するしない、するしない。
するしない、するしない。
ボウズにするか花占い。
深夜、道路の真ん中で。
コーンの粒をひと捥ぎ、ひと捥ぎ。
する、パクッ、しない、パクッ。
する、パクッ、しない、パクッ。
コーンの粒は偶数だ。
コーンの粒は永遠だ。
街灯が消えるまで。
する、パクッ、しない、パクッ。
する、パクッ、しない、パクッ。
今日もボウズになれません。
そのままで、学校へ行こう。
体育の授業。
こわい先生。
今日は野球だ。
突き指には気をつけよう。
皆を見回し、先生が手本に指名したのはY君。
Y君はボウズだった。
だけどY君は野球部じゃない。
Y君は科学部だった。
先入観。No Thank You.
科学部ボウズは面白い。
科学部ボウズにギャップ萌え。
おまけに捕球も上手かった。
Y君はクラスを救った。
誰も先生に逆らえない。
僕はY君に憧れた。
科学部ボウズに僕もなりたい。
でもなれない。
勇気がない。
美容室で丸刈りを注文するのはアリか。
甲斐がないのではないか。
バカにしてると思われないか。
「ボウズにしたい」と言う人と、実際にする人との間には天と地ほどの差がある。
葉村晶、第五弾。文春文庫の『静かな炎天』(2016年)。葉村シリーズ第三短編集。
ひき逃げで息子に重傷を負わせた男の素行調査。疎遠になっている従妹の消息。依頼が順調に解決する真夏の日。晶はある疑問を抱く(「静かな炎天」)。イブのイベントの目玉である初版サイン本を入手するため、翻弄される晶の過酷な一日(「聖夜プラス1」)。タフで不運な女探偵・葉村晶の魅力満載の短編集。 解説・大矢博子
-裏表紙より
不運すぎる書店員探偵・葉村晶の七月から十二月を描いた六つの物語。
交通事故を目撃した葉村が火事場泥棒を追う「青い影」、次々に依頼が舞い込む理由を穿つ「静かな炎天」、三十五年前に失踪した作家の謎を追って東奔西走する「熱海ブライトン・ロック」、元同僚の元探偵からの頼みでとある女の調査と立て籠もり犯との交渉をする羽目になる「副島さんは言っている」、”火事で死んだ”作家の依頼で戸籍盗用者の素性を探る「血の凶作」、悪意なき隣人たちに振り回されまくる「聖夜プラス1」の六編。
巻末には「富山店長のミステリ紹介ふたたび」が収録されている。葉村のバイト先であるミステリ専門書店<MURDER BEAR BOOKSHOP>(モデルはあるが実在はしない書店)の店主・富山泰之(モデルはいるが架空の人物)が作中に登場したミステリ小説や映像作品など(主に実在する作品)について解説するコーナー。作中で開催された「風邪ミステリ・フェア」の項では、我らが『相棒』の「右京、風邪をひく」(シーズン8#18、脚本・古沢良太)が言及されている。やったー。星新一の「くしゃみ」も読んだはずなんだけど、スジを忘れてしまった。
様々な依頼人、様々な依頼。負傷もするし、理不尽な目にも遭う。
だけど彼女はへこたれない。
ユーモラスで時にブラックな葉村シリーズは、ずっと面白い。
<了>