三連休のなかび、我々はカラオケにいた。
絶唱型のMr.タンポポとは対照的に私は羞恥心と格闘していた。
家族以外とカラオケに行ったことがないという点では同じはずなのに、何が私と彼とを分かつのだろうか。
彼は私が知らない曲をたくさん歌った。お返しとばかりに、私も彼が知らないであろう曲を歌った。
要するに私と彼とでは音楽の趣味が異なっていたのだ。
趣味の相違は音楽だけにはとどまらない。私は彼が見てきたアニメや読んできた本を面白いぐらいに経験していなかったし、その逆も然りである。
「人と被らない」という点では共通しているのかもしれない。
そのためか、私は彼と一緒にいるのが好きだった。
休日の朝早くから男二人でカラオケ。しかもフリータイム。
勝手がわからなかったというよりも、損をしたくないという思いで我々は歌い続けた。
片方が歌う間にもう片方が歌いたい曲を予約する。そうして一曲一曲を淡々と、最善を尽くすように歌っていく。
そのうちに羞恥心の殻は剥がれていった。
気が付けば、11時間が経っていた。
我々は駄弁ることはおろか、ろくに食事も摂らずにフリータイムの上限時間が来るまで歌い続けていた。
お互いの持ち歌はとうに尽きていたはずなのに、それでも最後の30分はただただ時間が惜しかった。
完全に喉をつぶしたMr.タンポポとともに店を出ると、空は既に暗く、地面には濡れた跡があった。
私は充足感に満ち溢れていた。そこには疲労も空腹も尿意も存在しなかった。
カラオケでしか得られないものがあることを私は知った。
流れるメロディーに合わせて喉を震わす。それ以外のことは許されない時間と空間。
100%に近い、自分の時間。
映画や演劇、ライブとはまた違う、攻めのエンタメ。
五日後、我々はまたカラオケに行った。そしてこれからも、この交わりは続くだろう。
<了>