数日来わが家を跋扈していたデカいゴキブリが、私の右足をかすめた。反射的に両足を椅子の座面に引き上げたが、その素早い動作にも動じることなく、奴はさっきまで私が足を置いていたあたりをちろちろしていた。他人の汗でミネラルを補給するかのようなふるまいは異様で気味が悪く、私は思わず、手近にあったティッシュの空き箱をGに叩きつけた。
しかし、空き箱の重量とスピードでは、威嚇がせいぜいだった。奴は引きすぎたプルバックカーのように迷走しながら椅子の下を駆け抜け、背後にあったリュックサックの陰へと退避。こちらの様子をうかがっている。
私はその隙に母を呼んだ。百戦錬磨の害虫ハンターである母は、右手に数枚のティッシュペーパー、左手にその空き箱を持ち、すでに臨戦態勢である。私は彼女の意図を察し、リュックを持ち上げた。こちらへと向かってくる黒い光を足踏みで追い立て、母が待ち構えるほうへと誘導した。猪突猛進するゴキブリ。母はとっさの判断で、Gに空き箱を被せた。ペーパーの取り出し口を下にしているので、うまくいっていれば奴は今空き箱のなかだ。そのまま野外に放つことができれば万々歳だが、果たして。
静まり返る木曜日の夜。母が慎重に空き箱を持ち上げる。刹那、黒い影が飛び出した。飛び退く母。ゴキブリはそのままキッチンの棚裏に駆け込んだ。万事休す。
しかし、ハンターは諦めない。「蚊に効く」と銘打たれたスプレーを棚裏の隙間にワンプッシュ。
やるべきことはやった。
と、一息つく暇もなく、先刻の(と思しき)ゴキブリが慌てて出てきた。ひっくり返ってスピンしている。スプレーの思わぬ威力に唖然とする一同。その場でただのたうち回るGをティッシュで包み込むのは、歴戦の母ならずとも容易な作業だったに違いない。
これでひと安心。
と、思いきや、今度はデカいゲジゲジが棚裏の隙間から姿を現した。こやつも苦しみながら右往左往している。隙間で休んでいたところにGが逃げ込んできたがために、とんでもないとばっちりを食らったのだろう。奴がその後どうなったのか、もはや言うまでもない。
害虫ドタバタ劇のあと、母の背中を見たらちびヤモリがくっついていた。なにがどうしたらそうなるんだよ。
ヤモリはわが家のアイドルだが、触るとなると話は別。ヤモリを潰さないようにするのは虫を潰す以上に難しいもので、私も母も悲鳴をあげながら、なんとか玄関のすぐ外に逃がした。隙間だらけの家なので、どうせすぐに戻ってくるだろう。
嘘みたいな一連のできごとに、腹がちぎれるほど笑った。映像に残せなかったことだけが心残りだ。
「蚊に効く」と銘打たれたスプレー。虫に直接噴霧するのは本来の用途ではないので推奨しない。商品名を伏せているのもそのためだが、その後も、15cmを優に超えるムカデを2匹仕留め、巨大グモを追い払うことにもひと役買った。
これまでは、殺虫スプレーを用いてもワンプッシュで逃げられてしまうことが多く、ゆえにわが家では化学に頼らないオーガニックなハンティングスタイルが主流だったのだが、蚊対策にたまたま買っていたスプレーが思わぬ効力を発揮した。この毒霧を直接食らった虫たちは、みなその場でのたうち回るのである。見失いがちかつ、見失ったらやばいムカデに対しても有効なのは非常に心強い。なにより、本来の用途である空間散布では小虫以外に影響が及ばない点が優れている。
ハエトリグモの巣
少し前、家の天井の隅にハエトリグモの巣ができた。なかにクモがいたので取り壊すにも忍びなく放置していたが、数日前にふと見てみると、家主の姿が消えていた。
いや、よく見たらそばにいた。繭のようなものだと思っていたので急に出てきて驚いた。君、出られたのかね。
ところが翌日、また巣に籠もってしまった。どうやって戻ったのか気になる。
一日に何度も同じ場所に現れるでかヤモリ
Once
Miss......
Twice
Good!
Great!!!
Excellent!!!!!!
わかります
皆さまのおっしゃりたいことはわかります。ドタバタ逃げるヤモリかわいすぎだろってね。え、違う?おたく虫出すぎだろって?そうですね。確かにその通りですね。でもね、いつもならね、年ごとに頻出虫が違うんですよ。あくまでも体感なんですが、ゴキ、ゲジ、ムカ、クモ、カメムー、ヤモちゃん(特別枠)の輪番制になってるんですよ。でも今年は異常で、カメムシをあまり見かけない代わりにそれ以外がめちゃくちゃ出る。コオロギも出たし、なんならカニも。そしてデカいのが多い。獲物が多けりゃ、捕食者が増えるのは道理なんですが、そうなるとこれまでの輪番制がなんなんだってことになる。ただ姿を見せてなかっただけかも知れませんが、いずれにしても謎ですわ。
今週の読了本
冨樫義博 著『HUNTER×HUNTER No.38』-約2年ぶりの新刊。
暗黒大陸を目指す船内での三つ巴のマフィア抗争は激化。2つの組が共闘し、さらにヒソカを追う幻影旅団も抗争に加わり、エイ=イ一家を狩り始める。その最中、ノブナガは幻影旅団結成のいきさつを追懐し・・・。
-裏表紙より引用。
37巻が出てからもう2年。待ち望んではいたが待つことに慣れてもいたので、2年ぶりの新刊と聞いても「思ったより早かったな」とすら感じてしまう。
内容は上記のあらすじにあるようにマフィアの抗争と幻影旅団の結成秘話がメイン。ゴンどころかクラピカもほとんど出てこない。そのぶん、抗争のパートにはかなりの進展があり、理解も追いついてくる。いやー、面白いねえ。ヒンリギが好きだ。絵の細かさも文字の多さも凄まじい。これなら次巻までいくらでも待てるというものだ。
今回も近所の書店で買った。もともとはチェーン展開していたのだが、現存するのは私が行った店舗だけ。ささやかながら、力になれれば。例のスタンプカードもあと少しで終わる。
「ナツコミ」期間中だったのでしおりが貰えた。『HUNTER×HUNTER』の絵柄がなかったので『ONE PIECE』にした。カン十郎の正体が判明したあたりからアニメの録画がたまり続けているので、大学生であるうちに観なければ。
2冊目は、若竹七海 著『殺人鬼がもう一人』-ダーク・コージー・ミステリ。
都心まで一時間半の寂れたベッドタウン・辛夷ヶ丘。二十年ほど前に連続殺人事件があったきりののどかな町だが、二週間前の放火殺人以来、不穏な気配が。そんななか、町いちばんの名家の当主・箕作ハツエがひったくりにあった。辛夷ヶ丘警察署生活安全課の砂井三琴は相棒と共に捜査に向かうが・・・・・・。悪人ばかりの町を舞台にした毒気たっぷりの連作ミステリー!
-裏表紙より引用。
放火殺人とひったくりが思わぬ展開を見せる「ゴブリンシャークの目」、病死の事件化を命じられた捜査員が暗躍する「丘の上の死神」、祝辞のドタキャン・ご祝儀泥棒・新婦の籠城・・・・・・警察関係者どうしの結婚式で続発するトラブルを面白おかしく描いた「黒い袖」、清掃会社に潜入捜査する砂井と迷惑がる創業家の駆け引きがとんでもない事態を引き寄せる「きれいごとじゃない」、辛夷ヶ丘の“平和”の理由が浮かび上がる「葬儀の裏で」、ある“サービス業”の秘密が明らかになる「殺人鬼がもう一人」の全6編。
どの話も面白かった。「若竹さんの本を読んだなあ」という爽快な読後感。イヤミスなのに笑えるのが不思議。砂井三琴と田中盛のコンビが最高にイイ。脳内配役はシシド・カフカさんと田窪一世さんだった。完全に『ハムラアキラ』と『相棒』の影響。若竹さんの代表作である葉村晶シリーズ、小説は制覇したがドラマ版は未視聴。再放送かソフト化してくれないかな。
この2作品には、とある共通点がある・・・・・・かどうか、ぜひ確かめてみてください。
<了>