月刊ドラマを、読む。プラスワン

アマゾンで買った中古の月刊『ドラマ』、月刊『シナリオ』を読む。

いずれも定価以上だったが、今回購入した号はブックオフオンラインでは取り扱われていないため、入手できただけでもラッキーだ。

 

まずは月刊『ドラマ 2008年2月号』-(テレビ)ドラマの脚本専門誌。

(2008年、映人社)

『相棒』特集として、4作品(5本)の脚本、輿水泰弘さん・松本基弘プロデューサーへのインタビュー、櫻井武晴さん・古沢良太さん・戸田山雅司さんの「作者ノート」(自作解説)、シナリオ作家の桂千穂さんによる評論が掲載されている。

以下、掲載順に感想など。

『相棒』へのファンレター 桂千穂 P6・7

※目次では「ファンレター」ではなく「ラブレター」となっている。

碩学」が「本稿を書くべきだ」という前置きがなされているが、イギリスミステリーやアメリカのハードボイルドの流れを踏まえたうえでの『相棒』論は、『相棒』以外をほとんど知らない私にとって勉強になるものだった。

杉下右京=ブラウン神父」説が唱えられている点も興味深い。

『相棒』生みの親のひとりである輿水さんによれば「杉下右京=ポワロ+コロンボ」だが、輿水作品の中にはシーズン2「神隠し」やシーズン21「13」のように劇中に「ブラウン神父」が登場するものもあるため、『相棒』が「ブラウン神父」の影響を少なからず受けているのは間違いないだろう。チェスタトンも読まなきゃ。

 

脚本家人生の半分は『相棒』を書いていた 輿水泰弘 P8~13

※『ドラマ 2014年2月号』に再録(略歴の文章は異なる)。

亀山薫の役回りは「僕らと同じ目線の凡人」、ゆえに右京よりもキャラクター作りが難しかった。寺脇康文さんの演技を「ホンに反映させていった」

・「これだけは断言します、右京とたまきは縒りを戻したりしません」

・笑いの要素を入れること、一話完結の枠を壊すこと、ゲストを再登場させることはアメリカのテレビドラマの影響。

 

松本基弘プロデューサーに聞く『相棒』の誕生 P14~16

『相棒』誕生秘話についてはオフィシャルガイドなどでも語られており、以下の記事とも内容が重なる部分がある。

www.tv-asahi.co.jp

 

「ロンドンからの帰還 ベラドンナの赤い罠」「特命係復活」(シーズン2 脚本:輿水泰弘) P17~70

※当初のタイトルは「帰還」「復活」(輿水泰弘インタビューより)。

初回2時間スペシャル+1時間の計3時間(実際は2時間20分くらい)におよぶ壮大な倒叙ミステリ。解散したはずの特命係が、父親と同年代の男たちを毒殺するファザコンの連続殺人鬼・小暮ひとみと対峙する。

・ロンドンのフラットで右京に文句を言いにくる老婆のセリフに「※決して字幕など出さぬこと」という注釈がついている。

・「今日からあたしがママの代わりをしてあげる! ね、いいでしょ?」というセリフがあるなど、ひとみのファザコンの描写が放送されたものよりも強烈。

・最初の殺人について。放送では明確な動機は明かされなかったが、脚本では「恋人を作ったから」という動機が用意されていた。

 

「ありふれた殺人」(シーズン3 脚本:櫻井武晴) P71~88

※『相棒 シナリオ傑作選 pre season-season7』(2011年、竹書房)にも収録(「作者ノート」は除く)。

時効が成立した殺人事件の犯人・小見山が自首してきたが「誰かに狙われている」と主張するばかりで反省の色は見られない。特命係は、「犯人の名前を教えてください」と懇願する被害者遺族の応対をすることになる。毅然とする右京と、葛藤する薫。そんな中、小見山が自宅で殺害されてしまう……。

・「作者ノート」によれば「結末に関しては打ち合わせで最も闘った作品」であり、「希望が見えるエンディングにしてはいけないという想いが強かった作品の一つだ」とのこと。映像と比較しながら脚本を読んだが、カットされたシーンが多少あるものの、結末を含めて放送内容との大きな差異はなかった。

 

「ついてない女」(シーズン4 脚本:古沢良太) P90~106

※『相棒 シナリオ傑作選2』(2011年、竹書房)にも収録(「作者ノート」は除く)。

夫を死に追いやったヤクザを銃撃し、国外逃亡を図る“ついてない女”月本幸子。ひょんなことから彼女と知り合い不審を抱いた右京は、薫に犯行現場と被害者の特定を命じ、幸子の乗る成田行きのリムジンバスに乗り込む。タイムリミットが迫る中、特命係はわずかな手がかりから高飛びを阻止できるのか……。

・右京が幸子を嵌める場面が放送よりも多い。

・薫が幸子のパート先に聞き込むシーンがある。

・名簿を照らし合わせて被害者を特定する場面に捜一トリオもいる。

 

「せんみつ」(シーズン5 脚本:戸田山雅司) P107~125

※『相棒 シナリオ傑作選 pre season-season7』(2011年、竹書房)にも収録(「作者ノート」は除く)。

「本当のことは千のうち、3つもない」ほどの大噓つきで空き巣の常習犯・槇原が奥多摩の別荘に侵入し逮捕されたが、今回ばかりは素直に自供していた。彼と付き合いが長い捜査一課の三浦は不審に思い、内々で特命係に調査を依頼する。実際に槇原と対峙した右京は、別荘に侵入したこと以外はすべて作り話だと気づいて……。

・放送では槇原が別荘に侵入するまでの行動が一部省略されており、警察が駆けつけるまでの時間も57分→15分に変更されている。

・伊丹と芹沢が槇原を取り調べるシーンがある。

・特命係が槇原の持ち物について丁寧に言及している。

・「作者ノート」によれば「特命係に誰かが依頼に来る話」「取調室の安楽椅子探偵モノ」「芝居のような会話劇」というオーダーで作られた。

 

 

お次は月刊『シナリオ 2008年6月号』-映画の脚本専門誌。

(2008年、シナリオ作家協会)

『相棒 -劇場版-』の脚本と、戸田山さんへのインタビューが掲載されている。

 

戸田山雅司~キャッチフレーズは“あげまん”脚本家!?~ P18~27

脚本家・加藤正人さんの連載インタビュー企画の第13回。

『相棒』についてはもちろん、大学時代の話からテレビデビュー・映画進出の話まで。

・スケジュールの関係で『相棒 -劇場版-』を書くことになった。

・「マラソンとチェスが繋がったとき」手ごたえを感じた。

・「全部撮ったら二時間半を超えちゃうぐらいの」情報量。

・「言葉の量が多いの」が『相棒』の特徴。書きすぎてしまうこともある。

 

『相棒 -劇場版-』 脚本:戸田山雅司 P28~73

片山雛子衆議院議員の事務所に爆発物が届き秘書一名が負傷した。警察上層部は左翼過激派「赤いカナリア」の犯行と断定し、特命係には“警護任務”という名のおとり役が与えられる。海外公務のために空港へ向かう道中、一同は姿なき犯人による襲撃を受けるが右京の注意力と薫の腕力により被害は最小限にとどめられた。およそ過激派らしくない襲撃方法に違和感を抱いた右京は、現場に「d4」という記号が残されていたことから、数日前に発生したニュースキャスター殺人事件と同一犯による犯行だと推理する。

・「二時間半を超えちゃうぐらい」の言葉に違わず、カットや変更されたシーンがかなりある。犯行や捜査のプロセスがより丁寧に描かれているほか、内村刑事部長に叱責されたり、芹沢刑事に煙たがられたりと、特命係の立場を示すようなシーンも多い。「守村やよい」が「木佐原康江」に戻る決意を固くしていたのが特に印象的だった。

 

 

最後に月刊『ドラマ 2009年2月号』-輿水泰弘シナリオ集。

(2009年、映人社)

輿水さんの3作品(5本)の脚本とインタビュー、シナリオ講師の柏田道夫さんによる作品分析が掲載されている。

 

長く続いたからこそ出来ることがある 輿水泰弘 P4~8

内容は「掲載作を選んだ理由」「シーズン7の1、2話について」「新人に言っておきたいこと」

以下、輿水さんの発言はすべてこのインタビューによる。

 

『相棒』のおもしろさの秘密 柏田道夫 P10~15

亀山薫卒業から間もなくに書かれた文章とのことで、静かな興奮が伝わってくる。桂さんの評論は海外ミステリを踏まえたものだったが、こちらでは国内の刑事ドラマの変遷から『相棒』の構造が分析されている。ただ、どちらの『相棒』論でも「特命係」というセクションの妙、あらゆる事件への介入を可能にした設定の妙が論じられており興味深かった。

 

「十五年目の真実」「閣下」(シーズン1 脚本:輿水泰弘) P17~68

※放送タイトルは「右京撃たれる~特命係15年目の真実」「午後9時30分の復讐~特命係、最後の事件」

特命係誕生の秘密が明かされる、1時間+最終回2時間スペシャ。再び動き出した15年前の事件に、右京と薫、小野田の特別チームが挑む。

警察庁勤務になりスーツを着るかどうか迷う薫が描かれている(美和子は「いつものスタイルで通したらいいじゃないの」と言っている)。

・「どうしようもなく気が……十五年前の事件を検証するのはやはり……もう降りてしまいたいぐらいです」など、いつになく弱気な右京が描かれている(シーズン16「検察捜査」の脚本でも弱気な右京が描かれていた)。

・右京の名言「もしも限界があるとするならば、それはあきらめた瞬間でしょう」が「違いますねえ。諦めた瞬間が限界になるンですよ」になっている。その後のシーンも少し異なる。

 

「新・Wの悲喜劇」(シーズン6 脚本:輿水泰弘) P69~84

薫と美和子が住むマンションで事件が起きる「Wの悲喜劇」(シーズン5)の続編?エピソード。禁じ手とされる手法が用いられているが、亀山家を訪れた角田課長と上の階の住人・白鳥寿々美がベランダ越しに邂逅を果たすシーンなどは二重の意味でフォローとして気が利いている。

・角田が「呪われてるぞ、このマンション」と言い、薫に引っ越しを勧めるシーンがある。

・輿水さん曰く「通常の刑事ドラマでは有り得ない、奇を衒った作品ですけど、長年『相棒』を書いてきたご褒美として書かせてもらったと思ってます」

・ほかに意識的にタッチを変えた作品としては「シーズン4の最終回『桜田門内の変』。これは警視庁の中で連続殺人事件が起きる。わざとコメディタッチでやったのがあります」

 

「レベル4」前篇・後篇(シーズン7 脚本:輿水泰弘) P85~120

亀山薫の卒業エピソード。国立微生物研究所で殺人事件が発生。自作した殺人ウイルスを持ち去って逃走中の犯人・小菅と特命係が決死の戦いを繰り広げる。

・小菅が殺人ウイルスの元になったマールブルグ出血熱のウイルス株を国内に持ち込んだ方法や、小菅の同僚の長峰研究員が単独で検査をすることになった経緯が描かれている。

・薫が美和子を説得する場面や、薫が警視庁の面々に別れの挨拶をするシーンも若干異なる。最後は特命係の小部屋「再び一人きりになった右京でーー」となっている。

 

・卒業エピソードをシーズン7の最終回にしなかったのは、輿水さん曰く「それでは当たり前だから」「本当は記者発表せずにやりたかった。でも、いつ卒業するか分からないようにしておいた」

・薫の去り方については「その人をことさらヒロイックに退場させるみたいなのは、やめようと話していた。さりげなく去って行く。そういうふうにしよう、というのがあった」「それも途中で、薫の逡巡みたいなことを丹念に描いて行くというようなことは、やれば出来るのかもしれないけど、やらない。だから、冒頭できっかけだけ振っておいて、今度の回(9話)で卒業させるというのだけは決めていた」

 

・シーズン7開始前『相棒 -劇場版-』公開に合わせて放送された特別編(プレシーズン1の再放送に新撮映像を加えたもの)の新撮部分には、小菅や彼のアジトが登場するなど「レベル4」とクロスオーバーする部分があるのだが、ロケ場所やセリフ、逃げた小菅を追跡する右京と薫が上階と地下のどちらに行くかなど、実際の映像には差異が生まれている。しかし今回「レベル4」の脚本では当該のシーンが特別編の新撮映像と完全に符合していることがわかった。

・「犯人が登場して、それを捕まえるまでの、短い新撮の部分を作った。その時に、ウイルスの事件にしようということで、次のシーズン、本編でやりますからと犯人役に袴田(吉彦)さんに出てもらった。いずれにしても、今回のシリーズでウイルスパニックものをやるというのは決めてたんです」

『相棒』特別編はプレシーズンのブルーレイボックスに特典映像として収録されている(DVDボックスには未収録)。劇場版のヒットを記念して放送されたもうひとつの特別編(プレシーズン3の再放送に新撮映像を加えたもの)も収録されているので是非。

 

 

5,000字超え。さすがに書きすぎた。

抜き書きも多いが、脚本もインタビューも実際のボリュームはかなりのものなので、雑誌の価値を損ねることにはなっていないはずだ。

 

『ドラマ』『シナリオ』 ありがとう。いい雑誌です。

 

 

<了>