■Ⅱ~極悪ツバメは言っている。

隣にいるのは

ごく自然に目が覚めた。時計の針は七時過ぎを指していた。

世の大学生たちが惰眠を貪っている今、世界は大学生抜きで回っている。

 

ドアの開閉音、歩く音、ドライヤーの音。階下で生まれる生活音の数々。

それぞれの音の主が誰であるかは容易に判別できる。

ほんの僅かの優越感と安心感を抱きしめながら、僕は再び眠ろうとした。

 

そのとき、隣のベッドから強烈な気配がした。

恐る恐るそちらを振り返ると、そこにも世界に見放された者がいた。

ツピー、ツピー、ツピー・・・。

 

 

燕の衝動

ツピー、ツピー。

ツバメが鳴いている。

ツピー、ツピー。

僕の鼻も鳴っている。

「ツピー」はみんなに平等だ。

ツピー、ツピー、ツピー。

 

曇天の窓外を特急列車で早送り。

今日こそは日光に行って、世界の循環に戻る。

ツピー、ツピー、ツピー。

 

バスに乗り換えて、空気の薄い方へ。

交通費は気にしない。

ツピー、ツピー、ツピー。

 

滝の近くには生まれたばかりのトンボがたくさんいた。

ガンに群がる線虫たちのように僕の周りに寄ってくる。

僕を祝福してくれている。

 

ツピー、ツピー。

僕の鼻からツバメが飛び出してきた。

ツバメは周りにいた子トンボどもを次々と喰い散らしていく。

 

ツピー、ツピー。

トンボとツバメと滝口へ。

トンボを喰いつくすと、ツバメは人の形をとった。

僕の内面を映す影。凶暴性が水を差す。

 

僕と燕人(えんじん)は抱き合って、滝へと飛躍する。

豪瀑の中、僕たちはひとつになって世界の循環へと還っていく。

昇っていく・・・。

 

ツピー、ツピー、ツピー・・・。

 

ブチ切れるときいつも、ツバメは現れる。

 

僕は還る。

 

ツバメが還れと言ったから。

 

 

ピース。

 

 

<了>