受難の日々~SPLASH&SHOUT~

教習車は検定の出発点であるガソリンスタンド付近に停車した。

後部座席の運転席側に座っていた私は、後方から車が来ていないことを確かめドアを開けた。

数瞬だけ雨粒を受け、教官から運転を代わる。

 

シートベルトを締め、座席とミラーの調節をする。

ブレーキを踏みながらギアをドライブにして、ハンドブレーキを下ろす。

後方確認と合図を怠らずに慎重かつスムーズに教習車を発進させる。

 

かくして、卒業検定は開始した。

 

幼稚園付近の交差点を右折すると、路傍に佇む老婆の姿が。

横断歩道ではない。渡るのか、渡らないのか。

迷いながらもスピードを落として通過した。

(一時停止するべきだったか?)

 

それでも車は進んでいく。

交差点を左折。そして歩行者の保護。

駐車車両はいないので、左車線を適速で走行。

 

カーブに差し掛かる。

スピードを落として走行。

 

すると、

バッシャーン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

教習車は信じられないほどの水しぶきをあげた。

 

やっべ、終わったわ。歩行者いなかったけど、今のは終わったわ。

バッシャーン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!って。

なに今の。

凄すぎて二度見しちゃったもん。

かつて車が突っ込んで来た時、全く微動だにしなかった俺が。

 

俺驚かせたらたいしたもんだよ。

 

老婆の件、そして水しぶきの件により、車内は私が発する死臭で満ちていた。

 

それでもなんとか終着点までたどり着いた。

もう一人の教習生と交代する。

(クソッ。俺と同じミスをしろ。)

 

私の願いとは裏腹に、車は順調に進んでいく。

みんな運転が上手ぇ~んだ!

 

 

場所を場内に移し、方向変換の検定へ。

 

右に寄るべきところを、少々左に寄ってしまった。

ハンドルを目一杯右に回し、ギアをリバースに。

慎重に後退。案の定、車輪が引っかかる。

 

しかし、予想通りだ。

ハンドルを戻して、そのままバック。

前方にスペースができたところで再びハンドルを右に回し、ゆっくりと前進する。

 

右に寄れたので、気を取り直して車を収めていく。

車体がまっすぐになったらハンドルを戻し、そのまま後退する。

よし、できた。これなら幅寄せの必要もなさそうだ。

 

突然、車を降りる教官。「KETSUBINGO君、ちょっと来て」

え。

急ぎ車を降りて、後方へ。

え。

教習車は尻をがっつりとポールにめり込ませていた。

 

え、ウソ。終わったわ。今度こそ終わったわ。

だって、接触しているもん。一発アウトじゃん。

教官「下がりすぎだよ~。上手くいってたのに、一番悔しいやつだ」

 

 

かくして、卒業検定は終了した。

やらかしと挫折のスパンが短くなってきている。

 

 

私のグループの受験生は奇数だったため、私はさらにもう一名の検定に同乗することになった。

数週間ぶりだとかいうその教習生の運転も安定していた。

みんな運転が上手ぇ~んだ!

 

再び場内へ。

隣接するスーパーの駐車場に入ろうとした他県ナンバーの車が誤って教習所の入口に入ってしまったらしく、じたばたしていた。

それを見た例の教習生が、「もっぺん教習受けたん方がよろしいんとちゃいます?」というニュアンスの発言をした。

 

これから方向変換の検定があるのによくそんなこと言えるな。

あ、もしかして遠回しに俺に言ってる?

 

私の心はささくれだっていた。

 

教官「迷惑だけど、他県ナンバーの車だから許してあげよう。それにしても今日はいろんなことがあるね」

教習生「他にどんなことがあったんですか?」

教官「う~ん。(ちらと私の方を見て)バッシャーン!とか」

 

ちょっと!それ俺のことじゃないっすか!他の人に言わないでよ!

 

なんてツッコんで、語るに落ちるほど私はバカではない。

私は沈黙を貫き通した。沈黙のパレードだ。

 

ああ、やっぱダメだったんだアレ。

 

 

結果発表。

受験番号がいちばん若い私が後回しにされたということは、つまりはそういうことだ。

案の定、私は不合格だった。理由はもちろん接触したから。

採点用紙には点数ではなく、「中止」と書かれていた。一発アウト、恥ず。

 

しかし、路上検定でのミスは左折時の大回りと停止位置だけだった。

え。

老婆と水しぶきは、平気だったの?

 

教官「KETSUBINGO君は脱輪する前に上手く切り返してたから、最後の接触がなかったらギリギリ受かってたのに~」

 

え。

老婆と水しぶきは、平気だったんだ。

 

うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!

 

最悪だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

補習と卒検の予約を取る。

「安心コース」だったので、再受験料はかからないとのこと。

安心コースでよかったーぁ!

 

 

ヘコみ過ぎて買い物するのも忘れてしまった。

最悪な気分のまま、乗り換え駅で電車を待つ。

濡れた傘先でブルドックを描く。

結構、いい線行ってる。

 

でぃずにーまってろよ

 

 

今週の読了本

石持浅海さんの『君の望む死に方』-碓氷優佳シリーズ第二弾。

(2011年、祥伝社文庫)

余命六カ月――ガン告知を受けたソル電機社長の日向は、社員の梶間に、自分を殺させる最期を選んだ。日向には、創業仲間だった梶間の父親を殺した過去があったのだ。梶間を殺人犯にさせない形で殺人を実行させるために、幹部候補を対象にした研修を準備する日向。彼の思惑通りに進むかに見えた時、ゲストに招いた女性・碓氷優佳の恐るべき推理が、計画を狂わせ始めた・・・・・・。

-裏表紙より引用

 

自分を殺させたい日向は、保養所内に様々な細工を施して梶間に対してシグナルを送る。

日向の計画を知らない梶間は、しかし日向のシグナルから復讐の決行を決意する。

「人を殺す」という視点を持った人間にしか伝わらないはずのシグナルを察知した碓氷優佳は、水面下で「人を殺せない」状況を作り上げていく。

 

殺されたい者と殺したい者、そしてそれを防ぎたい者の頭脳戦。

前作『扉は閉ざされたまま』の後日談の要素もあり、とても面白かった。

 

前作と今作はWOWOWでドラマ化されている。

碓氷優佳役はそれぞれ黒木メイサさんと松下奈緒さんが演じたそうだ。

 

DVD、買おうかしら。

 

 

<了>