はっぱ

数学が苦手だ。

算数は得意だったのだが、文字通り「数学」になってから苦手になっていった。

だましだまし中学数学を乗り越えたが、高校に入学すると苦手は決定的になった。

なんなら入学前の予習課題で既に絶望していた。

 

高校二年からは進路が分かれ、私は文系を選んだが、それでも数学は必修科目だった。

いわゆる「数Ⅱ」と「数B」だ。

 

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数Ⅱの先生はこの人に似ていた。

白髪で良い声で、時々指名してくるけれど、優しい先生だった。

数学を無理に好きにさせようとしないところも好きだった。

 

その先生が最後の授業の時に配ってくれたプリント。

なにかの本をコピーしたものらしい。「十八歳の自分へ」と題されている。

マーカーは昔の私が引いたものだ。よっぽど感動したのだろう。

マーカー部分を要約すると、

1 本を読むべし

2 人生は意外と何とかなる

3 違う世界の人と交流を持つべし

4 人に優しく

5 礼儀を大事に

6 下積みを大事に

7 チャンスは1回

8 ポジティブに

9 できない理由を探さない

10 逆張りの先に答えがある

といったことが書かれている。つんく♂の歌詞みたいだ。

メッセージもさることながら、担任ではない先生がいっときの生徒たちにここまでしてくれたことに感動したのを覚えている。

 

その先生は好きな本についても語ってくれた。

新書でも伝記でも学術書でもなく、時代小説や警察小説だった。

横山秀夫の『64(ロクヨン)』はその中の一作だった。

私が著者の本を手に取ったのはそんな記憶からだった。

-D県警シリーズ第四弾。

 

上巻あらすじ

(2015年、文春文庫)

元刑事で一人娘が失踪中のD県警広報官・三上義信。記者クラブと匿名問題で揉める中、<昭和64年>に起きたD県警史上最悪の翔子ちゃん誘拐殺人事件への警察庁長官視察が決定する。だが被害者遺族からは拒絶され、刑事部からは猛反発をくらう。組織と個人の相克を息詰まる緊張感で描き、ミステリ界を席巻した著者の渾身作。

-裏表紙より引用。

 

下巻あらすじ

(2015年、文春文庫)

記者クラブとの軋轢、ロクヨンをめぐる刑事部と警務部の全面戦争。その狭間でD県警が抱える爆弾を突き止めた三上は、長官視察の本当の目的を知り、己の真を問われる。そして視察前日、最大の危機に瀕したD県警をさらに揺るがす事件が――。驚愕、怒濤の展開、感涙の結末。ミステリベスト二冠、一気読み必至の究極の警察小説。

-裏表紙より引用。

下巻は初版だったので限定付録がついていた。



D県内で発生した交通事故。加害者が妊婦だったことから県警はその氏名を公表しなかった。この対応に記者クラブは猛反発。広報室のトップである三上に対する失望の声も広がった。バリバリの現場刑事だった三上は配属以来、広報室の改革を推し進めてきたが、失踪した娘・あゆみの捜索に赤間警務部長の助けを借りてからというもの、彼の意向に逆らえなくなっていたのだ。そんな事情は知らない記者たちが県警を糾弾する中、警察庁長官による県警史上最悪の未解決事件<ロクヨン>被害者遺族宅への訪問が決定する。遺族への許可取りを命令された三上だが、遺族はその申し出を拒絶。さらに、記者クラブが長官視察の会見をボイコットすることを宣言し、広報室は窮地に立たされる。遺族の拒絶の理由を探るべく、三上は古巣の刑事部に探りを入れるが何故か猛反発を食らう。警務部上層部からは遺族の説得を急かされ、あゆみの失踪により夫婦間の距離も広がってしまう中、三上は広報官として十四年ぶりに<ロクヨン>の謎に迫る・・・・・・。

 

シリーズ初の長編ということもあり、これまでの作品よりもミステリ色を強く感じた。激アツの人間ドラマもこれまで通り楽しめる。匿名問題をめぐって変化する広報室、記者クラブがとにかく熱い。匿名問題について考えるきっかけにもなった。

忘れてはいけないのが、短編集『陰の季節』で主人公だった二渡調査官の暗躍である。彼が三上の敵なのか味方なのか分からないことが、この小説をより面白くしている気がする。

 

三上や広報室に降りかかる困難。D県警を震撼させる新たな“事件”。

全てが見逃せない小説だった。

 

ありがとう、K先生。

 

 

<了>