『手当ての航跡 医学史講義』中川米造+星新一(朝日出版社、1980年)

 『手当ての航跡 医学史講義』は中川米造と星新一の対談集。現在は絶版。

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 学者×作家の対談シリーズ「レクチュア・ブックス」の1冊であり、電子書籍化も文庫化もされていない。

 

 

 

 

 

表紙もカバーみたいになっている。

 

装幀:粟津潔

 

中川米造(なかがわ よねぞう) 一九二六年生まれ。京都大学医学部卒業。現在大阪大学医学部教授、医学概論専攻。大学病院で数年間耳鼻咽喉科を担当した後、医学の見直しを志して医学史へと進む。医療、医学史に関する論考・著書での活躍のみならず、現在の医療問題、医学教育についても、実践的な態度で鋭い指摘が多く、注目されている。『医学の弁明』『医学をみる眼』『健康の思想』『医療的認識の探求』などの著書のほかに、多数の論文がある。

 

星新一(ほし しんいち) 一九二六年東京生まれ。東京大学農学部卒業。五七年SF同人誌「宇宙塵」発表の「セキストラ」が江戸川乱歩編集の「宝石」に転載となり、つづいて「ボッコちゃん」「おーい でてこーい」などSF的ショートショートを発表。現在九百編に近い。六八年『妄想銀行』で日本推理作家協会賞受賞。亡父の事業の大正時代の栄光と挫折を描いた『人民は弱し官吏は強し』や時代物短編集『殿さまの日』など。またアメリカのヒトコマ漫画にもくわしい。

-カバーそでより引用。

 ふたりは同い年であるばかりでなく、ともに1997年に亡くなっている。

 

 

ハガキもついていた。

 

 

目次

 

第一講 身体の発見 7

(医学史への動機/ペニシリン渡来の時代/医学は進歩したか/けものの解体/発見を妨げたもの/生命への関心/火をつくり出した人類/解剖と医療/古代中国の医学/鍼灸の起源/病名がつくり出す症状/薬草の利用/高貴薬の効用/古典的な生理観/〝なぜ〟という発想/復活の思想)

 

第二講 治療の思想 53

(医者は魔法使い/自然淘汰と医療効果/病気=不潔の観念/消毒の起源/病気とは何か/薬効とプラシーボ/動物と人間/インカの頭の手術/運命論と医療/遺伝的な制限/治療の対象にならない〝不調〟/人間の環境/食糧の問題/ビタミン/微生物のバランス/ウイルス)

 

第三講 呪術と「手当て」 89

(占いとコンピューター/たばこを求めたヒト/漢方のツボ/催眠術の体験/中国語に〝病気〟はない/金瘡と焼酎/〝痛み〟の文化人類学/「手当て」の起源/医の術と学/医学者のプロフィル/医者と作家/ヒトは自殺する/死因の社会学動物実験)

 

第四講 制度と方法 129

(侍医の時代/開業医の時代/宗教対科学という仮説/病院医学の時代/クランクハイト概念/病歴とりという方法/細菌学/「社会の医学」の時代/安全第一の開業医/メディカル・ネメシス/セルフ・ケア/医者の社会的地位)

 

第五講 先達の軌跡 171

(時代・文化の枠のなかで/毒の研究/古代中国の解剖図/効き目はあれど/死の判定/生物兵器/健康法/共生の関係/偶然の暗合/〝原因〟という考え方/法医学/血液型/人体実験/文化・変化・進化)

 

第六講 精神医学 215

(昔変人いま病人/治療という名の隔離/幸せとは/快感の成り立ち/精神分析)

 

用語解説 237

 

おわりに 241

(講義を終えて 中川米造/講義を受けて 星新一)

 

 

 「医学史講義」とあるので若干身構えてしまったが、節立てが細かく、図表も多くて読みやすかった。

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 とにかく星新一の好奇心がすごい。ショートショートでも扱った鍼灸のツボやプラシーボ効果によほど興味があったらしく、違う話題なのにいつの間にかツボやプラシーボの話に戻ったりしていて面白い。

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 催眠術や焼酎、手の不調の話など、エッセイに書かれていた事柄にも触れられており、こちらも「答え合わせ」のような不思議な気分で読んだ。

 

 

 中川米造は「講義を終えて」で以下のように述べている。

「医学史講義」という副題をつけられて、一冊の本として世に出ることを意識して、なんとか脈絡をつけようと努力したが、たちまち、星さんの誘導に乗って、宇宙遊泳を楽しむことになってしまった。活字になったものを読み直してみると、たしかに話題はいろいろと錯綜してはいるが、肝心なことはだいたいおさえてあるようだ。医学史は、まず楽しくなければならない。

-242頁より引用。

 星新一が核心を突いた質問やショートショートになりそうな仮説を次々と繰り出せるのは、理系だからというよりも、強い好奇心と発想力があるからなのだろう。星新一も、その質問にわかりやすく答える中川米造も凄い。楽しい1冊だった。

 

 

<了>