おめでとうLINEを送っている。

せっかくだからと、今年は午前零時ちょうどにメッセージを送った。

祝いの言葉に、恋人の有無を確認するメッセージを添えて。

 

翌朝、返信が来た。

零時ちょうどにメッセージを送ったことには特に触れず、感謝の言葉と、彼女ができたという報告があった。

 

もっとも、私はこの答えを予期していた。

彼のLINEのプロフィールの画像が、やけに高画質の山の画像(フリー素材)から手撮りの花火写真に変わっていたからだ(アイコンは可愛らしい落書きに変わっていた)。

知り合ってから五年あまり、ずっと同じフリー素材だったのが、突然変わったのだ。

この手の人間はそう簡単にプロフィール画像を変えない。私もそうだからわかる。

 

そして、花火の写真。

車窓からついでに撮った風はなく、立ち止まって撮ったものと思われる。

家のベランダから撮ったものなら、信頼と実績のフリー素材には勝てないだろう。

つまり彼は、自分から花火を見に行ったのだ。

この手の人間は自分から花火を見に行かない。私もそうだからわかる。

 

彼は誘われて花火に行ったのだ。

誰に?友人に?

この手の人間は花火に行くことを提案するような人間とはツルまない。私もそうだからわかる。

すなわち恋人。Q.E.D.

 

プロセスはともかく、私の推理は的中していたわけだ。

俺をなめるな。こちとら、相棒・古畑・コロンボ全部観てんだ。

 

まあ、素直に自供しただけ良しとしよう。

もしもお茶を濁されたりしたなら、ネットで拾ったアイドルのお出かけ写真(自撮りではないもの)をマイハニーだと騙って送りつけていたことだろう。

後ろめたさと孤独に閉ざされた人生を送ることになっていただろう。

 

俺は彼に救われた。

彼は遠くに行ってしまった。

もう、「私もそうだから」なんて言えない。

 

 

ハシビロコウin鎖骨

 

 

中学の同窓会の詳細が発表された。

会費が高い。1,000円ぐらいで済むと思っていた。

「行かない」寄りの様子見をしていたら、私をグループに引き入れてくれた友人が退会していた。

もう、これは行かないな。

 

しかし、私は退会しなかった。

行く人は三年次のクラスと名前を送信するシステムなので、今はユーザーネームと本名を照合するチャンスなのだ。

 

私はアイコン探偵として、張り込みと予想を二か月続けていた。

誰が誰で、いつ、どこで、誰と、何をしたか、恋人はいるか。

紐づけられたインスタも、登録を勧めるメッセージが表示されるまでの数十秒で見れるだけ見ていた。

抜けるわけにはいかない、答え合わせをするまでは。

 

それなのに、愚者の提案によって出席確認がグーグルフォームに変更されてしまった。

LINEの通知が煩わしいんだとさ。

ふざけるな!こっちはその通知を楽しみにしてたんだぞ!

煩わしいだぁ?!LINEの通知が来ない人間の気持ち考えたことあんのか!

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

ハァー、ハァー、ハァー。

やめてください。私からLINEを奪わないでください。お願いします。

 

いや、もう無駄だ。そんなことはわかってる。

もう、こんなことはやめよう。

着物を着て古街に佇む画像を見て何になる?

夏の海でネックレスを光らせている画像を見て何になる?

もはや誰かもわからないプリクラを見て何になる?

 

本当に、インスタをやっていなくて良かった。あんなもの、時間がいくらあっても足りない。

 

アイコン探偵は廃業しよう。

今じゃなくていい。

別に。

 

 

<了>