凶夢

俺の部屋で誰かが踊っている。奴は痩身で、真円に近い蒼白の顔面からはなんの感情も読み取れない。両の手をあちこちに突き出す様子はどこか機械的だ。しかし、音は聞こえない。俺は気付く。これは夢だ。俺は音の無い夢しか見ない。

意識を外に向けると、電子音が聞こえてきた。金縛りを解く要領で強引に目を覚ます。午前五時半。薄暗がりの俺の部屋。もちろん誰も踊ってなどいない。夢にしろ、金縛りにしろ、良い予感はしない。

 

午前九時、始業のチャイムが鳴った。大講堂の右前方ー教授の死角ーに陣取った俺は、筆箱の陰に隠すようにスマホを配置する。授業中にスマホをいじるのは初めてだったが、このままうわの空で授業を受けるよりはマシだと思った。学生専用サイトのマイページを更新する。そこには、つい一分前には無かったリンクが表示されていた。震える指でタップする。

表示されたPDFファイルに視線を這わせる。無い。二度三度と舐るように見ても、ページを更新しても、あるべきはずの俺の学籍番号はそこには無かった。

俺の部屋で誰かが踊っている。奴は痩身で、真円に近い蒼白の顔面からはなんの感情も読み取れない。両の手をあちこちに突き出す様子はどこか機械的だ。俺は気付く。

 

これは俺だ。

 

 

 

 


次は誰の凶夢になろうか。

 

GPS

小学三年生の時、理科の授業の一環としてメダカを飼育していた。自らの手で加工したペットボトルの水槽を廊下の長机の上に並べ、カルキ抜きをした水道水を注ぎ、メダカ二匹(オスとメス一匹ずつ)と水草を入れる。水草に産み付けられた卵を観察することが最終的な目標だったのだが、今思えば小学生には難しいお題だったのだろう、多くの生徒がメダカを死なせてしまい、先生に叱られていた。

そんな中、僕のメダカは卵を産んだ。水草に付いた十個程度の卵を給食のゼリーの空きカップに移して観察を続ける。幸運なことに、卵は孵化にまで至った。何の気なしに様子を見たらたくさんの「、」が泳ぎ回っていたのだから、僕は驚いた。どうしよう。稚魚には何をしてやれば良いのか。そもそも、授業ではそこまで習っていなかった。先生に聞こうにも、もう金曜日の放課後だ。

僕は稚魚をそのままにして帰宅した。

 

この判断が間違っていた。

 

翌週学校に行くと、稚魚は干からびて全滅していた。どうやらカップに入れた水が少なかったらしく、土日の間に蒸発してしまったようだ。稚魚はゼリーカップの底にへばりついていた。

僕は本能的に「隠さなければ」と思った。なるべく自然な動作でカップを持ち出すと、他学年のフロアにある流し台まで移動した。そして、人生で最大の罪悪感にさいなまれながら、へばりついた稚魚を指でこすり落とした。

それが終わると、創作の中の殺人犯がそうするように、僕は念入りに手を洗った。ふと左手の親指を見ると、爪の間に何かが挟まっていた。よく見るとそれは、さっき洗い流したはずの、干からびた稚魚の一体であった。

僕はそれから目が離せなかった。すると、干からびて死んでしまったはず稚魚が突然、動き出した。そして、あっという間に爪の中に潜り込んでしまった。親指の爪を通して稚魚を見ると、まるで自分が卵になったような気がした。

 

数日後、目が覚めると、爪の中に稚魚の姿は無かった。どこかに逃げてしまったのだろうか。

 

おそらくその頃だろうか、件の爪の根元に赤い点が出現したのは。それは擦っても、水で洗っても消えなかった。痛みやかゆみ、異物感はないので、トゲが刺さっているわけでも、虫に刺されたわけでもないだろう。

 

不思議なことに、その赤い点は年々移動している。

十年経った今、赤い点はここにある。これが何なのか、どこに向かっているのかは、今もって分からない。

 

動物園

カンガルー「・・・・・・・・・」

 

ライオン「・・・・・・・・・」

 

チーター「緊張と緩和を大切に」

 

レッサーパンダ「・・・・・・・・・」

 

ペンギン「・・・・・・・・・」

 

フラミンゴ「・・・・・・・・・」

 

キツネザル「警戒を怠るな」

 

タカ「風任せであっても、人任せにはするな」

 

カメ「静観する勇気を持て」

 

アナグマ「家が一番」

 

ロバ「冷静なフリをしろ」

 

ハト「周りに溶け込むフリをしろ」

 

ネコ「趣味は義務ではない」

 

マック「置かれた場所で咲きなさい」

 

時計「時間から逃れることはできない」

 

???「言葉にしなければ伝わらないこともある」

腹筋「常識とは多数決である」

 

???「自分を愛せ」

 

 

???「ナルシストであれ」

 

 

 

???「大きな愛でもてなして

 

 

 

 

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<了>