新型コロナウイルスの影響を受けた若年層を「コロナ世代」と呼ぶらしい。
コロナが流行りだしたのが高一の終わり、高二になる年だったので私も「コロナ世代」だ。
休校、行事の延期、中止が相次いだ。
修学旅行の行先は、はじめは沖縄の予定だったのだが、延期して広島になり、その後再び延期して山梨になった。
その頃にはもう高三になっていたので、不参加の生徒の姿も目立った。
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(「不参加の生徒の姿も目立った」って表現、なんか変。その場にいないのに「目立っ」ている。不在であることが逆にその存在を意識させる的な?まあ、いいや)
旅の目玉は富士急ハイランドだった。
終わりの集合時間だけが決められて、あとは誰とどう過ごそうが自由だった。
今にして思えば、この自由度の高さは先生方なりの気遣いだったのかもしれない。
当時、私には会えば話す程度のクラスメイトが数人いたので、彼らと園内を巡ることにした。
脱出ゲーム系のアトラクションに並んでいる時のことだった。
行列に並んでいる間中しゃべり続けられる人はそうそういない。
五分もすれば沈黙が訪れ、手持ち無沙汰になるのが多分ふつうだ。
私たちもそうだった。
「会えば話す」程度の間柄とはいえ、それほど口数が多い集団ではなかったのだ。
並び始めてしばらくして、会話の萌芽は完全になくなったかのように見えた。
だから私は本を読もうと思った。
旅行中に空白の時間が生まれることを予想していた私は、うっすい文庫本を持参してバスでの移動中などに読んでいた。
当時から積ん読解消に躍起になっていたのだ。
周りがスマホをいじり始めたのを見計らって、私は文庫本を開いた。
すると五行も読まないうちに、一人が「せっかくだからしりとりをしよう」と言った。
そのタイミングがあまりにも良かったので、私は少しムッとした。
電車で空いている席に座った途端に隣の人に席を立たれたときのような絶妙な不快感を覚えた。
スマホは良くて、なぜ本はダメなのか。
目的のある行為だから?
一人だけ有意義な時間の使い方をしようとしたから?
おそらくどちらも正解だ。
だが(彼にとっての)一番の理由は、私が「和を乱した」ことだろう。
行列に並んでいる時間は、退屈や手持ち無沙汰を共有し、皆で苦しむ時間だったのだ。
私が悪かった。みんなでしりとりをしよう。
え、なんで?
なんで、しりとり?
修学旅行に関係なくない?富士急に関係なくない?
それに「せっかく」って何?
しりとりなんていつでもできるじゃん。
あぁ、でも「いつでもできる」ことを日常でやることなんてまずないか。そこは納得。
うーん。
でもやっぱり「せっかく」っていう言い方が気になる。
その「せっかく」って誰にとっての「せっかく」なんだろう。
俺のため?そんな、おためごかしな。
なあ、ホントのことを言ってくれよ。
俺が本読もうとしたのが気に入らなかったんだろ?
今の俺なら分かるよ。
だったらさぁ!
「せっかく」なんて使わずにさぁ!
「お前だけが有意義な時間を過ごすのが我慢ならねぇ!」って言ってくれよ!
そしたらさぁ!
俺はさぁ!
お前をぶん殴ってさぁ!
拳の血で汚さないように本を仕舞ってさぁ!
「しりとりの『り』からね!」って叫んだんだぜ!
なぁ!
みんな!
俺と「しりとり」しようぜ!
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
陽光。朝風呂おじさんの嗚咽。家鳴り。
チュン、チュン、チュン。
あぁ、夢か。
割と悪夢。
「せっかく」って便利な言葉ですよね。
だから私も使おうと思います。
「せっかくだから八口(はちくち)頂戴」
「せっかくだから俺の分も払ってよ」
「せっかくだからビンタしていい?」
友達が少ないことをコロナのせいにしている。
だがそれは違う。
中学時代、友達がいなかった私はひたすらに黒板を消していた。
愛しく儚い存在を愛でるように、優しく、芯には力を込めて撫でた。
Thank you, blackboard. I love you.
葉村晶シリーズ、第二弾。文春文庫の『依頼人は死んだ』(2003年)。
念願の詩集を出版し順風満帆だった婚約者の突然の自殺に苦しむ相場みのり。健診を受けていないのに送られてきたガンの通知に当惑する佐藤まどか。決して手加減をしない女探偵・葉村晶に持ちこまれる様々な事件の真相は、少し切なく、少しこわい。構成の妙、トリッキーなエンディングが鮮やかな連作短篇集。 解説・重里徹也
-裏表紙より
調査員として生きていくことを決めた葉村の約二年間を描いた九つの短編。
若手実業家を狙う悪意と対峙する「濃紺の悪魔」、友人の婚約者の死の真相を調査する「詩人の死」、夏の日に起きた殺人未遂事件を検証する「たぶん、暑かったから」、大学生のレポート作成の手伝いが意外な真相をもたらす「鉄格子の女」、葉村の知り合いの探偵による調査を描いた「アヴェ・マリア」、奇妙なガン通知の調査をする「依頼人は死んだ」、葉村と相場みのりの休日を描いた「女探偵の夏休み」、”夢に出てくる死んだ友人が何を伝えたいのか調べて欲しい”という雲をつかむような依頼に挑む「わたしの調査に手加減はない」、”濃紺の悪魔”が再び登場する「都合のいい地獄」の九編。
『プレゼント』の時は職を転々としていた葉村。今作では全編を通して調査員としての彼女が描かれている。依頼→調査というフォーマットが確立したためか、構成や案件の内容が『プレゼント』よりも入り組んでいる。一人称視点の面白さ、オチのキレの良さもしっかりと堪能できた。面白い、面白いぞ、このシリーズ。
この本を買った自分を褒めてあげたい。
<了>