DS少年、あやとり少女。

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夏以来、ポケモンをやる習慣がついた。二十日前にパッチールの色違いをゲットしたきり、色違いのポケモンにはお目にかかれていないのだが、成功体験のおかげで続けられている。

私の3DSはスライドパッドが割れて凶器と化している。

なのでスマブラをやるときは親指をえぐる覚悟がいるし、マリカーのジャイロ操作は望まずとも上達した。

ポケモンは十字ボタンで移動できるので助かる。

 

壊れている云々以前に、今どきスイッチではなくDSをやっている人は少ないのではないか。

そんなことを考えていたら、先日電車で制服姿の少年がDSをやっているのを目撃した。その翌日には、あやとりをする制服少女に遭遇した。

スマホではなくDSやあやとりを選択する姿勢、おおっぴらに遊ぶ無垢さに私はささやかな感動を覚えた。

 

そんな彼らを横目に読んだ本たち。

結城充考さんの『奇蹟の表現』シリーズ(電撃文庫)。

 

機動捜査隊の刑事・クロハが無機的な世界で底知れぬ「悪意」に挑む「クロハシリーズ」(光文社文庫)で作者にハマり、さあ次は『捜査一課殺人班 狼のようなイルマ』(2019年、祥伝社文庫)を読むぞ、という時にとある情報を目にした。

それは「イルマシリーズ」には元になった作品がある、というものだった。その元になった作品というのが、作者のデビュー作である、この『奇蹟の表現』シリーズ。予定を変更してこちらを先に読むことにした。

 

『奇蹟の表現』(2005年、電撃文庫)。第11回電撃小説大賞<銀賞>受賞作。

 

登場人物

シマ(シイマ)・・・裏通りで犯罪組織を束ねていた長。電子名簿売買の権利を巡る抗争で、妻子を失い、自身も重傷を負う。手術を経た後は、猪顔のサイボーグ・シマという新たな身分でひっそりと暮らす。復活祭に際し、街の修道院に守衛として雇われる。

ミクニ・・・シマがシイマだった頃から付き合いのある情報屋。シマを「ボス」と呼んで慕い、彼のサイボーグ化と新たな身分の用意にも尽力した。その後もメンテナンスや情報収集でシマをサポートする。

ナツ・・・かつて親に捨てられ、カガミ司祭に拾われた少女。修道院児童養護施設では子どもたちをまとめる役割を担う。修道着を自作するほど信仰心が強いが、同様に気も強いため、不器用なシマに噛み付き、たじろがせることもしばしば。

カトウ・・・修道院の院長。心優しく子どもたちを見守る。シマの身分を簡単に信じてしまうといった、優しさと表裏一体の危うさを持つ。

カガミ・・・ミステリアスな女性司祭。ナツを施設で引き取ることを進言した人物。そのため、ナツから絶大な信頼を得ている。

サカザキ・・・シマのかつての部下。抗争後、シマに代わり組織をまとめる。

ストウ・・・「根源的暗殺者」と呼ばれるクローン・アサシン。

 

あらすじ

違法な臓器売買が横行する時代。街では児童誘拐事件が頻発していた。そんな事情もあって、元ヤクザ・現サイボーグのシマは児童養護施設を併設する修道院の守衛として雇われる。施設で暮らす少女・ナツに亡き娘の面影を重ねつつ、雑用をこなしていくシマ。慎ましく平穏な日々を送る彼のもとに、ある日、かつての部下が現れる。「宝物」を求めて、街々の教会を訪れているらしい彼らは、シマのいる修道院にも徐々プレッシャーをかけ始め……。「宝物」とは、一体何なのか。過去を捨てた男が一途な少女のために再び過去に立ち向かう。

 

感想

人生初ラノベラノベの定義がいまいち分かっていないのだが、読んだ感じでは人物紹介やイラストページがあることと会話文の多さがその特徴なのではないかと思った。登場人物名がカタカナ表記なのは「クロハシリーズ」にも共通しているので、これは作者の特徴なのだろう。

児童誘拐と臓器売買というハードな事件要素、サイボーグ化のメカニズム・機能の設定に顕著な合理的SF要素、アクション要素の三拍子が揃った、読みやすく且つ読み応えのある小説だった。

 

 

『奇蹟の表現Ⅱ 雨の役割』(2005年、電撃文庫)

 

2巻からの登場人物

オズ・・・施錠されていたはずの修道院の納骨堂に突然現れた少年。ナツとシマによって発見される。眉目秀麗で少女に間違われることもしばしば。口元に付着していた血痕と人に怯える態度から何らかの事件に巻き込まれていると判断したナツの計らいによって匿われることに。

ツキオカ・・・ある組織の一員。オズの行方を追って、シマの前に現れる。

イルマ・・・アウトローな機捜隊員。ミツイとクボというサイボーグを引き連れ、オズの行方を追う。道中出会ったシマに対してある疑惑を抱き、挑発的な態度で度々接触する。

 

あらすじ

「あの事件」から半年後、カトウ院長ら大勢の修道女が巡業に発つため、シマは再び守衛として修道院に雇われることになった。ナツとの再会を密かに喜ぶシマだったが、ナツは院長代理を務めるスギノ副院長と反りが合わないらしく、いつになく虫の居所が悪い。

ある日、修道院内にオズという少年が現れる。その風体から事件に巻き込まれていると感じたナツはシマの反対を押し切り、副院長に無許可で彼を匿うことに。町で発生した殺人事件のこともあって嫌な予感を抱くシマだったが、オズを通じてナツとの会話が増えたことには喜びを感じていた。オズの行方を探す謎の男・ツキオカと機捜の刑事・イルマにマークされるシマ。オズの秘密が明かされる時、激闘の幕が開く。

 

感想

前作よりもアクションシーンが増えていた。加えてヒロイン・ナツの赤面シーンなどもあったので、門外漢ながら「ラノベっぽいな」と思った。ナツがオズに対して抱く恋心と、そんなナツの姿を複雑な思いで見守る父親のようなシマがとても微笑ましかった。そしてイルマの登場。挑戦的な様がクロハとは対照的で面白かった。作中に「狼のようなイルマ」というフレーズが出てきたのには驚いた。事件の完全決着は次巻に持ち越し。

 

 

『奇蹟の表現Ⅲ 竜<ドラゴン>』(2006年、電撃文庫)

 

3巻からの登場人物

トウコ・・・ナツのクラスメイト。嫌がらせを受けていたところをナツによって助けられ、それ以来、彼女のことが気になっている。

タイラ・・・所轄署の刑事課主任。サイボーグ殺人事件の捜査でイルマと行動を共にする。犯罪組織と金銭的な繋がりがあると噂されている。

ドラゴン・・・落下死体となって発見された規格違反の竜型サイボーグ。後に同型のサイボーグが街を暴走する。

 

あらすじ

クリスマスの季節、高層建築が立ち並ぶ通りでサイボーグの落下死体が発見された。遺体の腕と脚の一部がもがれていたことから、警察は事件性ありとして特別捜査本部を設置。捜査に参加することになったイルマは所轄署刑事・タイラと共に被害者の身元特定を急ぐ。調べを進めるうちに陰で糸を引く存在が浮かび上がり……。その矢先、死亡したものと同型のサイボーグが街を暴走し始める。その目的とは、一体何なのか。イルマは暴走サイボーグの追跡を開始する。一方、市街地に買い出しに来ていたシマはミクニからの情報で暴走サイボーグの真の狙いを察知して……。因縁の相手との対決が再び始まる。

 

感想

刑事として、守衛としてそれぞれ暴走サイボーグの追跡・制圧を試みるイルマとシマ。リミットサスペンス的な展開に手に汗握る。イルマの登場シーンが多めで、刑事のタイラや鑑識員のツジ、イルマと同班のクロトなど「クロハシリーズ」を想起させる登場人物も新たに登場する。そして伏線がスゴイ。前作から引き続き完全決着は持ち越しに。続巻が刊行されていないのは残念だが、ここまででも十分に楽しめた。

「イルマシリーズ」ではどのように物語が展開するのか。大いに気になる。

 

ラノベに対するイメージを変えてくれた三冊。あとがきや作者紹介も面白いので、是非。

 

予感

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

<了>