今はもういないあなたが、僕の心を貫いた。
書きたいことはある。書かなければならないこともある。
載せたい画像も、撮りたい動画も、披露したいボケもある。
それでもなんだかやる気が起きない。
思ったことを、思った時に、思った通りにかたちにできればどんなにいいかと考える。
あなたはいつも、僕を慰めてくれる。
コンプレックスをアイデンティティだと思わせてくれる。
越えるべき一線を越えて、いつかあなたに追いつきたい。誰かの心を貫きたい。
転校した同級生のことをふと思い出すように、僕も誰かに思い出されているのだろうか。
夜景を眺めて僕は泣く、億万長者の孤独を想って。
今週の読了本
『捜査一課殺人班イルマ ファイアスターター』(2019年、祥伝社文庫)
結城充考さんによる「イルマシリーズ」第二弾。
あらすじ
東京湾に浮かぶ天然ガス掘削プラットフォーム<エレファント>。大型台風が迫る中、作業員の転落死亡事故が発生。単身現着した警視庁捜査一課の入間祐希は残留物から爆発事件を疑う。施設内の社員へ事情聴取を進める中、外部との通信がダウン、さらに存在しないはずの何者かが液体爆薬の染み込んだ札束を抱え、イルマの目の前で爆死した。姿なき爆弾魔との死闘が始まる!
-裏表紙より
海洋掘削施設を舞台にした異色のクローズド・サークルミステリー。
物語は主人公のイルマ、施設の責任者で今作における助手的ポジションの伍藤(ゴトウ)、爆殺を繰り返す爆弾魔(ボマー)の視点で進行していく。
この形式は前作『捜査一課殺人班 狼のようなイルマ』(2019年、祥伝社文庫)と共通しているが、今作では犯人(ボマー)の正体が明かされないまま話が進むため、前作よりもミステリ要素が強く感じられる。
「イルマシリーズ」が『奇蹟の表現』シリーズ(電撃文庫)をもとに誕生したことは前にも述べたが、今作には同シリーズの主人公「シマ」とヒロイン「ナツ」を彷彿とさせる人物がそれぞれ登場する。
シマは加島(カシマ)という作業員として登場する。加島はサイボーグではないものの大柄で、一人娘を亡くした元ヤクザという経歴や「シイマ」という本名までシマと一致している。
ナツは夏(シァ)という中国人の少女として登場する。夏はイルマの目の前で爆死した謎の男の娘であり、その身なりから保護された当初は少年だと思われていた。性別を誤認される件は「オズ」を彷彿とさせるが、物語終盤で見せる意思の強さはナツのそれであり、「夏」という名前からも彼女がモデルであると思われる。
加島が体を張る場面や夏への感情移入を告白する場面では、『奇蹟の表現』を再び読んでいるような不思議な気持ちになった。
それは今までの読書体験では感じたことがない種類の感動だった。
「イルマシリーズ」も残すところあとニ冊。
どのような面白さ、感動が待ち受けているのだろうか。楽しみだ。
<了>