『相棒-たった二人の特命係-』こやす珠世

『相棒-たった二人の特命係-』は、こやす珠世による『相棒』のコミカライズ作品。小学館ビッグコミックスペリオール」の2008年第1号から2012年第12号にかけて連載された。全108話完結。単行本は全12集。第1集の巻末には「ぶら~り”相棒”撮影所見学の旅」というタイトルのコミックエッセイが、第4集と第5集の巻末には角田課長と内村刑事部長に焦点を当てた八コマ漫画が「おまけ」として収録されている。

 

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コミック版の脚色

今作では原作としてプレシーズンからシーズン3までの一部のエピソードが採用されている。以下、印象的だった脚色について記していく。

※ネタバレあり

 

第1集 -相棒 誕生-

File1.相棒 誕生

(PS#1「刑事が警官を殺した?」、S1#1「警視総監室にダイナマイト男が乱入!」ともに脚本・輿水泰弘)

プレシーズン第1話の冒頭の亀山薫人質籠城事件と、そのセルフパロディであるシーズン1第1話の冒頭部分が大胆にも一話にまとめられている。「平成のマイトガイ」田端甲子男が右京と薫に対して「あんたら、いいコンビかもな」と言う、粋なシーンがあり、薫のトラブル引き寄せ体質も強調されている。

 

File2.下着盗は危険な香り・・・!?

File3.警ら日誌の謎・・・

File4.まぼろしの男の正体・・・

File5.モンスター強盗と隠蔽事件の行方・・・

File6.正義を貫く覚悟・・・

(S1#4「下着泥棒と生きていた死体」脚本・櫻井武晴、S1#8「仮面の告白」脚本・輿水泰弘)

佐古巡査部長が応援捜査に加わった事件がブックオフ強盗から「モンスター強盗」に変更され、それによって原作の二話が結合している。滝沢署の隠蔽事件の方に重きが置かれており、武藤かおり弁護士は登場しない。三浦刑事よりも先に芹沢刑事が登場する。小野田官房室長、初登場。

 

File7.病院での怪事件

File8.高所恐怖症の飛び降り自殺?

File9.俺の上司に手を出すな!

(PS#3「大学病院助教授墜落殺人事件!」脚本・輿水泰弘)

右京が盲腸で入院したのが爆発事故よりも数日前になっている。見舞いに来るのは薫のみで、たまきが右京の入院を知るのはFile14でのこと。太宰医師への聴取が薫ひとりで行われ、右京が彼に対面した場面が全く描かれていない。

 

第2集 -最後の晩餐はカクテルで・・・-

シーズン6ポスタービジュアルとの比較。

File10.最後の晩餐はカクテルで・・・

File11.店去りし街角・・・

File12.忘れ得ぬ味・・・

(S1#7「殺しのカクテル」脚本・櫻井武晴)

薫と美和子のケンカの原因は薫が若い女の子に車で送ってもらったこと。前後の内容から元ネタはPS#3で鴻野医師に送ってもらったことだと分かるが、File7~File9では当該場面は描かれていない。

 

File13.犯人は落語がお好き!?

File14.元アイドルと麻薬・・・

File15.元アイドルの過去・・・

File16.笑えない落ち・・・そして新たなる殺人事件!?

(S1#3「秘密の元アイドル妻」脚本・櫻井武晴、PS#1「刑事が警官を殺した?」脚本・輿水泰弘)

三浦刑事、初登場。薫がお茶をこぼして青楽師匠に手拭いを取り出させている。事件解決後にばったり会った金子警部と飲みに行き、薫は殺人容疑者に・・・。謎の女の手がかりは「薔薇」。

 

File17.謎の女と容疑者・薫!?

File18.彼女が彼を刺した訳・・・

(PS#1「刑事が警官を殺した?」脚本・輿水泰弘)

悪徳警官・松原の遺体の顔に化粧が施されている。松原の交際相手・小泉綾子の弁護士として武藤かおりが初登場。

 

第3集 -平成の切り裂きジャック!!-

File19.嘘をついているのは誰!?

File20.真相あるいは黒幕の正体

(PS#1「刑事が警官を殺した?」脚本・輿水泰弘)

前巻の続き。早川の写真を女装風に加工したものを本人に突きつけて犯行を認めさせている。

 

File21.三ツ星レストランでの怪事件

File22.家督争いの果て・・・

File23.味のある凶器!

(S2#3「殺人晩餐会」脚本・櫻井武晴)

前話で薫が女装した男に誘惑されたことに憤る美和子。その埋め合わせで薫がレストランを予約したことになっている。ギャルソンの過去と生け花について深掘りされている。薫が食べたイカは凶器ではなく、思いとどまったシェフが作り直した結果煮込みが甘くなってしまったもの。

 

File24.連続殺人事件勃発!!

File25.平成の切り裂きジャック!!

File26.被害者の共通項

File27.犯人は女性・・・?

(PS#2「恐怖の切り裂き魔連続殺人!」脚本・輿水泰弘)

特命係への依頼が張り込みではなく大麻草栽培地捜し。その最中に万引きをして逃走するテンコ(今宮典子)に遭遇し、その追跡中に切り裂き死体を発見する。その後、路上売春の摘発中に彼女と再会し、薫が家裁から補導委託される。

 

第4集 -ベラドンナの罠・・・-

File28.仲違い・・・!!

File29.さらば親友(とも)よ!

(PS#2「恐怖の切り裂き魔連続殺人!」脚本・輿水泰弘)

テンコがバイトするシーンが無い。テンコからのSOSを受けたのが薫ではなく右京。

 

File30.10秒間の殺人!?

(PS#2「恐怖の切り裂き魔連続殺人!」脚本・輿水泰弘、S1#10「最後の灯り」脚本・櫻井武晴)

前話から直結して浅倉の裁判の場面。「ベラドンナ」の伏線と、特命係と武藤弁護士の再会も描かれる。閉廷直後に美和子から撮影所での事件の知らせがもたらされる。「最後の灯り」が時系列に描かれている。

 

File31.ここは何処・・・!?

File32.電気カーペットの謎

(S1#10「最後の灯り」脚本・櫻井武晴)

「海、ですね」に加えて「馬、ですね」というセリフがある。須磨玲子について深掘りされている。

 

File33.ある職人の告白・・・

(S1#10「最後の灯り」脚本・櫻井武晴、S2#1「ロンドンからの帰還 ベラドンナの赤い罠」脚本・輿水泰弘)

動機に「引退を勧められたこと」が加えられている。浅倉が控訴しなかったことを美和子から知らされる薫。

 

File34.キレイな花には毒がある・・・

File35.ベラドンナの罠・・・

File36.早すぎる自白・・・

(S2#1「ロンドンからの帰還 ベラドンナの赤い罠」脚本・輿水泰弘)

時系列が変更されている関係で、右京と薫の所属が特命係のままになっている。

 

第5集 -永遠の夏・・・-

File37.宣戦布告・・・!?

File38.父親の行方・・・?

File39.父の想い・・・

(S2#1「ロンドンからの帰還 ベラドンナの赤い罠」脚本・輿水泰弘)

小暮ひとみの父親について深掘りされている。ひとみ陥落のきっかけが特命係の違法行為ではなく「ワイン」になっている。

 

File40.不可解な凶器・・・

File41.消える銃弾と遺体

File42.自殺の真相・・・

File43.息子は生きている!?

File44.永遠の夏・・・

(S2#4「消える銃弾」脚本・砂本量)

薫が伊丹と射撃訓練をしている。十和田社長がミスリード要員に。事件の鍵は苫篠孝一が描いたスケッチ。タッちゃんの風船をライターで炙って割る薫。次話の伏線あり。

 

File45.[俺を殺してみろ]という男・・・

(S2#6「殺してくれとアイツは言った」脚本・砂本量)

角田課長のみならず、薫もニワトリに襲われている。指入り脅迫状の前にもう一通、脅迫状が届いている。

 

第6集 -忘れ得ぬ結末・・・-

File46.予期せぬ悲劇・・・

File47.筆跡の謎・・・!?

File48.終結宣言・・・!?

File49.忘れ得ぬ結末・・・

(S2#6「殺してくれとアイツは言った」脚本・砂本量)

米沢が菅原英人から直接サインをもらっている。美和子から緊急対策特命係について聞かされる薫。一通目の脅迫状の犯人が英人の妻のさゆり。手がかりが「旧字体」ではなく「改行」に。

 

File50.忘れ物は何ですか!?

File51.ちぐはぐな遺体

File52.思いがけない解決!?

File53.自首する男・・・

File54.秘書が勝手に・・・!?

(S1#1「警視総監室にダイナマイト男が乱入!刑事が人質に⁉犯罪の影に女あり・・・」脚本・輿水泰弘)

菅原英人刺殺事件を新聞報道で知る特命係。「クイズ王」の伏線が張られている。裏帳簿にシーザー暗号が用いられている。

 

第7集 -ゲームという名の犯罪・・・-

File55.命の重さ・・・

(S1#1「警視総監室にダイナマイト男が乱入!刑事が人質に⁉犯罪の影に女あり・・・」脚本・輿水泰弘)

薫が産婦人科に行ったことが事件解明の鍵に。「クイズ王」の前日譚が描かれている。

 

File56.殺人クイズ!!

File57.ゲームという名の犯罪・・・

File58.完璧なアリバイ

File59.恨まれる理由・・・

File60.愛無きプライド・・・

(S2#12「クイズ王」脚本・深沢正樹)

手がかりは「ネクタイ」と「三脚の跡」。滋賀県の県庁所在地を間違える伊丹。

 

File61.美和子の隠密行動!?

File62.ある精神科医の死・・・

File63.診察室の謎・・・!?

(S2#5「蜘蛛女の恋」脚本・砂本量)

婚活パーティの前日譚が描かれている。七森雅美に依存されるのが薫ではなく伊丹。

 

第8集 -ありふれた殺人事件・・・-

File64.伊丹の恋・・・!?

File65.蜘蛛の糸

(S2#5「蜘蛛女の恋」脚本・砂本量)

狙われる伊丹を利用する特命係。

 

File66.身勝手な自首・・・

File67.時効犯の情報・・・

File68.復讐殺人!?

File69.悲惨な面会・・・

File70.ありふれた殺人事件・・・

(S3#11「ありふれた殺人~時効成立後に真犯人自首⁉」脚本・櫻井武晴)

薫と浅倉の面会が描かれている。二十年前の事件の被害者が一人ではなく二人に。

 

File71.薫の”報告”・・・

(S3#11「ありふれた殺人~時効成立後に真犯人自首⁉」脚本・櫻井武晴、S2#21「私刑~生きていた死刑囚と赤いベルの女」脚本・輿水泰弘)

薫が被害者の墓参りをしたことで遺族の溜飲が下がる。浅倉が拘置所の屋上から身を投げる。

 

File72.浅倉の容体

(S2#21「私刑~生きていた死刑囚と赤いベルの女」脚本・輿水泰弘)

薫の謹慎が尾を引いている。浅倉が記憶喪失になる展開が無くなっているほか、拘置所での事件に多数の脚色がなされている。

 

第9集 -あばよ、浅倉!!-

File73.刑務主任の死の謎

File74.仕組まれた停電?

File75.中津の経歴

File76.二つの事件の繋がり

File77.あばよ、浅倉!!

(S2#21「私刑~生きていた死刑囚と赤いベルの女」脚本・輿水泰弘)

武藤弁護士登場。彼女が浅倉との面会中に聞いた放火殺人事件が鍵に。薫が浅倉の散骨をする。

 

File78.瑠奈の友人

File79.前科者

File80.暗号の意味

File81.少女の祈り

(S2#13「神隠し」脚本・輿水泰弘)

前話の後日譚が描かれている。吉田一郎が若い男に変更されている。

 

第10集 -「光る風の少年」-

File82.「光る風の少年」

File83.あいつの別の顔

File84.俺も騙されていた?

File85.残されていた指紋

File86.協力の理由

(S1#6「死んだ詐欺師と女美術館長の指紋」脚本・砂本量)

土田雅夫について深掘りされている。

 

File87.目撃者

File88.完全犯罪?

File89.”覚えていない”

File90.異なっていたもの

(S2#20「1/2の殺意」脚本・深沢正樹)

冒頭でヒロコママがひったくりに遭う。薫がヒロコに会うのはこれで二度目。双子姉妹のビニール傘の絵柄が大きく違う。

 

第11集 -因縁の男、出所-

File91.双子の真実

(S2#20「1/2の殺意」脚本・深沢正樹)

岡村留美も殺人事件の容疑者として連行されている。

 

File92.因縁の男、出所

File93.被疑者浮上

File94.違和感

File95.新たな証言

File96.遺したもの

File97.最期の正義

(S3#13「警官殺し~銃に残された赤い指紋」脚本・櫻井武晴)

薫が阿部貴三郎の人質になった経緯が回想として明かされている。右京と薫が対立しているほか、事件捜査の過程が脚色されている。特命係の廃止が決定する。

 

File98.よみがえる記憶

File99.現場の「跡」

(S1#11「右京撃たれる 特命係15年目の真実」脚本・輿水泰弘)

右京が狙撃されるのを薫が目撃している。狙撃犯が現場に物証を残している。

 

第12集 -最後の真実-

File100.17年前、あの日

File101.特殊だったモノ

File102.犯人の心理

File103.組織で生きること

(S1#11「右京撃たれる 特命係15年目の真実」脚本・輿水泰弘)

テロリストがピエロの仮装をしている。薫と伊丹が狙撃現場で張り込みをしている。

 

File104.事件の跡

File105.ワイングラスの指紋

File106.そばにいる理由

File107.二発目の銃弾

Last File.最後の真実

(S1#12「午後9時30分の復讐 特命係、最後の事件」脚本・輿水泰弘)

テロ事件があった屋敷跡に関係者が一堂に会する展開になっている。薫が再び人質になるが、足の甲を踏んで犯人確保。薫が美和子にプロポーズ。二人の異動で終幕。

 

感想

上記以外にも細かな脚色や小ネタが満載でとても読み応えがあった。第一話で薫が二度人質になる展開と、「警官殺し」と「特命係、最後の事件」にシーズン7の「最後の砦」と「レベル4」のような位置づけがなされていることがとても面白かった。「殺してくれとアイツは言った」のように事件本筋にミステリ要素が追加されている話もあり、ドラマを見ていても(見ているからこそより)楽しめるようになっていた。

koyasu.blog.jp

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作者である、こやすさんのブログ。裏話が色々書かれている。コミカライズにあたっての脚色についてドラマの制作サイドと揉めたらしいことも書かれている。その結果として、二巻からは表紙の「原案」という表記が「原作」に変更されている(全然、気付かなかった)。

原作との違いを発見することに興奮を覚える質なので、私としては脚色は大歓迎なのだが、ドラマ制作サイドのオリジナルとしての矜持と、マンガとして面白くしたいという作者の思いが衝突してしまったのだろう。

私に言えるのはドラマでもマンガでも『相棒』は面白いということだ。

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『鑑識・米沢の事件簿』も映画化に合わせてコミカライズされている。単行本化はされていないが、電子版なら読むことができる。試し読みもあるので是非。

 

 

<了>