去年、ディズニーランドに行った。
ベイマックスのコーヒーカップ的なやつに乗ったら、柵のところで踊りまくっている人がいた。
キャストではない。
音楽に合わせて身体を揺らし、時折乗客に手を振る彼の姿にデジャブが起きた。
なぜだろう。
翌朝、謎は解けた。
曇りメガネを拭きながら通学路を行くと、男はそこにいた。
交通整理を担う彼は鼻歌交じりに挨拶を投げかけ、軽やかなステップを踏みながら寝ぼけた自転車や通行人をさばいていた。
「おっはようございま~す♪」
「は~い、いってらっしゃぁ~い♪」
笑顔の魔法は人々に伝染する。
その様は指揮者のようにも見える。
五時起きの身体に染みる純粋な喜びを噛みしめながら歩く。
景色が滲むのはメガネが曇ったせいだけではないだろう。
きっと彼のような人がディズニーランドで踊っているのだろう。
風体が似ていたこともあるが、妙に納得してしまった。
世の中にはディズニーランドが似合う人がいる。
葉村晶、第六弾。文春文庫の『錆びた滑車』(2018年)。葉村シリーズ第三長編。
女探偵・葉村晶は尾行していた老女・石和梅子と青沼ミツエの喧嘩に巻き込まれる。ミツエの持つ古い木造アパートに移り住むことになった晶に、交通事故で重傷を負い、記憶を失ったミツエの孫ヒロトは、なぜ自分がその場所にいたのか調べてほしいと依頼する――。大人気、タフで不運な女探偵・葉村晶シリーズ。 解説・戸川安宣
-裏表紙より
不運すぎる書店員探偵・葉村晶の苦すぎる事件。
付き合いの長い<東都総合リサーチ>の桜井肇からの依頼で、石和梅子の尾行をすることになった葉村。若い男性との面会の後、梅子は青沼ミツエという女性のもとを訪ねる。監視を決め込んだ葉村だったが、突然二人が取っ組み合いの喧嘩を始め、巻き添えを食らって負傷してしまう。梅子に関する謎が解けた彼女は尾行を中断するが、桜井はなぜか二人の喧嘩が訴訟沙汰にならないように仲立ちを依頼してくる。紆余曲折を経てミツエのアパートに住むことになった葉村は、ミツエの孫のヒロトと出会う。ヒロトは交通事故で事故前後の記憶と父親を失っていた。葉村はヒロトの記憶を取り戻すため、彼の父・光貴の蔵書の処分を引き受けるが・・・。
あんまり書くとバレちゃうけど、とにかく苦い。葉村晶、満身創痍。
巻末には恒例のミステリ紹介コーナー「またまた富山店長のミステリ紹介」が収録されている。今回で三回目。ヒロトの父・青沼光貴が海外渡航が多い人物であったということもあり、作中には海外ミステリの名がたくさん挙がっている。ということでミステリ紹介の方も海外ミステリ多め。中学の頃カッコつけて『ローマ帽子の謎』を読んで痛い目を見た私にとって海外ミステリはハードルが高いのだが、とりあえず積んでるドイルやクリスティ、アシモフを解消して慣れていこう。読書って「カッコつけ」で深まっていくと思うんですよね、ホントに。それでいいと思う。
解説は<MURDER BEAR BOOKSHOP>の店長・富山泰之のモデルになった元編集者の戸川安宣さん(「<MURDER BEAR BOOKSHOP>のモデルになったミステリ専門書店<TRICK+TRAP>で働いていた元編集者」というだけであってモデルではないかも)。
初版には限定付録であるシリーズガイドが付いている。文春文庫以外の作品も含めた「葉村晶クロニクル」、「葉村晶語録」、作者である若竹七海さんのインタビューが掲載されている。
仕事上、心にもない謙遜やお愛想をふりまかねばならないので、それ以外の場面では社交辞令は使わないようにしている
-『悪いうさぎ』
葉村語録、最高。
葉村晶、あと一冊。むぐぐ。
<了>